ライ角をアップライトにしてハンドアップに構えてみると……
前回、「三井住友VISA太平洋マスターズ」で史上4人目のアマチュア優勝を果たした金谷拓実のハンドアップなパッティングスタイルについて紹介した。これは、彼独特のものというわけでもなく、スティーブ・ストリッカーやシン・ジエなど、古くから一部のパットの名手が採用してきたスタイルだ。
改めて利点を説明すると、パターのシャフトがより垂直に近づくため、フェースの開閉が少なく、腕にかかるテンションも小さくなる。ボールに近く立つため、ストローク中のヘッドのブレも小さくなるのが特徴だ。ハンドアップに構えると、手首をロックしやすい効果も期待できる。
その優位性の根拠となるのが、パターのライ角は80度以下でなくてはならないという用具ルールだ。裏を返せば、ライ角が90度に近くなれば、それだけパッティングがやさしくなる可能性があるのではないだろうか。
机上で考えてみるのも悪くないが、実際に試してみるのが一番だ。そこで、練馬のゴルフ工房、スタジオCGAでパターのライ角を77度に調整してもらった。多くの工房で対応できる作業だが、パターによっては調整がやりにくいモデルもあるので、お願いする際は工房に確認が必要だ。構えたときのフェース角や座りなどに配慮して作業してもらったが、このあたりは繊細な作業に定評のあるスタジオCGAならではだ。
パターは、テーラーメイドの「TPコレクション ソト」という日本未発売のモデル。ショートスラントネックで本来はフェースの開閉が大きなモデルだ。スタジオCGAの工房主、山崎氏には、アップライトなライ角でストロークするならフェースバランスのほうが相性は良いと勧められたが、使用感の違いをはっきり感じたいので、あえて敏感なパターを実験に選んでみた。
通常のパターのライ角は70〜72度くらいが多い。ライ角77度のパターを構えると、明らかにボールに近く、自然とハンドアップになる、実際に転がしてみると、当たり前だがフェースの開閉が小さく、手にかかるトルクも減るのが感じられる。オートマチックに上げられるので、ストロークは自然とスムーズになる。
サム・スニードが考案したサイドサドルスタイルのパッティングはよく知られている。カップに対してカラダが正対して、カラダの右サイドでパッティングする方法だ。誤解を恐れずに言えば、このアップライトなパターでボールに近く立つと、顔はボールに向けたまま、サイドサドルでパッティングしているような感覚がある。パターが自然と振り子するように、ストロークがオートマチックに感じられる。
早速、ラウンドでこのパターを試してみた。ここでいい結果を出して、ハンドアップなスタイルはすごいという内容の記事にする予定だったが、結果はパット数が「34」と割と平凡。4メートルくらいのパットが一回入ったのと、2〜3メートルのパットが2回ほど入ったの以外は、まあそこそこの結果だ。
しかし、使用感は悪くない。もっとも良いと思ったのは、ストロークがオートマチックなので、あまりプレッシャーを感じずに済むこと。アップライトにするとテークバックが上がりやすいし、自然と下りてきやすいので、パターが動きたい方向に動かしてやると安定する。もう少し試してみたいが、方向性でも安定感でも優位性があるように思う。
個人的には、このスタイルを松山英樹に試してもらいたい。今はさほどでもないが、以前の松山は前傾が深く、スタンス幅が大きいパッティングスタイルで、このアップライトなスタイルとは真逆の姿勢だった。アドレスに入ってから、モジモジっと時間が長い仕草を見ると、スムーズにテークバックが上がりやすいアップライト=ハンドアップはいい影響があるのではないだろうか。
松山のエースパターと言えば、言わずとしれた「スコッティ・キャメロン ニューポート2 GSS」だが、WGC-BS招待を制したときのマレット型や最近でもソール幅の広いパターを使うなど、なんとなくストレート寄りのパッティングアークを模索しているようだ。アップライト=ハンドアップは、そうした志向にマッチするはずだ。一般のアマチュアゴルファーでも、練習だけでも試してみると、パターのトルクの影響が減り、スムーズなストローク感が体感出来るだろう。筆者ももう少し試してみるつもりだ。