トップ争いの選手が次々脱落。チャン・キムのウイニングパットに間に合うか!?
最終組がホールアウトし、優勝者インタビューやら表彰式やらのセレモニーを待つあいだ、カメラマンの誰かが「はぁ〜」とため息を漏らす声が聞こえます。それを聞いた誰かが「ため息は、からだに悪いよっ」と一言。また誰かが「ため息は心のリフレッシュだよ」と時ならぬ“ため息論争”。
そんな会話を聞きながら「はぁ〜」とため息をつく私。その試合で優勝した選手の写真を撮るのはゴルフカメラマンに課せられた使命。しかし、色々な読み違いが、このようにホールアウト後のカメラマンにため息をつかせる状況を生みました。げに恐ろしき、日本オープン。その最終日を振り返っていきましょう。
晴れて心地よい午前7時50分。昨日ホールアウトした選手を除き、サードラウンドの残りホールからスタートしてゆきました。アダム・スコット組は16番から、塩見好輝、今平周吾、カン・キョンナムの最終組は11番から。最終組は今日26ホールの長丁場です。9時11分、サードラウンドの順位のままの組み替えなし。11分間隔でファイナルラウンドがスタートして行きました。
ツアー未勝利の塩見が踏ん張れるか、塩見の埼玉栄高校の2年後輩ながら、賞金王の肩書を持つ今平が地力で勝るか。まず朝のうちの興味はそこにありました。
フロントナインは最終組を中心に追いかけたのですが、この段階では塩見の粘りが優って今平が中々追いつけません。アンダーパーは塩見一人。他、特段伸ばしている選手は見当たりません。塩見の一人旅状態で2位争いは混沌としています。
迎えた10番ホール。塩見はティショットを右に曲げました。勝利の重圧がそろそろかかってきたかなっと思いましたが、そこから木の狭い隙間を抜けるナイス脱出で、3オン1パットパー。切り抜けました。次の11番パー4は短いながら厄介なホールで、セカンドラウンドで星野陸也がティショットを左ラフに入れてトリプルボギーを打ち、勢いが止まってしまったホールです。
ここで塩見はティショットを左の林に入れてしまいました。万事休す! ボギー以上が連想されます。セカンドショットはグリーンまでは空間が空いている様ですが、枝で覆われていて球を上げられません。
で、やむなく低く出してバンカーへ。距離のあるバンカーショットですが、これが圧巻のショット。ピン手前にピタリとつけ、ナイスパー。鳥肌物のパーです。隣にいたMカメラマンが「神ってるぜ」と一言。同感です。
13番パー3をピン手前にピタリと付けバーディとしたあたりで、塩見の優勝がグッと近づいてきたかに思えました。でも、古賀ゴルフ・クラブの日本オープンの怖さはこの後からでした。14番をダブルボギーとして2アンダー。近づいていた優勝が少しだけ離れたか。でもまだトーナメントリーダーです。15番ティショットはフェアウェイに行きました。
ひと組前の堀川未来夢がイーブンパーにスコアーを伸ばしてきています。ここで隣の16番パー5セカンド地点へ。左ラフからのセカンドショットをフェアウェイに運んだ堀川に、「ナイスショット」と清水重憲キャディの鼓舞する声。そして3打目をピン右に乗せてきました。バーディパットは決まらずパー。むむ残念。
塩見のセカンドショットを撮りに急ぎ16番セカンドに戻りました。3人とも左ラフにボールがあります。なにげなくキャリングボードを見ると、エッ! 塩見1オーバー! ここでセカンドショットを撮っている場合じゃない。このタイミングではフェアウェイを横切れないので、セカンドショットを撮り終え急ぎ17番グリーンサイドへ。
間に合いました。堀川はグリーンオンしていません。グリーン手前のアプローチからパーパット。あっ外した。ボギーでトータル1オーバー。
頭の中で警報が鳴り出し、猛然と18番に向かって走ります。このとき、チャン・キムが意識の中に浮上しました。間に合うか、無理か! グリーン上に小さく小さくパッティングストロークに入ろうとするチャン・キムの姿が見えます。
グリーンには間に合わない。 おおよそ18番セカンド地点あたりから、400ミリの望遠レンズを構えました。ギャラリースタンドから歓声が聞こえ、ガッツポーズの後ろ姿が小さく見えます。これで並んだ。チャン・キムはトータル1オーバーでこの時点でトップタイ。
トップタイ、1オーバーの堀川の18番ティショットはフェアウェイ右のファーストカット。セカンドショットはギャラリースタンドを入れて後方から撮影します。ボールはグリーンちょっと手前。そこからパターで寄せました。急ぎギャラリースタンド下に回り込み、パーパットを狙います。
そして……外した! 外れました。ガクッと膝をつく堀川。まるで去年、惜しくも最終日最終ホールのパットを決められずに初優勝を逃した昨年の日本シリーズの様です。撮影している無言のカメラマンのシャッター音もどこか重苦しい。
あとは塩見待ちです。……とギャラリーからうめき声の様な落胆の声。ライブの実況を見ている人の声です。まだスコアボードに塩見の17番のスコアは出ていません。ほどなくボード上に塩見のスコアーが出ます。ぎゃ!17番トリプルボギー。
塩見かと思いきや堀川、かと思いきやチャン・キム。これほど想定が外れた試合もそうそうありません。思い返せば20年前、ジャン・バンデベルデが18番でクリークに入れてトリプルボギーを叩き敗れた全英オープン「カーヌスティの悲劇」位でしょうか。
この仕事も生涯勉強です。はぁ……。