PGAツアー「メキシコ選手権」はパトリック・リードが制し、幕を閉じた。「嫌われもの」「イヤなやつ」と言われがちなリードの素顔を、本人のことをよく知るゴルフエディター・大泉英子が記す。

「砂のお城を作っていたんだろう」とケプカに揶揄されたが……

年末のバハマで行われた「ヒーロー・ワールドチャレンジ」から何かとお騒がせだったパトリック・リードが「WGCメキシコ選手権」で今季初優勝。昨年の8月、ノーザントラストで優勝して以来のツアー8勝目を飾った。今大会の優勝で、フェデックスカップランキングは5位まで浮上。WGCイベントは2回目の優勝だ。

「僕たちのチームの目標の一つは、オーガスタ(マスターズ)までに優勝することだったから、今回の優勝は非常に大きいね。しかもフロリダの試合を迎える前に勝てたことは、大きな自信につながるし、弾みもつくよ」

今年の彼の戦績を見る限り、WGC・HSBCチャンピオンズ8位タイ、セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ2位タイ、ファーマーズインシュランスオープン6位タイと、なかなかの好調ぶり。

だが、今季の部門別スタッツを見てみると、フェアウェイキープ率は57.4%で170位、パーオン率は65.68%で188位とショットは非常に悪い。ただ唯一、パットがずば抜けて好調で、平均パット数1位、ストロークゲインドパッティング4位にランクインしている。特に今週のチャプルテペクGCのポアナグリーンは、リードにとって相性が良かったらしく、

画像: 今季初優勝を挙げたパトリック・リード(写真は2020年のメキシコ選手権)

今季初優勝を挙げたパトリック・リード(写真は2020年のメキシコ選手権)

「なぜかわからないが、いつもポアナグリーンではよく入る気がする。このグリーンではスピードが命なんだけど、この手のグリーンではミスしたらすぐに忘れることが大事。いいストロークができても入らないことがあるし、逆にミスヒットしても入ることもある。ポアナグリーンでは、あまり“ミスを引きずらない”ことが肝心なんだ」

「最終日の11番以降は、カップが少し大きく見えて、カップに入り始めたよ」と語っている。

“ミスを引きずらない”といえば、彼が12月に起こした事件で、どんなに外野が騒々しくてもそのことに胸を痛めることなく、下界の騒音をシャットアウトして、目の前の1打に集中できたことも今回の勝因となっていることだろう。

一体、12月のバハマの事件とは何なのか、ご存知ない方もいると思うのでここで簡単におさらいしておくが、彼は「ヒーロー・ワールドチャレンジ」での大会中、ウェイストエリアで素振りをした時に、ボールの後ろの砂にソールが接し、そのことでライの改善をしたのでは? という嫌疑がかけられた。

テレビの画像でそれが発覚し、ラウンド後に罰打を受け入れたのだが、この事件は翌週の「プレジデンツカップ」にも持ち込まれ、オーストラリアの大勢のギャラリーたちから「バンカーに入れろ!」とか「卑怯者!」などと方々からヤジが飛び出した。思わずそれを聞いて怒ったキャディであり、義理の弟であるケスラー・カレインは、ギャラリーを殴ったと報道され、最終日にバッグを担ぐことはなかった。そしてその後もことあるごとに記者たちから「ギャラリーたちからのヤジは気にならないか?」というような質問を受けていたのである。

彼の中では罰打を払って、すでに解決済みの事件のはず。だが、周囲の気持ちはそれでは収まらず、いつまでたってもどこへ行っても昨年末の2ペナの件が持ち出される。キャメロン・スミスには「インチキだ」といわれ、ブルックス・ケプカには「砂でお城を作っていたのだろう」と揶揄された。ツアー仲間からもそんな言われ方をされているだけに、メディアはどんな風に自分について書き立てていることか……一切自分に関する記事などは見たくないだろう。

本人も「実際、記事はあまり読まない。僕のチームにそのことは任せているよ。僕は試合中は他のスポーツの結果をチェックしたり、天気予報を見るくらいだ」という。

「自分自身でいること、自分のゴルフをすることを常に心がけている。自分のベストを尽くしてプレーし、素晴らしい人間になり、こうしてゴルフを見に来てくれている子供達のお手本になりたい」

いったん試合会場に入れば、どんなヤジや騒音もシャットアウトして自分のプレーに集中する。ツアーで誰よりもこのことに慣れているのは、おそらくパトリック・リードだろう。彼は2年前にマスターズで優勝した時も、昔の悪評をメディアたちに書き立てられ、それを読んだゴルフファンたちから相当なアウェイ感を味わった。

だが彼はそれにもめげず、孤独に打ち勝ち優勝した。だから口汚い野次に対しても、ふてぶてしいまでに動じないし、自分の目の前の仕事をやり遂げる能力と自信、集中力も長年の経験で培われている。そして、自分の中で正しいと信じることをやりきる努力を惜しまず、他の人がどう言おうがお構いなしという強さが彼にはある。

“周囲からの目を気にすることなく、自分がやらなければいけない目の前のことにひたすら集中する”――これは人の目をある程度気にしてしまう常人では難しい。もともとヒール役の彼ならではの特権といってもいいかもしれない。

最後に、私が米ツアーの取材に行くとき、彼は大事な取材要員の1人だ。時間をきちんと割いて、こちらの質問にしっかり答えてくれる。そして練習熱心である。日頃、彼は嫌われ者のイヤなヤツとして書かれることが多いが、意外とそうではない一面も持っていることをお伝えしておこうと思う。

撮影/姉崎正

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