「わきに棒を挟んで打つ」練習が定番
ツアーの練習グリーンでは鈴木愛がアライメントスティック(ターゲットの目印として足元に置くことが多い細い棒)を両わきに挟んで練習している姿をよく見かける。鈴木はその理由をこう説明する。
「ストロークしようと思ったときに肩があんまり動かなくなっちゃうときがあるので、しっかり肩でストロークしようと思って棒(アライメントスティック)を挟んで練習しています」(鈴木)
ただこの練習は鈴木のスペシャルメニューというわけではなく、女子ツアーではよく見かける、いわば定番。ではなぜ棒を挟むだけでなぜ肩でストロークができるのだろうか。プロゴルファー・石井忍はこう話す。
「スティックを挟むことで、手元の運動量が抑えられて、胸郭の回旋を促せます。小さなヘッドを動かすのは、敏感な手先ではなく、胸郭や背中など鈍感な大きな身体のパーツで行いたい。プレッシャーのかかる場面では、尚更その意識が必要になるからプロたちは練習するんです」(石井)
1打違えば何百万違うこともあるのがプロの世界。緊張した場面でも必ず決めなければならないときでも普段通りストロークできるようにプロたちは取り入れているようだ。
怒涛の連勝を始めた頃から始めた「わき挟み+テークバックなし」練習
さて鈴木愛に話を戻すと「TOTOジャパンクラシック」の週からテークバックをしないでボールを転がすという練習も同時に行っていた。これも本人に意図を聞いてみた。
「感覚があんまりよくないときがあったので、手打ちにならないように体で転がすイメージ打ちたくて、やり始めました」(鈴木)
アライメントスティックを挟むだけでも、体で転がすイメージはできそうな気もするが……。再び、石井忍に解説してもらおう。
「テークバックしないでボールをターゲットに転がすのには、手先ではできません。ショット程大きな時間差ではないですが、胸板→リードアーム(左腕)→シャフト→ヘッド。と、力のかかる順序が守られていないと押せないのです。最初からヘッドとボールがくっ付いている状態、つまりテークバックしない状態にすることで動きの順序をより強く意識できるわけです」(石井)
アライメントスティックを挟む練習をしている選手は前述したように多く、テークバックしない練習をしている選手も見かける。しかし、両方同時に行う選手は中々いない。
「スティックを挟むと、手のアクションはかなり抑えることができます。プラス、鈴木選手のようにそこからテークバック無しという条件まで追加すると、かなり手先の自由度が減ります。上級者向けのレベルが高い練習です」(石井)
やっていることは高度だが、その目的は「手打ちを抑え、体の動きで打つ」という基本中の基本。シビれるパットを沈める背景にはこんな地道な努力が隠されていたのだ。
最終戦「LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」で鈴木はどんなパットをみせてくれるのか、見逃せない。