東京オリンピックのゴルフ競技開催コースといえば「霞が関カンツリー倶楽部 東コース」。1929年に開場しゴルフ史に残る数々の名場面の舞台となってきた国内屈指の名門コースだ。本番に向けて静かに準備が進むコースをプレーする機会に恵まれたプロゴルファー・中村修がレポート。

「霞が関カンツリー俱楽部」はゴルファーなら一度はプレーしてみたいコースの一つではないでしょうか。その“霞の東”をプレーしてきました。一番知りたいのは、このコースで世界のトッププレーヤーが一体どんな戦いを見せてくれるのか? ということだと思いますが、実際にプレーをしてみた感想は、その舞台にふさわしい素晴らしいコースであるということでした。

コース入り口からクラブハウスまでの進入路に入った時点から、名門コースならではの緊張感と期待感が高まってきます。海外メジャー開催コースも幾つか行った経験がありますが、それとはまた異なる独特の重厚感と厳かな雰囲気が感じられます。

東コースはオリンピック開催のため予約はアウト、インそれぞれ1日10組に制限されています。それも3月末からオリンピックまでの間はクローズされるそうです。クラブハウス周りの練習グリーンや練習場はとても広くて開放感がありますが、残念ながら練習場はプレスセンター建築中のためクローズ。鳥かごの練習スペースが用意されていました。

本番では、選手たちは同西コースのホールを練習場として使用するようです。

画像: 練習場ではメディアセンターの準備中。超巨大な建物になりそうだ

練習場ではメディアセンターの準備中。超巨大な建物になりそうだ

国際ゴルフ連盟(IGF)の要望もあり2グリーンから1グリーンになり、距離も延長され7466ヤード、パー71に2017年に改修されました。ご一緒したメンバーさんに伺った話では、パー5をパー4にしたほか、フェアウェイの傾斜、花道、バンカーなど改修は多岐にわたり、あごの高いバンカーと大きくてポテトチップスのような傾斜が作られたグリーンには手を焼いているとのこと。

プレー前から、一体どんなコースに仕上がっているのか、ワクワクが抑えきれません。

画像: 10番ホールパー3ではグリーンを斜めに配置し深く大きなバンカーが口を開ける

10番ホールパー3ではグリーンを斜めに配置し深く大きなバンカーが口を開ける

スタートはインコースの10番パー3から。画像からはわかりにくいですがティーイングエリアからグリーンは左奥から右手前に斜めに配置されたレダンという設計手法になっています。そのためグリーンは大きいものの奥行きが限られています。このホールに限らずグリーンには複数の段があるためグリーンの硬さや速さ、ピンの位置によって難易度は無限に高くできそうです。

14番のパー5は632ヤードという距離の長いホールですが、練習ラウンドに訪れた松山英樹が2打目でグリーンをオーバーしたというエピソードがメンバーの間で話題になったそうです。ティーイングエリアに立つと空中は広く一見狭くは感じません。しかし、フェアウェイの傾斜であったりバンカーの配置で狙いどころは絞られています。

私はレギュラーティ、539ヤードからのプレーでしたが、ティショットでドライバー、セカンドで3Wを持ち、2オンするかしないかという距離。改めて、世界のトッププレーヤーのパワーを痛感させられました。

画像: 松山英樹が2打目をオーバーしたという14番632ヤードのパー5

松山英樹が2打目をオーバーしたという14番632ヤードのパー5

距離の短いホールではフェアウェイバンカーやグリーン周りのバンカーのあごがしっかりと利いていて、一度入ったら転がって出ないようになっていますし、キャリーが短いとそのアゴに目玉になります。距離が短いホールではバンカー越えにピンが切られ、そのピンを果敢に狙ってショートしたら一点目玉になって大ピンチ……そんな場面も本番では見られるかもしれませんね。

と、ひとごとではなく、私自身も17番ホールのティショットをミスして、ガードバンカーのさらに手前のバンカーのあごに目玉になってしまいました。この状態からだと、2打目は目玉から脱出するので精一杯。3打目でピンを狙って打ちますが、ぎりぎりを狙ってまた目玉になることだけは避けたいところです。短いホールでもミスをすればパーを獲るのも難しくなります。

以前、某ゴルフ場のコース課で働いていた経験から、こういうアゴのあるバンカーをきれいに均して整備するのは大変な手間がかかることがわかります。手作業で整備することが必要になりますし、雨が降れば砂は低いところに流れてしまいます。見た目は非常に美しく見えていますが、これだけの数のバンカーでそれを維持することはかなりの手間が必要です。

画像: 17番343ヤードのパー4でティショットをアゴの近くのバンカーに入れると目玉になった

17番343ヤードのパー4でティショットをアゴの近くのバンカーに入れると目玉になった

プレーしていて驚いたことは、プレーのペースです。一生に一度あるかないかという機会なのでコースの雰囲気や景色に見とれていると、前の組から遅れてしまいます。聞くところによるとハーフ1時間50分のペースでは“遅い”とのこと。4名で歩きでプレーして時には目玉になり、3パットすると、スコアに関係なくホールアウトした順に次のティに向かって、ティショットをするくらいのペースです。

前後の組とも非常にプレーが速くしかも目土もバンカーも自分たちで整えます。2打目地点に行くときにはキャディさんからカップに入った砂を受け取り持っていき打ったらすぐに目土します。「霞の三箴(さんしん)」といわれるモットーのうちの一つ「コースはどこでもわが座敷のごとく心得たい」という創立以来の「グッドフェローシップ」が随所に浸透していることを感じます。

倶楽部の三箴(さんしん)
倶楽部の会員同志は一家族の如く親しみ合い、信じ合っていきたい。
技術よりも、フェアプレーのゴルフ・スピリットを第一に発揚したい
コースはどこでも我が座敷のごとく心得たい

これがそのモットー。思わず背筋が伸びますね。

画像: 砂の入ったカップをキャディさんから受け取り打ったらすぐに目土する

砂の入ったカップをキャディさんから受け取り打ったらすぐに目土する

茶店でいなり寿司を一ついただき、後半アウトコースをスタートします。インコースと同じくらいの少し高低差のある歩きやすいフェアウェイ。しかしグリーン周りは深さのあるバンカーと段のあるグリーンに守られています。

インコースも含めてピン位置に対する段の位置と距離感の把握が重要になりそうです。ピンのある狭いエリアを攻めて成功すれば報酬を得られるという「リスク&リワード」の考え方のもと改修工事を担ったコース設計家トム&ローガン・ファジオ親子の意図が随所に見て取れます。

画像: 1番ホール411ヤードパー4は左右にバンカーが待ち構えティショットの置き場所がカギになる

1番ホール411ヤードパー4は左右にバンカーが待ち構えティショットの置き場所がカギになる

オリンピックの会場となる施設は日本を代表する施設ばかりです。ゴルフの会場となる霞が関カンツリー倶楽部は、コースも倶楽部としても日本を代表する施設であることを強く感じました。8月に世界のトッププレーヤーがこの地に集まり、どんな戦いを見せてくれるのか? 日本選手はどんな活躍を見せてくれるか? 今から楽しみでなりません。

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