米国で運動学の修士号を取得し、運動学からゴルフバイオメカニクスにまで精通するゴルフコーチの高野裕正がインストラクターとアマチュア向けの「ゴルフスウィングの運動学・力学」セミナーを開催。ゴルフスウィングの肝となる手の感覚を重視した独自理論を取材した。

手打ちは悪いワードではない

高野裕正ゴルフコーチ(兼トレーナー)は、運動学と体の動きを専門に学んだトレーナー。ゴルフに関しては森守洋プロコーチに師事し、レッスン活動やプロ向けのセミナーを開催する異色のインストラクターだ。

その教えの内容もまた異色。ゴルフでは、なるべく手先の動きを抑え、体幹部を使ってスウィングするのが良いとされるが、高野の教えはその逆。手、それも「ひじから先」からクラブまでのイメージをスウィング運動の根幹とすることを推奨する。

まず、そもそもなぜ手を積極的に使うのかから教えてもらおう。

「手で道具を扱うどんなスポーツでも、手と道具の感覚をないがしろにして体幹を使うことはないからです。脳の中でも、道具を扱うひじから先は能動的に使い、体はそれに対してバランスを取るように設計されています。手打ちは悪い動きの代表例として挙げられますが、全然そんなことはありません。手の運動イメージを明確にすることが、筋肉や関節の緊張を防ぎ、むしろ体幹の動きをうながすんです」(高野、以下同)

とはいえ、“手だけ”で振るのはもちろんNG。クラブを握り締めてガチガチに力んでしまっては、体が連動することはない。「手のイメージを明確にし、手を動かすことで体も動くことと、手を意識して緊張を生むこととは似て非なるもので、指導者側は必ず明確に整理しなければなりません」と続ける。

「ひじから先の動きに対してバランスを取ろうとするのが体です。ひじから先を積極的に動かすことで、手の運動に対して体が引っ張り合うようになり、結果的に体幹もしっかりと使えるようになるのです」

画像: ひじから下が上腕と分離しているから手の動きに対して体が引っ張り合うように体幹も使えていると高野トレーナーは言う

ひじから下が上腕と分離しているから手の動きに対して体が引っ張り合うように体幹も使えていると高野トレーナーは言う

たしかに、「体幹を動かせ」と言われても素人にはなかなかできるものではない。しかし、「ひじから先を動かせ」と言われれば誰にだってできるし、そうしたスウィングをしてみれば、なるほど動くのはひじから先だけではない。体が緊張して手とクラブの運動を邪魔しないようにすれば、体もしっかり動く。

ひじから先の動きでフェースの動きもコントロールする

画像: ひざ立ちで打ちダフりのミスが出るのは体で打つ意識が強くひじ下リリースが上手くできていないから

ひざ立ちで打ちダフりのミスが出るのは体で打つ意識が強くひじ下リリースが上手くできていないから

そのひじから先を動かす感覚を磨くために、セミナー参加者に高野が取り組ませたのが「ひざ立ち打ち」だ。

アマチュアゴルファーが試すと、ダフってしまい、どうしても上手く打てない。

「ひじから先とクラブの運動が『主』になっているかを確認する方法として、ひざ立ちのスウィングがわかりやすいんです。普段、体の意識で無理やりにクラブをさばいている人が行うと、ひざ立ちで体が動きにくいにも関わらず、体で無理にクラブをさばこうとするため、ヘッドが落ちて大抵の場合ダフりますから」

そこで、参加していたインストラクターが試すと、見事にクリーンヒットした。これはどういうことか?

「上級者になればなるほど、ひじから下とひじから上を分離できていて、ひじからクラブヘッドまでが自分の手と連動し、ひじから上は肋骨や肩と連動して動く感覚になるんです。たとえば、手についた水を払うときに、腕全体で振り払おうとするのではなく、ひじから先をぶらぶらさせ手先を振るようにすると、体に余計な力が入らなくなり体幹も使えることが感じられるはずです」

たしかに上級者やプロはインパクト付近での球さばきが絶妙で、ヘッドスピードが減速することなくスパッと振り抜けている。

高野によればインパクトゾーンを長くするひじから下のアクションは以下のような手順で味わえるようだ。

画像: インパクトでは左手の甲が掌屈(手の平側に折れる)することでロフトが立ちハンドファーストでボールをとらえることができる

インパクトでは左手の甲が掌屈(手の平側に折れる)することでロフトが立ちハンドファーストでボールをとらえることができる

「まずはクラブを軽く握り、手首もゆるめます。体や体幹部に無駄な力を入れずにヘッドが柔らかく動く感覚にします。クラブを体の正面に持ち上げ、そこから左手の甲を掌屈(手の平側に曲げる動き)させながら、右手のひじから下を回内(反時計回りにひじから下を回す動き)させていきます。フォローでフェースが地面を向くくらいしっかりとターンさせる意識を持つことが大切です」

その際、ハンドファーストを無理に作るのではなく、クラブを柔らかく使うのがポイント。掌屈にしても作り込む動作ではなく、「クラブの流れの中でボールを長く下に閉じ込める、押すような感覚がハンドファーストインパクトの正体」だと高野は言う。要するに、無理やりハンドファーストを作るのは良くないということだろう。

さて。この感覚が身につけば、積極的に手を動かすことで体も動く感覚が磨かれていく。これが高野の説く「ひじ下リリース」の真髄だ。

画像: フォローでフェースが地面を向くくらいしっかりとターンさせる意識が大切

フォローでフェースが地面を向くくらいしっかりとターンさせる意識が大切

「クラブという道具を扱う上では手の感覚、運動イメージが“主”で、体が”従“」と説く高野だが、トレーナーでもある彼は体からスウィングを指導することも多々あるようだ。

「あくまで体の動きを指導する際も、体の動きや流れを改善することで、ひじから先の運動を導く、という目的があっての体の指導です。というのも、世のほとんどのゴルファーは、ひじから先の運動を度外視して体でスウィングの安定を図ろうとするため、アーリーリリースであったり体が早く開いてしまっています。結果、無理やりクラブをボールに合わせるスウィングに悩んでいるのです」

体を”主”に考え過ぎて、インパクトで手元や体が浮いたり、体の開きやアーリーリリースによりクラブを効率的に扱えていないゴルファーは、「ひじ下リリース」を試してみる価値がありそうだ。

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