日本ではストロングアイアンが流行っているが、米国ブランドも次々とストロングアイアンを発表してる。そこでアイアンを選ぶ基準について改めてギアライターの高梨祥明が考えた。

日本市場の専売特許だった“ぶっ飛びアイアン”を、米国ブランドが相次いで発表する新しい展開

今週は米国のフロリダでPGAショーが開催されているが、太平洋を渡り北米大陸を横断してきたとは思えない身近さで新製品情報が伝わってくる。それは何もインターネットの普及による情報伝達のスピードの話ではない。ゴルフクラブに以前ほどの日米ブランドの隔たりを感じなくなっているのだ。

ドライバーでは、日本ブランドが米国ブランドに寄っていっている印象を受ける。昨年来話題となっているヤマハのニューRMXシリーズや本間ゴルフのツアーワールド。今週発表されたばかりのミズノのST200シリーズ、ヨネックスのニューEZONE GTドライバーなども、構造やデザインに米国っぽい雰囲気を漂わせている。

画像: キャロウェイの新モデル「MAVRIK」の7番アイアンはロフトが27度

キャロウェイの新モデル「MAVRIK」の7番アイアンはロフトが27度

一方、アイアンについては日本ブランドのスタイルが、米国ブランドの製品ラインナップに確実に影響している。簡単にいえば、超ストロングロフトアイアンを発売する米国ブランドが増えているのだ。

キャロウェイの新作MAVRIKアイアンは7番アイアンのロフトが27度。テーラーメイドSIM MAX OSアイアンはさらにストロングな同番手26度。今週発表されたPINGのG710アイアンは同番手28度となっている。まだ国内未発表ながら、タイトリストからもこれまでにないロフトのアイアンモデルを発表されるとの情報が、PGAショー会場から伝わってきている。

日本でもっとも販売され、ある意味での基準モデルとなっているダンロップのゼクシオ イレブンは、7番でロフト28度であり、国内ではこのロフト帯が主流。ゼクシオクロスアイアンになると7番で25度と超ストロングロフトとなり、“ディスタンス系”なる別のカテゴリーとして分類される。

これはこれまでプロギアのeggアイアン、ヤマハのインプレスUD+2(同番手26度)、ブリヂストン TOUR B JGR HF-1アイアン(同番手26度)などが拓いてきた日本市場特有の方向性で、ゼクシオも遅まきながら「クロス」でこのカテゴリーに参戦したものである。

しかし、今年は米国主要ブランドがここに新作を投入。こうなってくると、日米の製品ラインナップにはほとんど違いがなく、単純にブランド力の勝負となりやすい。唯一、住み分けがあるとすればシャフトによる総重量の違い、振りやすさの選択ということになるだろう。

必要のないぶっ飛びアイアンを選ぶことは、将来的に自らの選択肢を奪ってしまうことになる

米国ブランドが本格参入したことで、7番アイアンでロフト28度以下の超ストロングロフトモデルの認知度がさらに高まっていきそうな2020年だが、ここで一つ考えておきたい大事なことがある。それがアイアンの飛距離性能について、自分がどう思っているのか? その確認をすることだ。

飛距離アップにフォーカスしたこうしたニューアイアンのPRや記事では、パワーのあるプロゴルファーが試打した結果を掲載するケースが少なくない。なんと7番アイアンで195ヤード! ついに200ヤードを超えた!という感じのものである。おそらくこの結果に偽りはなく、現在のアイアンはそれくらいの飛距離性能を備えている。

しかし、果たしてその飛距離が必要なのかどうか? そのテスターはこのアイアンのターゲットなのか? そこに関してはゴルファー個々がリテラシー能力を発揮して考えてみる必要があるのではないかと思うのだ。人それぞれに7番には7番の想定する距離があるはずだからである。

画像: テーラーメイドの新モデル「SIMMAX」と「SIMMAXOS」

テーラーメイドの新モデル「SIMMAX」と「SIMMAXOS」

多くの人にとってアイアンは、遠くに飛びさえすればいいものではない。それがドライバーとは違う点である。7番で195ヤード飛ばしていたプロやテスターも、実際にそれを使うかといえば答えはノーだ。これでは飛びすぎる!と、もう少しロフトの寝た普通のモデルを愛用する。自分の想定飛距離に照らし、マッチしたアイアンを選んでいるのである。

アイアンは、マッスルバック(ノーマルロフト)から超ストロングまで、1ブランドで少なくとも3モデル、多ければ6モデルくらいの選択肢がある多品種カテゴリーである。この中から自分に合った最適なモデルを選ぶのは“基準”がなければ困難を極めるだろう。

アイアン選びの基準とは、スバリ、自分の“飛距離観(飛ばしに対する心構え)”である。例えば「7番アイアンで140ヤード飛ばしたい」と決めること。それが明確になれば様々なアイアンを打ち比べ、その距離を安定して打てるモデルを選べばいいのである。140ヤードでいいのに、160ヤードも飛んでしまうアイアンは買うべきではない。そんな余計な飛距離が出たって、ちっともありがたくない。そう思うべきなのだ。

今、自分が決めた以上に飛んでしまったアイアンは、将来の自分用であると考えてもらいたい。加齢によって体力が低下しても「このアイアンに替えればまた7番で140ヤードを打てる。番手の距離感を変えなくて済む」。そういう保険のようなモデルだと思ってほしいのだ。

140ヤードでいいのに160ヤード飛ぶアイアンを、「今」手にしてしまうことは、今のように飛ばせなくなった将来の自分の“選択肢”を奪ってしまうこと。そう考えていただきたいのだ。自分に合ったアイアンとは何か? その答えは、自分自身の中にある。あなたは7番アイアンで何ヤード飛べば、満足ですか?

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