250ヤード飛んでいても30ヤードロスしているかもしれない
スウィングカタリストは、元々はスキーのジャンプ競技のために開発された計測器。一見するとただのマットのようだが、内部には3Dモーションプレート、バランスプレートが搭載され、ゴルファーのスウィング中の圧力の変化や、スウィングのエネルギーとなる“みっつの力”を可視化することができる。
“みっつの力”とは、ホライゾンタル(横移動)、トルク(回転力)、バーチカル(縦の反力)のこと。すべてのゴルファーは、この3つの力をそれぞれ使ってスウィングをしているのだが、スウィングカタリストを使用すると、その割合が一目でわかる。
ポイントは、その割合の最適解は人によって異なるということ。そして、誰もが自分にとってもっとも合う割合でスウィングしているわけではないということだ。
たとえば、身長に対して腕が長いタイプのゴルファーが、回転力を多く使うスウィングをすると腕が振り遅れやすくなる傾向にあるから、トルク(回転)よりもホライゾンタル(横移動)やバーチカル(地面反力)のエネルギーを引き上げたほうがより効率的といった具合だ。
このように、身長や腕の長さ、関節の可動域といったデータから、3つのエネルギーをどの割合で使うべきかは、ある程度わかる。その上で、測定器でみっつのエネルギーのうちのどの要素を使ってスウィングしているかを調べ、効率よく振れるように調整を行なっていくわけだ。
講師を務めたエリック・ブロムクイストは元々はプロゴルファーだったが、今はこのスウィングカタリストを使ってゴルファーのスウィングを研究し、現在はノルウェーのナショナルチームでも教える第一人者。ブロムクイストいわく、重要なのはいかに効率よくスウィングできるか、だという。
「効率のいいスウィングとは再現性が高く、飛距離や正確性があり、ケガや故障のリスクが少ないこと。ボールを打つということにとらわれると、クラブの動きばかり考えてしまい、スウィングするということがおろそかになってしまいます。”打つ”という動きからイメージすると手先を使ってボールに当てにいく動きが入ってしまいますが、体の動きにフォーカスするとクラブの動きは自然と導かれるのです」(ブロムクイスト)
セミナーではアマチュアゴルファーを実例としたレッスンも行われたが、それはまさしく体の動きにフォーカスしたものだった。
「たとえば、やり投げでは投げる腕と反対側の腕や体の動きが大事であるのと同じで、ゴルフでもクラブの動きを意識するのではなく、体のどの部分にどういう順番で力を入れるのかということを意識すべきです」(ブロムクイスト)
実際、体の動きを意識づけるドリルやトレーニングを施すことで、自然とクラブの軌道やフェースの向きが改善されていった。
今までのゴルフのレッスンはクラブの軌道やフェースの向きなどを考えながらボールを打ちに行くというものであったが、ブロムクイストによれば考えるべきはあくまでも体の動き。そして、力を入れる順番(キネティックシークエンス)が、正しい体の動く順番(キネマティックシークエンス)を生むのだと教えてくれた。
「この動きができれば、たとえば飛距離が250ヤードという人が、280ヤード飛ばせるようになるといったことも起こります」とブロムクイスト。30ヤード伸びるとなれば、ゴルファーなら誰でも目の色が変わるはずだ。
セミナーには、井上透、植村啓太、石井忍、目澤秀憲といったプロを教えるコーチたちも多数参加。積極的に質問し、スウィングカタリストで得られる情報をどうレッスンに生かしているのかを聞いていたのも印象的だった。
このように、世界最先端の情報に触れ、スウィングへの理解を深めることで、より質の高い指導ができるようになっていく。それが国内ツアーのレベルアップにつながり、やがては松山英樹や渋野日向子に続くプレーヤーが誕生することにもつながるはず。
今回のセミナーは一般向けではない専門的なものであったが、クラブの動きではなく体の動きにフォーカスすべきという教えは、一般ゴルファーにも大いに参考になるのではないだろうか。
取材協力/エースゴルフクラブ赤坂、エンジョイゴルフ&スポーツ、balancegolf、スウィングカタリスト