今年は渋野日向子も「タイ」合宿を敢行
五輪イヤーの2020年シーズンがいよいよスタート。とはいえ、国内は女子の3月5~8日の「ダイキンオーキッドレディス」が開幕戦で、1~2月はじっくりと各々の課題に取り組む時期でもある。最近、その拠点に「タイ」を選ぶプロが増えている。
昨年のゴルフ界の主役で今季は2月20日からの米国女子「ホンダLPGAタイランド」を初戦に設定した渋野日向子も、今年は2月の合宿の場をタイに。ほかにも三ヶ島かな、勝みなみ、有村智恵、吉本ひかる、臼井麗香など、有力選手がこぞって合宿地にするなど、すっかり「タイ合宿」がトレンドになっている。
プロがタイで技術を磨くのは主にグリーン周りのアプローチ
一体、プロたちはなぜタイに? 「暖かいから」ならば暖かい場所は他にもあまたあるはずだが……。そこで、男子ではチャン・キムのキャディを務め、実際にこれまでの臼井麗香のタイ合宿に同行経験を持つプロキャディ・出口慎一郎氏に話を聞いた。
「大きな理由はタイのコースにあります。とくにグリーン周り。タイはどのコースも、米PGAツアーのような難しさです。日本のコースにはないレベルでアプローチの精度を求められることが多い。少しでも精度が狂うとピンをショート、オーバーするだけなく、様々な傾斜によって阻まれ、転がされグリーンに『乗せる』ことすらできません。日本のようにグリーンの周辺にすぐラフがあり、ボールを止めてくれるわけでもないので、ショット精度のわずかな誤差がピンまでの距離に影響が出やすいためです」(出口氏・以下同)。
そんな難しいセッティングのコースでプロは、徹底的にアプローチの精度向上に取り組むという。
「ピンまで20~50ヤードの距離の寄せを、まずは『上げるのか』『転がすのか』。さらに『上げるなら、どの程度の高さか』『転がすならば、どの程度の強度で、どこにどう転がすのか』までこだわらないと、タイのコースのグリーンではピンに寄らないことが多いです」
帰国後のツアーではグリーン周りが「やさしく」感じる⁉
このようにタイのコースセッティングで技術を磨くことで、帰国後に自らのアプローチ技術の向上を得られやすい効果があるという。
「『自信』というか精神的安定の側面でしょうね。タイで合宿をした選手は一概には言えませんが、帰国後の国内ツアーで、グリーン周りを『難しい』と話す選手は少ないですし、『タイと比べたら……』と口にすることが多いですね。最初に難度の高い場所で技術を磨いてきた分、国内のコースではどこであれ、やさしく感じることができるみたいです」
日本にはない利点は、まだある。
「タイではドライビングレンジなどでも常に芝の上から打てる。日本では大会中でない限りは難しいコースも少なくないですから。さらにこの時期は、多くのプロが『体作り』のトレーニングを行いますが、タイは宿泊施設併設のコースが多く、施設内にジムがあるホテルがほとんど。日本ではホテルを拠点にコースを往復、ジムを往復といった移動になりがちですが、タイでは1つの拠点で全てがまかなえてしまう点も大きな要素かと思います」
プロが行う「タイ合宿」の意義を解釈すると、本番前に予め難度の高い場所で技術精度を高めおくことで、本番では精神的ゆとりを持って臨むことができ、さらに時間的な合理性も見込めるということになる。それだけタイのゴルフ環境は日本よりも”アスリート向け”ということが言えそうだ。