計測技術の発達により、ゴルフスウィングのメカニズムが解明されつつある昨今。体の動かし方だけでなく、スウィング中のゴルフクラブの挙動にフォーカスした「ゴルフクラブ力学」なる分野も存在する。その提唱者マイケル・ジェイコブスに師事したプロゴルファー・マツモトタスクが、プロゴルファー、インストラクター、アマチュアゴルファーも参加した身体運動学、クラブ力学のセミナーで、その一端を教えてくれた。

クラブの挙動を安定させるには「引く力を与え続ける」

ゴルフクラブ力学を習得したというタスクプロは、ゴルフスウィングを科学の面から分析した第一人者で、レッスンでは全米トップ50に入るマイケル・ジェイコブスに師事。

タスクプロは、ジェイコブスの提唱する、クラブに加わる力を3次元で考察したゴルフクラブ力学「ジェイコブス3D」のアジア2人目のアンバサダーに認定されたという人物。

画像: マイケル・ジェイコブスに師事し、ゴルフクラブ力学について学んだタスクプロ

マイケル・ジェイコブスに師事し、ゴルフクラブ力学について学んだタスクプロ

サラリーマン時代に海外赴任することが多く、欧米でゴルフをプレーする中でマイケル・ジェイコブスに師事することになったそうだが、「ジェイコブス3D」を理解するには高校レベルの物理を勉強し直すが必要あったそうだ。

「ゴルフクラブは野球のバットやテニスラケットのようにグリップの延長線上に打点がある道具とは違い、重心がフェース面上の重心とグリップエンドを結んだ線上、つまり空中にあること(偏重心)が知られています。この重心のコントロールこそがクラブ力学の基本でありスウィングを理解するうえで重要なことなんです」(タスクプロ)

画像: 偏重心であるゴルフクラブという道具をいかにコントロールするかがスウィングにおいて重要だとタスクプロ

偏重心であるゴルフクラブという道具をいかにコントロールするかがスウィングにおいて重要だとタスクプロ

ここでは詳しい内容は省くが、プレーヤーがグリップを通じてクラブに加わる力は、フォースと呼ばれる三方向(α・β・γ)の直線運動と三方向の回転運動(トルク)、それに直線運動により発生する三方向のローテーションの9要素により説明できるそうだ。そしてスウィング中のその力の大きさやベクトルはジェイコブズ3Dにより計測され、それらは、ニュートンの第一から第三の運動法則とエネルギー保存の法則から導き出されるという。

そして「偏重心であるゴルフクラブの重心の管理をする、すなわち動きを安定させるためには、ゴルフクラブは引き続けなければならない」とタスクプロは熱弁する。

「たとえば後ろから押す台車と前から引くリヤカーでは圧倒的にリヤカーの方が安定して動かせることは想像に難くないと思います。実際のスウィングに当てはめると、切り返しからはグリップエンドの向いている方向に引く力を加えることが必要になり、そのあとはクラブが描く円運動を考えると体の中心に向かって引く力を与え続けることが重要です」(タスクプロ)

画像: タメを作ろうとして腕と体の距離(半径)が近くなると効率よくスピード上げられない(左)。対して右は手元を体から遠ざける方向にクラブを引くことでクラブの運動量が増え十分に加速できるようになる

タメを作ろうとして腕と体の距離(半径)が近くなると効率よくスピード上げられない(左)。対して右は手元を体から遠ざける方向にクラブを引くことでクラブの運動量が増え十分に加速できるようになる

「たとえば切り返しの動きにフォーカスして話すと、切り返しではグリップエンドはターゲットと反対方向を向いているから、引く力を与えるとすると、体から遠ざけるような方向に力を加えることになります。この動きは飛距離の源泉。スウィングの曲率半径、つまりクラブの運動距離と運動量が大きくなるからです。これは、クラブヘッドが加速する距離がとれ、スピードを上げることができるということ。そして、入射角もコントロールできるようになります」(タスクプロ)

たしかに、松山英樹の切り返しではクラブを遠ざけるような動きが見受けられる。「切り返し以降はクラブを体に引きつける」と教わった人は少なくないと思うが、科学的に分析すれば、クラブは体から遠ざけたほうが、飛距離・方向性ともに有利ということになる。

画像: 松山のスウィングの切り返し。たしかに、ボールから遠ざかる方向に力を加えているように見える(写真は2019年のシュライナーズ・ホスピタルズ 撮影/姉崎正)

松山のスウィングの切り返し。たしかに、ボールから遠ざかる方向に力を加えているように見える(写真は2019年のシュライナーズ・ホスピタルズ 撮影/姉崎正)

「切り返しではクラブをターゲットとは反対方向から地面方向に引き続けます、そのままグリップエンドの方向にクラブを引き続けます。そして、グリップの握り方にもよりますが、スクェアグリップを例に挙げると、ダウンスウィング中に左腕ひじ下の回旋運動が入り、意図したスピードで正確にインパクトすることができるようになります」(タスクプロ)

最後にタスクプロは体の動きではなくクラブの動きを主体に考えると、上体がエンジンで下半身は軸を安定させる役割が大きいと話す。

「体を回転させる意識を持ちすぎないことで、クラブの重心を感じて腕を振ること、クラブを引き続けることができます」(タスクプロ)

計測器の発達に伴って劇的に進んできたスウィングの科学的理解。従来のスウィングの常識は、今後どんどん覆されていくのかもしれない。

取材協力/GPC恵比寿

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