タイガーの復活を支えたボールがタイガー自身のテストによって進化
ブリヂストンがタイガー・ウッズとボール契約を交わした2016年12月の時点で、タイガーは今のようにゴルフ界の中心にはいなかった。その頃タイガーは度重なる怪我と手術からようやく復帰したばかりという状況で、2017年は再び手術、そして逮捕騒動……と苦しい時期を過ごしていた。
しかし、タイガーとの契約はブリヂストンにとって間違いなく成功と言えるものになった。2018年に競技に本格復帰すると年末のツアー選手権で待望久しい復活優勝。2019年はマスターズで優勝、ZOZO選手権で史上最多に並ぶ82勝目を挙げるなど大活躍。
「TOUR B XSは今までプレーしてきたボールの中で最高の性能を持っている。打感が非常にソフトで、スピン性能が最も高い。それでいて風に強く、安定感抜群だから信頼してショットに臨める。とても気にいっているよ」
とタイガーが語る使用球「ツアーB XS」は2017年10月に発売されたモデルだが、その売り上げがピークを迎えたのは2019年に入ってから。言うまでもなく、タイガーの活躍がその起爆剤になっている。
蛇足だが、昨年の全米オープン王者のゲーリー・ウッドランドは契約外でツアーB Xを使用していたが、全米オープンはタイトリストのプロV1で制している。また、ツアーB Xは“ゴルフの科学者”ブライソン・デシャンボーのエースボールでもある。
さて、そのツアーB X/XSボールがリニューアルされ、2020年1月に発表された。2月発売の新しいツアーB XSはタイガー自身が繰り返しテストを行い、OKが出たものを製品化したというモデル。まさしくタイガーモデルというべきボールだ。
「グリーン周り、ショートゲームの性能がいい。アイアンの距離の正確性は絶対条件だし、その上で20ヤード伸びたら最高だけど(笑)、20ヤードは無理でも、飛距離はアップしている」とタイガーは新しいボールを評価。
なんでもタイガーのテストはまずパターから行い、次にアプローチ、次いでアイアン、最後にドライバーという順番なのだとか。パター、アプローチの段階で“脱落”するボールも数多く、アイアンでは左目が効き目のタイガーがインパクト後に一瞬遅れて顔をあげた後、番手ごとにタイガーが設定する窓(ウインドウ)を通過していなくてはならない。そしてドライバーでは、タイガー自身が所有する弾道計測器・トラックマンによる飛距離チェックが待っている。もちろんタイガーが要求するのは全項目での合格点だ。
テスト開始は2018年にまでさかのぼり、2019年に最終スペックが完成したときには「このままマジックでBマークを書き込んで使用したい」と本人が冗談交じりに語るほど、納得のいくものとなったようだ。
さて、その特徴だが、キーワードは“初速”なのだそうだ。ドライバーでは飛距離、アプローチではスピン性能がボールには求められ、それを両立させるのが各メーカー苦心と工夫のしどころとなっているのだが、ブリヂストンが注目したのはボール初速。
大型のコアと中間層によりまず高初速を実現し、その上でウレタンカバーには衝撃吸収材を配合することで、アプローチショット時のボール初速を抑え、つまり低初速化することで、より高いコントロール性能を実現したとメーカーは説明している。
プロや上級者がしばしば「アプローチはゆっくり飛ぶのが理想」などと言うが、それを素材によって打ちやすくしているというのがこのボールのコンセプトのようだ。
ではツアーB X、ツアーB XSはどう違うのだろうか。メーカーの説明によれば、ツアーB X、ツアーB XSの特徴は以下の通りだ。
【ツアーB X】
打感:芯を感じるしっかりした打感
ドライバー飛距離:かなり優れている
アプローチスピン:優れている
【ツアーB XS】
打感:フェースに吸い付くソフトな打感
ドライバー飛距離:優れている
アプローチスピン:かなり優れている
要約すれば、タイガー使用のツアーB XSはツアーB Xに飛距離で劣るがスピンで勝り、打感は非常に柔らかいということだろう。そして、耐久性はどちらも「非常に高い」としている。
タイガーは、昨年末から新しいツアーB XSを使用予定だったが、プレジデンツカップでプレーイングマネジャーとしてプレーしたこともあり、実戦投入は2020年自身初戦のファーマーズ・インシュランス・オープンから。それに先んじて、男子ツアー開幕戦であるSMBCシンガポールオープンで、マット・クーチャーが新しいツアーB Xボールで勝利を挙げている。
タイトリストのプロV1、プロV1xを絶対王者に、キャロウェイ、テーラーメイド、スリクソン、ブリヂストンといったプレーヤーがしのぎを削る(ツアー)ボール市場。王者・プロV1同様に名前を変えずにリニューアルしたツアーB XとツアーB XSは台風の目となるか、注目だ。
※2020年1月20日15時55分 誤字を修正いたしました