最近のドライバーは大型・高慣性モーメントヘッドが主流となっている。今まで小ぶりのヘッドを使用していたアマチュアゴルファーの中には「振りにくい」と感じることもあるだろう。それはプロゴルファーにも当てはまる。ギアライター・高梨祥明が改めてドライバー選びについて考えた。

ドライバーにスウィングを合わせる? スウィングにドライバーを合わせる? 「道」は2つある

一足早く主戦場である欧州ツアーのシーズンが終了。HEIWA・PGM CHAMPIONSHIPから国内ツアーに出場している宮里優作。彼の手には、今年も見慣れないプロトタイプドライバーがあった。昨年手にしていた200cc台のドライバーヘッドよりも少し大きいが、やはり今どきのドライバーからするとかなり小さく見える。宮里のクラブサポートを行なっているブリヂストンスポーツの担当者に取り組みの全容を聞いた。

画像: ヘッド体積が300CCちょっとだというプロトドライバーを使用する宮里優作(写真は2019年のダンロップフェニックス)

ヘッド体積が300CCちょっとだというプロトドライバーを使用する宮里優作(写真は2019年のダンロップフェニックス)

「そのものズバリの数字は明かせませんが、宮里選手が使っているドライバーのヘッド体積は300ccちょっとです。昨年テストしていた200cc台のヘッドも練習ラウンドまではとても結果が良かったのですが、いざ試合に入ると(大きさ的に)少し不安がある、ということで。今年の6月にドイツの試合会場に持って行った3本のうちの1本が、今使っているドライバーになります」(ブリヂストンスポーツ・クラブ事業本部 クラブ企画1部 クラブ評価ユニット/升川泰祐氏)

このトライ&エラーは、宮里が“ドライバーもアイアンと同じようにスウィングしたい”と漏らしたのが発端。現在主流の大型・高慣性モーメントヘッドは、やさしく、飛距離が出るようになった一方で、その他のクラブ(番手)と性質が乖離してきているのは確か。

これに対応するために、【1】大型ドライバーに適したスウィングにチェンジをしてプレーするのか、【2】ドライバーを他のクラブに近づけることでシンプルなゴルフを目指すのか。進むべき道は大きく分ければ二手に分かれているといえるだろう。宮里が進んだのは、後者【2】の道だ。

画像: 振りやすいクラブはどうやら飛距離も出るらしい。「現在のプロトタイプで最初にテストした時、いきなりボール初速が76m/s、バックスピンも2300〜2400rpmの最適値でものすごく飛距離が出たんです」(升川氏) それ以来、このドライバーが“ほぼエース”となっている(写真は2019年の 三井住友VISA太平洋マスターズ 撮影/姉崎正)

振りやすいクラブはどうやら飛距離も出るらしい。「現在のプロトタイプで最初にテストした時、いきなりボール初速が76m/s、バックスピンも2300〜2400rpmの最適値でものすごく飛距離が出たんです」(升川氏) それ以来、このドライバーが“ほぼエース”となっている(写真は2019年の 三井住友VISA太平洋マスターズ 撮影/姉崎正)

「ドライバーは高くティアップするので、地面にあるボールを打つアイアンとは厳密にいえば違うスウィングなのですが、なるべく近いスウィングで対応したい、そういう気持ちが宮里選手にはあります。私も元々プロゴルファーですので、そういう気持ち、感覚的なことはとてもよくわかるんです。やはり、大型ドライバーはオートマチックに動くぶん、自分ではコントロールしにくい。スウィング的にも自分の思っている軌道にスッとヘッドを下ろして来ることができない、“軸ズレ”している感覚があるのです」(升川氏)

宮里優作はじめ多くの選手が感じている、大型ドライバーの振りにくさ。

スウィング中の“軸ズレ”の解消。これが数年続いているトライ&エラーの目的だ。大型ヘッドは慣性モーメントをアップさせるためにどんどんバックフェース側にストレッチ(扁平)していき、重心距離が長く、かつ深重心となっていった。その結果、シャフトの軸線からヘッドの重心点がどんどん離れていってしまっている。それが宮里と升川氏が向き合っている“軸ズレ”の正体であり、ドライバーの性質が他のクラブと乖離してしまっている最たるポイントだ。

「小さいヘッド(短浅重心)にすれば、“軸ズレ”は収まって振りにくさも解消されていく。それが200cc台のプロトタイプでわかったことです。現在は見た目の不安がない大きさを見極め、いかにその中で振りやすい重心位置に持っていけばいいのかを探っている感じです」(升川氏)

小さいヘッドならば余剰重量もたくさんあり、自由な重心設計が可能になりそうなものだが、コトはそんな簡単ではないという。なぜならウェイトをヘッドの一部に集中させるような重心設計では、いくらCAD上の重心設計が狙い通りでも、実際のスウィング中には“不可解な挙動”として感じられてしまうからだ。見た目(形状)からイメージした動きと実際の挙動がズレてしまうのだ。

画像: 昨年宮里が使用したモデル。ヘッド体積“260CC”と小さいドライバーは軸のズレが収まり、振りやすいという(撮影/岡沢裕行)

昨年宮里が使用したモデル。ヘッド体積“260CC”と小さいドライバーは軸のズレが収まり、振りやすいという(撮影/岡沢裕行)

「なるべく均等な肉厚で形状そのもので“軸ズレ”を感じにくい重心設計を実現できないか。今はそれを模索している感じです」と升川氏。まだ、完成の域には達していないものの、宮里は6月以降、基本的にはこれをエースドライバーとして欧州ツアーを戦い、飛距離的にもこのプロトタイプを上回るドライバーにはまだ出会えていないのだという。

契約フリーの選手とゴルフメーカーがタッグを組んで行っている、ちょっと変わったこの取り組みは、現在の“フルサイズありき”の欧米メーカースタイルとは異なる国内メーカー独自のスタイル、ゴルファーにとっては「選択肢」を生み出す可能性を秘めている。

「どうして契約外選手にここまでするのか、という見方もあると思いますが、契約外だからこそこちらも使用実績、結果を気にせずにじっくり取り組めるというところもあるように感じています。その結果、製品化につながる貴重なデータも蓄積することができ、全く新しいドライバーを生み出すことができるかもしれないんですから」(升川氏)

この20年、飛距離アップ、慣性モーメントアップに特化して開発が進んできた最新ドライバー。その劇的変化に対応できず、一線から退いてしまった選手も少なくはない。現ツアーでも宮里だけでなく、石川遼などドライバーへの対応に苦慮しているように見える選手は多い。

躍進する若手、400ヤードを正確に飛ばす欧米のプレーヤーをみれば、現在のドライバーのあり方も間違いないのだろうと思う。しかし、世の中にはその進化(特化)に対応しきれていないゴルファーも確実に存在する。そうしたプレーヤーの「選択肢」となるべき、もう一つの進化の道が、ドライバーにはあるのではないだろうか。最近、そんな気がしてならない。

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