プロが使うプロ向けボール。アマが使うのはアマ向けボール。スピンがほしければスピン系。飛ばしたければディスタンス系ボールを選ぶ。それらボールにまつわる“常識”は、実はオカルトだった!? ギアライター・高梨祥明がゴルフボールにまつわる“都市伝説”を再考した。

ひとりのプレーヤーが様々なヘッドスピードでボールを打つのがゴルフ

ゴルフボールの開発者にインタビューするときに、努めてしないようにしている質問がある。それは「このボールの対象は、ヘッドスピードでいうといくつくらいの人ですか?」というものだ。経験上、この質問をすると、たいていの開発者はウンザリした顔をする。そして、その後の受け答えはどこか表面的で、リリースベースの形式的なものに終始する。“あ、コイツ、何にもわかってないな”と判断され、手早く切り上げられてしまうわけだ。

過去に取材したことのあるタイトリスト ゴルフボールのフィッティング担当者も、これについては真剣な顔で悩んでいた。我々ゴルフメディアだけでなく、一般ゴルファーにも“ゴルフボールはヘッドスピード別で選ぶべき”という認識が根強くある、というのだ。

しかし、実際はヘッドスピード50m/s以上の米男子プロも、40m/s未満の女子プロ、あるいはトップジュニア選手も、タイトリストゴルフボールであれば、みんなが『プロV1』か『プロV1x』を使っている。ゴルフボールがヘッドスピード別であるならば、この状況をどう説明するんだい? と、こちらが質問してもいないのに逆に問い詰められてしまう始末なのだ。それくらい、米国でも誤解が多いということだろう。

画像: プロ向けボール、アマ向けボールという区分はもはやナンセンスな時代になっている(写真はイメージ)

プロ向けボール、アマ向けボールという区分はもはやナンセンスな時代になっている(写真はイメージ)

「たしかに米男子ツアーのトップ選手はヘッドスピードが55m/s以上出ています。でも、それはあくまでもドライバーでの話なのです。では、その選手は20ヤードのアプローチやパッティングでも女子選手と比べて速いヘッドスピードでボールを打っているのでしょうか? そんなことはありませんよね。ゴルフはドライバーだけで行なうものではありません。だからこそ、我々はドライバーだけのパフォーマンスを考えてゴルフボールを作ってはいないのです。

ゴルフはひとりのプレーヤーが何通りものヘッドスピードでボールを打って進んでいくものです。ドライバーの飛距離だけでなく、ゴルフのプレーがトータルでしやすいボールを選んで欲しいのです」(タイトリストゴルフボール/フィッティング&エディケーションマネージャーマイケル・リッチ氏)

プロが使っているゴルフボールは難しいんでしょ? というのもヘッドスピード別と並ぶ、悪しき先入観の一つ。そんなことを口にすれば、「難しいって何? どういう風になるっていうの?」と、逆質問が飛んでくることは必至である。

今のプロ使用球はディスタンス系でもありスピン系でもある。

しかしながら、世の中にはスピン系、ディスタンス系などというゴルフボールのカテゴリー分けみたいなものがあって、ヘッドスピードというわけではないが、スピン系=プロ向け、ディスタンス系=アマ向けみたいになっている感は否めない。そこでもう一度よく考えてみたいのは、そもそもディスタンス系ってどんなボールなのか、ということだ。

ディスタンス系と呼ばれるゴルフボールのほとんどは、コアが大きく軟らかい構造/性質になっている。これはインパクトでコアが変形し、ある一定の時間が経過すると“リコイル”というバックスピンとは逆向きに回転しようとするチカラが発生するためだと言われている(リコイル現象については、主にダンロップが説明)。実際、ゴルフボールはバックスピンしながら飛んでいくわけだが、飛び出す直前に逆向きのチカラが加わることで、バックスピンの総量を抑えることができるというわけだ。

つまり、ディスタンス系ボールはバックスピンを減らすことで、大きなディスタンスを生み出そうとしているタイプのゴルフボールなのだ。プロ使用球と同じウレタンカバーを使わないのも、少しでも反発を増やし、同時にバックスピンも減らしたいからである。ディスタンス系ボールとは普段、バックスピンが多すぎて飛距離をロスしている人に向けて開発されたボールだということになる。

もちろん、バックスピンが減ればドライバーでは若干飛距離が伸びるだろう。しかし、アイアンやウェッジでは逆にスピンが少なくて止まりにくくもなる。プロやアスリートアマが決してディスタンス系を選ばないのは、ドライバーにおいても適正に近いスピンで打てているということもあるが、本質的にドライバーの飛距離ではなく、アイアンやアプローチ、パットなどスコアメイクに直結するショットのためにゴルフボールを選んでいるからだ。そうしたグリーンサイドからのゴルフボール選びから見れば、止まりにくいティスタンス系のほうが逆に“難しい”ボールといえるのである。

ゴルフボールの開発は日進月歩で、今やプロ使用球でもロングショットでは十分に低スピンで飛ばせる時代である。プロ使用ボールがハイ・スピンで吹き上がってしまう!と言われていたのは、もう20年以上前、ゴルフボールが“糸巻き&バラタ”だった時代の話である。ディスタンス系=低スピン系であるならば、最新のプロ使用球はロングショットではディスタンス系、アプローチではスピン系である。

2019年、新時代「令和」になった。そろそろ昔の感覚でゴルフボールをディスタンス系、スピン系で分けるのを終わりにしないと、いつまで経っても“ヘッドスピード別のボール選び”や“プロ使用球は難しく、アマチュアには厳しい”という都市伝説が語り継がれることになる。ボールだけでなく、ドライバーヘッドもどんどん低スピン化が進んでいる。ドライバーでチーピンやドロップボールが出てしまうようなら、プロ使用球を選んだほうがむしろ綺麗で大きな弾道を獲得できる可能性が高い、今はそんな時代である。

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