事前対策も想定を台風の猛威が想定を超えてしまった……
東京外環道の幸魂大橋の下にある戸田パブリックGC。昨年の台風19号では隣接する荒川の水位が最大13.3メートルまで上昇し、コースも濁流に飲み込まれた。石渡悟支配人は被災時の胸中をこう振り返る。
「今までのなかで間違いなく、最大級の被害。予想をはるかに超えていました」(石渡支配人・以下同)。
河川敷コースだけに「水害」に対しての事前の対策は万全。国土交通省などと連携し、災害時のマニュアルも当然あったが、昨年の台風19号は確実に人知の予測を超えていたという。
「台風などで荒川河川敷の氾濫が予想される際は、常に対策を練ることになっています。具体的には上流にあるさいたま市の治水橋の水位が6メートルを超えたら避難対策や具体的被害防止策の実行を検討し、6.5メートルになったら実行するというものです」
実際に台風襲来前日の11日、石渡支配人はコース運営に必要な移動型自動販売機や物置きなどを土手の堤防より陸地側に退避させ、治水橋の水位も6メートル以下の状態になっているのを確認してから家路についていた。
10月12日未明から事態が一変……
だが、夜が更けるにつれ、一気に事態は悪い方向へと急加速した。11日20時にはコースを含む周辺地域に「避難指示」が出るほど雨脚が強まると同時にコースに隣接する荒川も一気に増水。
ゴルフ場の状態が心配になった石渡支配人が翌12日の夜明け前、クルマで嵐のなか、コースへとむかったときには「もう、コースへ近づけないほど」の水かさに。
当日の満潮時刻が4時30分。「満潮と暴風雨が重なったのが痛かった」。一夜にして荒川の水位は急上昇し、朝5時の治水橋の水位は13.3メートルにまで跳ね上がっていたという。
翌朝、コースは完全の氾濫した川の一部となっていた。「もう、あ然とするしかないですよ」。8メートルの高さの水の下には、釣りやバーベキューを楽しめる道満グリーンパークやプロ野球・ヤクルトの2軍本拠地戸田球場など、隣接する施設もろとも水没していたという。
5番ホールのグリーンがない!
川の水かひいた約10日後。ようやくコースに足を踏み入れることができたが、そこには、氾濫した上流から流れ着いた仮設トイレや、作業現場からと思われる足場の鉄骨など「もう無茶苦茶でした」。なかでも石渡支配人が驚いたのが、グリーンが丸ごとなくなっていたこと。改めて自然災害の脅威を実感したという。
「5番のグリーンがグリーンごとなくなっていたんです。そこだけ水がどっぷりと貯まっていて……湖みたいになっていたんです。どうしてかはいまだ定かではないですが、おそらく川から流されてきた何か大きなものでえぐられて、そこから徐々に川の勢いに剥がされるようにして、丸ごとなくなってしまったとしか考えられないのですが……」
昨年11月「9ホール」で営業再開も「18ホール」復活を望む多くの声
愕然とするような被害を乗り越え、営業再開にむけてのモチベーションにはなったのは多くの利用者からの声だったという。
「多くのお客さまからホームページやフェイスブック・インスタグラムなどのSNSを通じて『18ホールはいつから再開?』『絶対に復旧してね』というお声を多数頂き、従業員一同、復旧作業中もそれが何よりの励みになりましたね」
グリーン管理会社からの応援部隊もあり最大100人態勢でグリーンを2日間で洗い出し、消防ポンプ車3台でフェアウェイ、ラフなどに堆積した泥を排除。台風から1か月後の昨年11月11日には、9ホールでの営業を再開。さらに2か月かけ、喪失したグリーンを再興させ、晴れて今月11日に18ホールでのプレーが可能になった。
「もちろんその他のお客様も大歓迎ですが、うちは10~20代の若者も多くプレーしに来ます。減少するゴルフ人口を何とかしたいという気持ちがあり、料金も若者世代でも気軽に楽しめる設定(平日9ホール4300円(ジュニアは学生証提示で半額)~、休日5300円~)。18ホール再開を機に、さらに広い層のお客さんにゴルフを楽しんでもらえるコースを目指していきたいですね」
良心的なプレーフィーで都心からは電車でもクルマでも約1時間。老若男女問わず、気軽にラウンドできるコースの完全復活は、全世代の都心ゴルファーにとっても‟朗報“といえそうだ。