休んだことでよかったときのフィーリングを取り戻せた
渋野日向子選手が最終日に8打差の大逆転劇を演じた9月の「デサントレディース東海クラシック」を最後に、「NOBUTA GROUP マスターズGCレディス」まで、およそ4週間の休養にあてた鈴木愛。
シーズン4勝目を挙げた8月末の「ニトリレディス」からの約1カ月はゴルフをやりたくないという気持ちを抱えながらプレーを続けていたという鈴木。その後の欠場と見事な復活劇を、本人は「ケガもありましたが気持ちの部分が大きかった。ゴルフから離れられたことが大きかった」と分析する。
復帰戦で予選落ちを喫するも、その後は三菱電機レディースから史上初の4週連続優勝まであと一歩に迫る3週連続優勝。休養前に4勝、休養後に3勝を挙げて賞金女王となった鈴木だが、その原動力となったのは「敗北」や「怒り」そして「悔しさ」といったものだったという。
まずは「敗北」だ。鈴木のプレーぶりを見ていると、誰もがプレッシャーに対する強さを感じるはずだが、鈴木本人はプレッシャーに強いのは敗北した経験が多いからで、ミスのあとに怒るのはそのほうがスコアを伸ばせるからなのだという。
「優勝経験や優勝争いも多いですが、負けている試合もかなり多いので、(そのおかげで)だんだん強くなってきているのかと思います。いっぱい経験している分、こういう場面のときにこういうミスをしているという自分のクセがわかってきています。勝ちパターンや負けパターンっていうのがわかるので、勝てるようになってきていると思います」
そして、ミスのあとに「怒り」をあらわにするのも、その怒りこそがスコアを伸ばす要因だと考えているからなのだ。
「何回か怒らないでやろうと決めてやったことがあるのですが、気持ちをフラットにするとゴルフのスコアもフラットにパー、パー、パーとなって全然面白くない(笑)。スコアを伸ばせなくてもボギー、バーディのほうがスコアを伸ばせる可能性が見えるんです。バーディが獲れないとスコアが伸ばせないので、何度か試してみて、気持ち的には出して行ったほうが上手くいくのかなと思います」
ミスをしてボギーを叩くと怒り、次のホールでバーディを奪ってバウンスバック……といえば今シーズンの渋野日向子だが、鈴木愛もまた然り。「怒った場合」と「怒らなかった場合」を冷静に比較し、感情を出したほうがバーディを奪えるという結論に至っている。
また、今シーズン印象に残った一打を問われると、出てきた答えはナイスショットではなくミスパットだった。
「全米女子オープンの最終日の17番の3パットが久しぶりに悔しかったです。上がりがボギー、ダボ。上がりパー、パーならベスト10に入れるくらい久しぶりにいいプレーができていたので、すごくもったいなくて、悔しかった」
鈴木は大会終了後、ニューヨークに買い物に行き、「すごく気に入っていた」バッグを購入する予定だった。しかし、全米女子オープンの上がり2ホールで3打落としたことで購入を思い留まることに。
「あの3打で賞金がだいぶ違ったので買うのはやめようと。日本で優勝したら買おうと頑張ろうと思ったらすぐに優勝(宮里藍 サントリーレディスオープン)できたので、買おうと思ってシャネルに行ったら日本にひとつしか入ってなくて(すでに)完売。それで(エビアン選手権出場時に)パリに買いに行きました。頑張ったから買えた、結果は悔しかったですが、あの3打がなかったら頑張れなかった。そのおかげで頑張れました」
ゴルフをしていれば、誰かに負けることは賞金女王であっても必ず起きること。ミスショットを打って頭に血がのぼることもあるし、悔しくて悔しくてたまらない思いをすることも、アマチュアゴルファーにだってある。鈴木愛がすごいのは、それらのマイナスの感情までも、自分のプレーに昇華できるということだろう。