PGAツアー「フェニックスオープン」はウェブ・シンプソンがプレーオフの末、2年ぶりの優勝を果たした。世界ランクは7位に浮上し、8年ぶりにトップ10入りしたシンプソンがコツコツと積み重ねてきたこととは一体? 海外取材経験20年のゴルフエディター・大泉英子が語る。

ウェッジに「ステップ・バイ・ステップ」と刻んでいる理由

今季のPGAツアーは、プレーオフが多い。これはジェイ・モナハンPGAツアーコミッショナーが「プレーオフが多いほうがエキサイティングだ」と語っていた通りの展開になっているともいえるのだが、先の「WMフェニックスオープン」では今季7度目のプレーオフが全米オープンチャンピオンのウェブ・シンプソンとツアー1勝のトニー・フィナウの米国人同士で行われ、1ホール目でシンプソンの勝利で決着がついた。

2017年に松山英樹と同大会でプレーオフの末、敗れたシンプソンだが、2018年プレーヤーズ選手権以来の2年ぶりの勝利を挙げ、ツアー通算6勝目。フェデックスカップは2位に浮上、世界ランクは7位と2012年以来初のトップ10入りを果たした。

「(2012年以来)いろいろなことを学んだよ。数年前、不安定なゴルフに嫌気がさし、もっと安定感のあるプレーヤーになりたいと思った。弱点を見直し、どんな順位であれ、試合でいろいろなことを学んできたんだ。ジムでトレー二ングを積んできたが、それは必ずしも劇的な飛距離アップを狙っていたわけではない。体の中の安定感が欲しかったんだ」

プロゴルファーたちは毎週、米国内とはいえ時差もあり、気候も違う。そんな変化の中、毎週毎週、安定感のある同じ身体で試合を迎えることは、思っていたよりも大事なことだった、とシンプソンは語る。3年前にコーネル・ドリーセンというトレーナーを雇ったのも、自分の持ち味であるショットの正確性や距離のコントロール力を失わずに、飛距離を出したいという思いからだった。

画像: フェニックスオープンでプレーオフの末、勝利を掴んだウェブ・トンプソン(写真は2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

フェニックスオープンでプレーオフの末、勝利を掴んだウェブ・トンプソン(写真は2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

「2年間で1.5~2mphくらいしかスピードが上がっていなかったが、急に劇的に飛距離アップもしたくなかったんだ」

彼は、今までの自分ができていたフェアウェイキープにこだわって賢くプレーし、優勝のチャンスをみすみす失うような危険なもの(劇的な飛距離アップや、自分の長所を消してしまうようなこと)は避けて通った。そして、多少苦労することはあるにせよ、将来を見据えて自分が変える必要のあるもの、挑戦すべきことをコツコツとやり続けた結果、今回の優勝が転がり込んできたのだ。

シンプソンはかつて、長尺パターを使用していたが、アンカリングが禁止になるという発表がなされた後、2014年11月に長尺パターを壊して、ダンロップフェニックスから短いパターを使い始めた。どんなに苦労しても、長尺パターに戻ることはしなかった。それは、亡き父の「人生、どんな苦難をお前に与えようがただ耐えるんだ。準備ができていない間は、人生が好転することはない。いろいろとフラストレーションが溜まることも多いだろうが、苦難を乗り越えた末に何かが見つかるはずだ」という教えに従ったからだ。

そしてもう一人、彼のゴルフに大きな影響を与えた人物がいる。米国アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏だ。ベゾス氏の記事を読んだ彼はアマゾンの社訓ともなっている「ステップ・バイ・ステップ」(一歩一歩進め)に感銘を受け、ウェッジにも「ステップ・バイ・ステップ」の文字を刻んでいる。ベストを尽くしながら注意深く一歩一歩進むことの大切さがその記事には書かれており、それを自分に置き換えた時に以下のように考えたのだという。

「ジムや練習場にいる時は、そこでベストを尽くすこと。目先の大きなことにとらわれず、目の前の小さなことをコツコツとやり続ければ、大きなことは自然と成し遂げられるものだ」

コツコツとやり続けた小さなことが実を結び、今季に入り出場全試合でトップ10入り。ストロークゲインド総合部門で1位に立っているのも、自分が目指した「安定感のあるプレーヤー」になるための努力の賜物であるといえる。

目標に向かって何かを成し遂げる過程で、数々の苦難が身に降りかかることもあるが、それにも負けずに信念を貫くことの大事さをシンプソンの優勝は物語っている。

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