渋野はフェードヒッター? それともドローヒッター?
渋野選手の練習ラウンドで確認したかったのは、球筋です。テレビや写真で、スウィング自体はもちろん何度も見ていますが、球筋、弾道だけは目で見ないとわかりませんからね。
さて、渋野選手ですが、スウィングのシステム的にはフェードヒッターのように見えます。スウィング中にフェース開閉をあまり行わず、トップでもフェース面を閉じたままにしておき、ダウンからインパクトにかけては腰の回転を先行させて打っていくタイプで、PGAツアーでいえばダスティン・ジョンソンや、コリン・モリカワなどに似ています。
実際に練習場でスウィングを見ると、トップで左手甲が伸びる動きを見ても、体の回転量を見ても、いかにもフェードヒッター。実際に、キレイなフェードを連発していました。そこで、旧知の記者に「渋野選手って、やっぱりフェードヒッターなんですね」と話しかけると、「え? ドローヒッターだと思うけど」と意外な回答。どういうことでしょうか。
練習ラウンドに向かう途中、本人に確認してみると、たしかに「イメージはドローですね」という答え。そして、実際に練習ラウンドで、ホールによってドロー、フェードを打ち分けていました。これには心底驚かされました。
プロなんだから、ドローもフェードも打ち分けられるのは当然です。試合ではフェードしか打たないダスティン・ジョンソンだって、ドローが打てるに決まっています。しかし、渋野選手がすごいのは、スウィングのイメージをまったく変えないまま、球筋だけを変えてくるんです。
そして、繰り返しになりますが彼女のシステムは絶対にフェードが打ちやすいはず。逆にいえば、ドローを打つのは相当気持ち悪いはずなんです、本来は。
同じスウィングでドローもフェードも打ち分けている
たとえば、フェース面をシャットに使うドローヒッターに、メジャー2勝の名手、ザック・ジョンソンがいます。ただ、彼は低いトップをとって、インサイドアウト軌道でドローを打ちます。DJ・モリカワ・渋野選手のスウィングとはシステム的に真逆と言ってもいいんです。
私はゴルフスウィングを理屈やメカニズムで分析し、人に伝えるのが職業みたいなところがありますが、正直渋野選手の球筋の打ち分けは理屈を超越しています。そこで、今度はホールアウト後に再度本人に「どうやって球筋を打ち分けているんですか?」と聞いてみました。
「やっぱり右手ですかね。フェードは手を返さないような感じで、右手の甲の角度を変えずに打っていきます。ドローのときは右手の角度を解放していくようなイメージです」
という答えが返ってきました。ですが、普通は右手の甲のイメージひとつであそこまでキレイに球筋を打ち分けることはできません。事実、DJはフェードしか打ちませんし、ザックも基本的にはドロー一辺倒です。
たとえば僕のような凡人ならば、右手のイメージはもちろん、体の運動量を変えたり、そもそもの振っていく方向を変えたりしなければ、そうそうドローとフェードを打ち分けるということはできない……はずなのです、理屈では(笑)。
ちょっと笑ってしまいましたが、やはり渋野さんは天性のものを持っているのだと思います。全英制覇、そして賞金女王争い土壇場での優勝や8打差大逆転を含むルーキーイヤーでの4勝。数々のミラクルを起こしてきた彼女は、やはり理屈を超えたものを持っていることが、今日初めて生で渋野選手をみて、納得がいきました。
ただ、課題がないわけではありません。よく言われるようですが、アプローチはハンドファーストに構えてフェースをシャットに使う分だけ出球が強くなりやすく、球の高さやスピンコントロールがまだ十分にできていないように見えました。それはバンカーもしかりです。
まだまだツアールーキーとのことですので、これから色々なプロの技を見たり、コーチに話を聞いたりして、もっともっと上手くなっていくんだと思います。
パッティングに関しては、とにかく回転のいいボールを打っている印象です。右サイドを一体化して、上手くボールをとらえてキレイな回転のボールを打てています。
弱点、というか伸び代はアプローチ。それ以外は、天性のものも含めて素晴らしいものを持っていることがわかりました。これだけ振れて、球筋をコントロールできる女子選手って、ちょっと記憶にありません。
今週決まる賞金女王争いの結末は果たしてどうなるか、私も楽しみにしたいと思います。