先の硬い手元調子系シャフトがPGAツアーでは主流
平均飛距離300ヤードがもはや常識と化しているPGAツアー。そこで主流となっているのは、曲がらないヘッドを用い、鍛え上げられた体とスウィングでとにかく真っすぐ遠くに飛ばすというプレースタイルだ。当然のことながら、シャフトもそれがやりやすいものが好まれる。
「PGAツアーの選手の多くは、シャフトの先端部分がしっかりと締まった手元調子系のシャフトを好む傾向があります。先端が走ってボールをつかまえるとか弾く、上げるといった恩恵は受けられませんが、その分だけヘッドのブレを抑えることができるからです」
そう語るのはプロゴルファー・中村修。ちなみに、そんなPGAツアーでは近年日本メーカーのシャフトの使用率が高く、三菱ケミカルのディアマナ、クロカゲ、テンセイといったシャフトはすっかり市民権を得ている。中でもタイガー・ウッズ、ブルックス・ケプカが使用することで注目の「ディアマナDリミテッド(米国ではDプラス)」に、フジクラがPGAツアーでの使用率をとりにいくために作ったという戦略的モデル「ベンタス」、そしてアメリカメーカーとして気を吐くトゥルーテンパーの最新モデル「ハザーダス スモーク グリーン」を加えた3モデルをまとめてテストしようというのが今回の企画趣旨だ。
ちなみに「ベンタス」はすでにリッキー・ファウラー、ジョーダン・スピースらが採用。「ハザーダス スモーク グリーン」はジャスティン・トーマスが採用している。試打条件は、使用ヘッドがテーラーメイドのSIMの9度。重さは60グラム台、硬さはSフレックスに統一した。試打は中村修が担当。5球ずつテストし、弾道計測器フライトスコープで計測した。
高慣性モーメントと相性がいい手元が締まった「ディアマナDリミテッド」
まずはタイガー、ケプカが使う三菱ケミカル「ディアマナDリミテッド」から。
「先端がしっかりした、振れば振っただけ応えてくれる印象のシャフトです。SIMのように慣性モーメントの大きいヘッドとはやはり相性が良く、シャフトのねじれが小さいため、ヘッドを安定して動かすことができます。ヘッドスピードが50m/sを軽く超えるなかでヘッドを操りたいタイガーや、ケプカに求められるのも頷けます」(中村、以下同)
組み上げスペックは、総重量316グラム。バランスはD3で、硬さの目安となる振動数は254だった。
「タイガーやケプカは、TXというXよりも硬いシャフトを使っていますが、その場合おそらく振動数は300に迫るはず。今回試打した6Sは数字的にもそこまで硬くはなく、むしろしなりとしなり戻りを感じることができます。タイガーが使うシャフトだからといって、このスペックならハード過ぎないので、アマチュアゴルファーの方でも十分に使えると思います」
中村が打った弾道は中弾道のストレートから軽いフェード。つかまえにいくと軽いドロー弾道になった。
平均飛距離:265Y 平均スピン量:2902回転/分 平均打ち出し角13.1度
日米で大きな話題! フジクラの意欲作は絶妙なしなりで飛ばせる
続いてはベンタス。スピースやファウラーが早くも採用したこのシャフトを中村は「ディアマナDリミテッドに非常に良く似ています。そのことからも、PGAツアーの選手たちがシャフトに求めるものには、ある一定の傾向があることがわかりますね」という。
組み上げスペックは重さが315グラム、バランスD2、振動数は251。
「重量は『ディアマナDリミテッド』とほぼ同じですが、バランスは1ポイント小さく、ごくわずかにだがカウンターバランス的になっていることがうかがえますね。実際にスウィングすると、シャフトの中間よりやや手元寄りの部分のしなりを感じられ、Dリミテッドと比べるとややしなりを感じやすいかな? という印象を受けます。ただ、先がしなる感覚はなく、やはりプレーヤーが振ったぶんだけこたえるというシャフトですね」
弾道はねじれの少ないほぼストレート。高さは中弾道で、スピンは少なめというのも「Dリミテッド」と共通していた。
平均飛距離:272Y 平均スピン量:2541回転/分 平均打ち出し角13.2度
いまどきスウィングに合う「ハザーダス スモーク グリーン」
最後に登場するのが、「ハザーダス スモーク グリーン」だ。
「ハザーダスは『T1100』というモデルをキャメロン・チャンプなど飛ばし屋が使っていたのが印象的ですが、PGAツアーで人気のアイアン型ユーティリティなどに採用する選手も多くいます。それだけ先端がしっかりしているシャフトということで、この『ハザーダス スモーク グリーン』も基本的にはその延長線上の性能になっています」
そう中村がいうように、スペックを見ると重さは312グラムと3モデルのなかでもっとも軽いが(バランスはD2)、振動数は272とかなり高い数値が出ている。
「日本人の感覚だとSというよりXという印象です。実際に振っても手元はかなりしっかりしていて、シャフトのしなり自体も明らかに少ない。PGAツアーでは、ダウンスウィングからインパクトにかけてシャフトがしなり戻るのを待つことなく、切り返したら一気にフィニッシュまで振り切るスウィングが主流ですが、そういう打ち方にマッチした性能です」
弾道は3モデルでもっとも低く、やはりロースピン。低弾道・低スピンになりやすいギアを用いてはいるが高弾道でキャリー300ヤードを実現するのがPGAツアーで戦う男たちだ。まさに彼らが求めるスペックと言えそうだ。
「ただ、基本的には今回試打した3モデルは大きく分ければよく似ています。同じ60グラム台のSシャフトで比較した場合、ディアマナ、ベンタスはしなりを感じやすく、ハザーダスはしなりが少ない。性能というよりも、フレックスの設定が違うという印象です」
平均飛距離:271Y 平均スピン量:2804回転/分 平均打ち出し角度:12.1度
ちなみに、今回試打した3モデルで中村がもっとも気に入ったのがこのハザーダス。
「硬く、仕事をしてくれない。だからこそ、自分で振る必要があるんですね。私はもうシニア入りしていますが、若いころはこういうしなりの少ないシャフトを一生懸命振っていた。そのころの気持ちを思い出させてくれました」
とのこと。いずれにせよ、PGAツアーで話題の最新モデル3機種は、やはりどれも「PGAツアーで求められる性能」を満たしたシャフトだった。大型の高慣性モーメントヘッド、そして切り返しからフィニッシュまで一気に振り抜くスウィングと好相性のシャフトたち、腕に覚えのあるゴルファーならば、ぜひ試打してもらいたい。
取材協力/PGST