2019年は大江香織、一ノ瀬優希、諸見里しのぶ、佐伯三貴らが一線を退いた
大江香織、一ノ瀬優希、諸見里しのぶ、佐伯三貴……。今季の女子ツアーでは、多くの実績を持つ選手たちが第一線を退くことを表明し、話題になった。
しかしながら、表舞台を去ったその後については、取り上げられる機会は多くない。実際にツアーから撤退し、一時はゴルフとは関係ない仕事に身を置き、再びゴルフの職場へと戻ってきた2人のプロに、ツアープロの「セカンドキャリア」について話を聞いた。
ツアー通算4勝の三塚優子は「ケーキ屋さん」で社会勉強も
まずはツアー通算4勝の三塚優子。2011年「日本女子プロゴルフ選手権」などメジャー勝利経験者でもある彼女は、右ヒザなど相次いだケガで2016年以降、事実上、ツアーから撤退するとその後の2年間は完全にゴルフから離れたという。
「私の場合は2017年に結婚したこともあったんですけど、当時はもうゴルフを見るもやるのも『イヤ』になっていましたね。ツアープロとしては体も満身創痍のなかでやっていた分、精神的にも疲れてしまっていて。正直、ゴルフは『もう、2度とやりたくない』と当時は思っていました。クラブもほとんど人にあげちゃってましたから」(三塚)
プライベートでもゴルフから遠ざかり主婦業に専念する傍ら「ゴルフ以外は何もしたことなかったので。社会勉強だと思ってやってみた」というケーキ屋でのアルバイトが、転機となったという。
「やっぱり金銭感覚。それまでは賞金で何かに使ったら『また頑張って稼げばいい』って思ってやっていましたから。一般の方々は、こういう風にお金を得ているのかと知ることができた貴重な機会でした。時給ですか? 850円。でも、その850円以上に私にとってはそこで働くのが、楽しかった。もちろんゴルフの賞金のほうが、はるかに高額ですけど『働いて得る充実感』みたいなものをそこで初めて知ったような気がしますね」(三塚)
約2年ほどゴルフとは縁のない生活を送っていた三塚だが、昨年「旦那と知人で何となしに、仕方がなく行った」というプライベートのゴルフが、再びクラブを握るきっかけになったという。
「たまたま私がツアーでやっていたのを知っている人たちで。そこで『教えて』って言われて、私が少しアドバイスしたら、それがものすごい好評で(笑)。手前ミソですが(笑)。回りから『やってみなよ』って背中を押されて、今、チャレンジしているという感じですね」(三塚)
周囲の協力を得て、ティーチングの勉強を開始した三塚は現在、茨城の「東野ジャンボゴルフレンジ」で「ゴルフアカデミー」を開校。「同じ仕事でも『やる』ゴルフと『教える』ゴルフは全然、違います。日々勉強ですね。それが充実感にもなっています」と話す。
12年のシード選手・大谷奈千代はナショナルチームの指導者を目指す
一時は完全にゴルフと離れた三塚とは対照的に「ゴルフ界に違う形で再び貢献する」ことを目指し、ツアーから離れたのが2012年は賞金シード選手でもあった大谷奈千代だ。
2018年のステップ・アップツアーを区切りに、ツアーを離れ、本格的にティーチングの勉強を開始。JGAナショナルチームのテクニカルコーチを務める岩本砂織に師事し、将来は「日本代表を教えることのできるような指導者を目指したい」と横浜のレッスンスタジオ「SALTO GOLF横浜元町」で一般ゴルファーを教えつつ、アスリートゴルファーの指導育成法について勉強を続けている。
ツアープロ時代は「ネスレ日本」に所属。単にスポンサー企業というわけではなく「正社員」として、ツアーでの活動以外の時間には、同社のコーヒーセールスに従事した経験を持っている。それだけに「『結果』を求められる組織のシビアな一面を経験しているからこそ、それを踏まえたうえでゴルフ界に貢献できる人材になりたい」と話す。
「どんなにツアーで活躍した選手でも、いつかは‟別の形“を探さなくてはいけない時期が来ますよね?それを、そのときに考えるのではなく、トップレベルの経験を生かして『何か別のこと』ができるというゴルフ界になれば、と思って今、勉強を続けています。ゴルフは生涯スポーツでもありますよね? ジュニアの子たちがツアーに憧れ、競技選手として活躍し、それを終えた選手が、再び次の世代を育成する指導者になれる環境作り。そこに貢献できる人材に、なれたら良いなと思っています」
大谷が理想とする将来ビジョンは、成田美寿々など現在、第一線で活躍するトッププロからも賛同や激励をもらい、ツアープロとしての新たなセカンドキャリア像を構築すべく「今は毎日が勉強になることばかり」と奮闘中だ。
三塚にしても、大谷にしても彼女たちはまだ30代。人生100年時代とも言われる現代で、年齢的にはまだ折り返し地点にも達していない。ツアープロであった自らの経験を生かしつつ、紆余曲折を経ながらもそれぞれの考えのもとで「第2のゴルフ人生」をたくましく送っている。
(※12月25日10時50分一部誤字修正致しました)