オリジナルウェッジ制作の現場に密着!
ゴルフクラブの選び方といえば各メーカーが送り出す様々なクラブを試打などで吟味していき、良かったものを購入する、という流れが一般的だろう。
ただし、既存の製品よりも自分のフィーリングに合ったクラブを使いたい、というこだわりの強いゴルファーもいる。そして、そのニーズに応えるため「オリジナルクラブの制作」を取り扱う工房も存在する。
今回お邪魔したのは千葉県佐倉市にあるゴルフ工房「ゴルフ工房 ON&OFF」。依頼者からの要望は、自分の使用していたウェッジの再現だ。
再現するのは、キャロウェイ「マックダディフォージド」ウェッジ。現在でもニューモデルが登場している人気シリーズだが、今回の依頼者が愛用するのはすでに生産が終了してしまった過去モデル。
長年の使用でフェースの溝が削れてしまったが、もう新品を手に入れることはできない。でも、どうしてもこの形状がいい……そこで、オリジナルウェッジでの再現を依頼した、というわけだ。
まずはクラフトマンの桑原信明さんが依頼者の要望や元となるウェッジの特徴を聞き取り、鍛造メーカーからヘッドの原型を調達する。
「削っていきながら形状を近づけていくため、ヘッドの原型は完成サイズより一回り大きめ、重量も重めです」(桑原、以下同)
手始めに外周部分から着手。トウ側の丸みやトップラインを、元のウェッジに似せるよう削っていく。「手袋を付けると削った感触がわかりにくい」ためヘッドを素手で持ちながら、まずはシャフトを装着しない状態での作業だ。
火花を散らしながら研磨機で少しずつヘッドを削っていく桑原さん。「0.1ミリ削るだけでもすごく(見た目の)雰囲気が変わる」ため、少し削ってはシャフトを仮挿しして元のウェッジと並べて比較、再度削る、という作業を繰り返す。今回の依頼でとくに難しいのが、ネックとトップラインをつなぐ、湾曲した部分だという。
「しっかりトップラインの曲線を作りつつ、それを上から見た(構えた)ときにネックとつながった直線に見えるよう削らなければいけません」
作業開始から30分で外周部分の削りが終了。シャフトを装着し、接着完了までしばし休憩する。その後、次の削りに移る前に専用の工具を使ってロフト角、ライ角の調整を行う。
「同じ数字にしないと多少顔も変わってくるので、ここで角度を決めてから最終的な仕上げに移ります。今回のウェッジはライ角64度、ロフト角58度ですね」
続いてはソール、ネック付近を削っていく。こちらも外周部分と同様に、元のウェッジと逐一比較しながら作業を進める。一連の作業が終了した頃には作業開始から約1時間が経過していた。桑原さんの顔にも疲れが見え始める。
「1本作るのに約3時間くらいかかります。作っていると、とても長く感じます。他の作業もありますし、だいぶ(精神的に)消耗するので片手間にできる感じではないですね」
続いてはここまでの研磨作業でできたキズを、手持ちサイズの研磨機を使って滑らかになるようならしていく作業だ。
「大きなキズを小さなキズで整える感じです。キズのラインや方向を整えて、キレイな曲面を作っていきます」
ウェッジを台に固定し、作業を始める桑原さん。「手の皮が(研磨機の)振動で剥けてしまう」ためこの作業では手袋を装着して行うようだ。細かな部分は研磨機の電源を切り、手作業で調整。
約40分ほど削り続けると、研摩跡は見る影もなくなりソールもピカピカに。スポンジやすりで最終調整をして、これで研摩作業はすべて終了だ。
このあとはシャフトをカットしてオーダー通りに流さを調整。重量バランスをチェックしたら、グリップを装着する。最後に、ウェッジに刻印された文字の溝に元のウェッジと同じピンクのカラーを入れたら、完成だ。
できあがったものがこちら。
「まったく同じというわけではありませんが、これくらい近づけることができれば(違和感はない)」
取り扱っているのはあくまでオリジナルウェッジの制作。もちろん、より近い原型を使用しているものの、キャロウェイ製の原型を使うわけではないのでスコアラインの切り方や幅などは調整できないし、ソール幅も少し幅広だ。
「本当に瓜二つに仕上げられればそれが一番良いですが、使う原型次第で多少変えていかなければならない部分もあります。似せることだけを考えるとバランスの悪い仕上がりになってしまうので、原型の持つ良さを活かしながら、使われる方が構えて違和感のないよう仕上げるのが大事かなと思います」
どうしてもこれじゃないとダメという愛着クラブは誰にでもあるのではないだろうか。その形状に職人が手仕事でできる限り近づけてくれるオーダーメイドウェッジ、溝がヘタッてお蔵入りしてしまったマイウェッジを持って、また桑原さんの元を訪ねたくなってしまった。