知識はプロでもスコアは100オーバー。それがゴルフ
私のゴルフ仲間のひとりに、某出版社に勤めるゴルフ編集者がいます。職業柄、彼のゴルフに対する知識はすごいものがあります。
タイガー・ウッズのスウィングの変遷、ジョージ・ガンカス・ゴルフなどの最新理論、解剖学やバイオメカニクス的な部分まで、ゴルフの技術のことならなんでもござれ。その知識には、私も一目を置いています。
でも、その彼は、実際にゴルフをプレーすると平気で100を打つんですね(笑)。ゴルフでは、知識と腕前に相関が見られないことを、彼は雄弁に照明してくれています。いや、決してバカにしているわけではなく(そもそも別にスコアが良くたって悪くたって、楽しければいんです)、私は彼の知識は大いに尊敬しています。
ただ、頭のなかに知識があることと、それをプレーにつなげることはまったくの別物であることは、覚えておいたほうがいいと思います。
たとえば、ゴルファーというのは非常に知識欲の旺盛な人種で、とにかく頭で納得しないとダメという人が少なからずいます。トップではクラブはどこにある? そのときのフェースの向きは? 体のポジションは? 筋肉はどこが収縮している? 熱心になればなるほど、あらゆることが気になってきます。

考えすぎてミスショット…アベレージゴルファーにとっては“あるある”だ(撮影/有原裕晶)
冒頭に挙げた編集者などはまさにそれをプロに聞くのがメシの種。プロゴルファーをつかまえては、トップでの理想的なポジションとはどのようなものかといった質問を投げかけ、微に入り細を穿って記事の体裁に仕立てています。
それらの知識は、スウィングを教えるコーチにとっては非常に重要なものです。それを知らなかれば、生徒の問題点を正確に把握することもできませんし、正しいスウィングに導くこともできませんから。
でも、たとえばプロゴルファーの世界を見ても、スクェアに握る人、フックに握る人とマチマチですし、トップでフェースが開く人もいれば開かない人もいたりします。Aプロにとっての正解は、Bプロにとって不正解であるなんてことはザラにあるでしょう。
そしてなにより、スウィングは始動からフィニッシュまでわずか2秒程度の早業。そのなかで1個1個のポジションごとの動きを意識するなんて到底不可能です。考えすぎると体がスムーズに動かなくなっちゃいますし、ナイスショットのためには体のスムーズな動きや、自分のタイミングで打つことのほうがはるかに大切なのです。

ゴルフでは“自分だけの味”を出すことが大切なのだ(撮影/岩村一男)
ゴルフには唯一の正解なんてありません。それはたとえば「一番おいしいラーメンのレシピ」が存在しないのと同じことです。答えは人によって違う。だから、プロや上級者は、なんとかして自分なりの味を出そうとして、練習なりラウンドなりを積み重ねているのです。
200ヤードしか飛ばないスライサーでも70を切るスコアでプレーできるのがゴルフの奥深いところで、競技でプレーしていても、そんな自分だけの味を持っているゴルファーは「上手いなあ」と感心させられます。圧倒的な飛距離やアイアンの切れ、ましてスウィングの美しさよりも、形は汚いが再現性の高いスウィングや、キレイな球筋ではないけどどこからでも寄せてくるアプローチのほうに、私は凄みというか、畏怖を感じます。
知識は荷物にならないなんて言いますが、ゴルフスウィングにおいては知識は荷物になり得ます。大事なショットには、知識という荷物を一度下ろしてから臨むほうがベター。そのためにも、練習場では250ヤード先までキャリーで真っすぐ飛ばそうといった見果てぬ夢を追うのではなく、自分だけの味、すなわち再現性の高い技やスウィングを追求したほうが、はるかに結果は良くなると思いますよ。