クラブの軽量化がツアー若年齢化の背景にはある
ハタチ前後でもトップレベルの活躍を見せる、女子ツアーの若年齢化。その背景には、クラブの軽量化の影響があるというのはプロゴルファーの永井延宏。
「今はジュニア時代から体力に見合った振り切れるクラブでゴルフを覚えられる時代。かつてはスチールシャフトが装着されたパーシモンヘッドを振る体力ができてから10年くらいトップレベルで揉まれて、30歳代から活躍するのが普通でした。しかし、今ではジュニア時代から体力に見合ったクラブで研鑽(けんさん)できるので、ハタチ前後でもトップレベルのステージで活躍できるようになってきたのだと思います」(永井)
昔は「重いクラブをどう操るか」が問われたが、今は「軽いクラブをどう振り切るか」が問われる時代。300グラムを下回る軽いクラブを振り切る技術をジュニア時代から習得してきた今の若手プレーヤーたちが活躍できるのは必然というわけだ。
そして、それによりゴルフという競技自体の性質にも変化が見られると永井は指摘する。
「体操、フィギュアスケートなどの身体能力を競う採点競技はもともと10代の活躍が目立ち、逆にゴルフは技術力の争いであるため、高年齢でも活躍できるというのが定説でした。しかし、現在はそれが覆りつつあり、とくに男性に比べて身体的にピークを迎えるのが早い傾向があるとされる女性にとっては、その傾向が顕著に出ているんだと思います」(永井)
ポイントなるのは、ゴルフが身体能力を競うスポーツへとシフトしつつあるという事実だ。酒場から1番ティに直行するのがプロゴルファーのダンディズムという時代はとうに去り、技術+鍛え上げた肉体の総合力で戦うスポーツへとゴルフは変貌を遂げている。 そのため、ハタチ前後でもトップレベルの活躍ができるようになった一方、20代半ばで突如思ったような活躍ができなくなるケースもある。
あるベテラン女子プロが、「自分の思っていたよりも早いスピードで、世代交代が進行してしまった」と話してくれたことがあるが、その背景にはクラブの進化の影響に加え、身体的な変化にうまく対応出来ないと生き残れないというスポーツとしてのシビアさが、プロゴルフ界にも大きく関係してきたと言えるかもしれない。
全英女王・渋野日向子を中心とした若い選手が活躍している(写真は2019年の日本女子プロゴルフ選手権 撮影/岡沢裕行)
「繰り返しになりますが、以前は重いクラブで技術を覚えていた。そのため、ジュニア時代に身体的にはクラブに振り負けた状態で覚えた技術で、ツアーを戦う選手が多くいました。それが、軽いクラブでゴルフを覚え、クラブに振り負けていない状態でゴルフを覚えた選手たちの登場で一気に世代交代が進んだと考えられます。その新世代の代表が、渋野日向子選手でしょう」(永井)
渋野日向子は野球とゴルフを同時にプレーしていたことから、重いバットで“振る力”をつけたことで、「クラブに振り負けないスウィング」を小学生の頃から身につけている。さらに、野球やソフトボールを経験したことで基礎体力を高められたことが、今の活躍と密接に関わっていると永井は分析する。
クラブの軽量化に伴うジュニア時代からの技術の蓄積。そして、クラブに振り負けない身体的アドバンテージ。渋野日向子はその両方が当てはまる、新しい時代に現れるべくして現れたニューヒロインと言えるかもしれない。