「ジャンボMTN IIIプロモデル」や「ミズノプロTN-87」といった名器と呼ばれるクラブには、そう呼ばれる理由があるとギアライター・高梨祥明はいう。それは一体どういうことか、古いゴルフクラブを見て改めて感じたことを綴った。

慣性モーメントが極めて大きい。MTN IIIプロモデルの独創性

ふとしたことから15年前の資料を見返していた。04年当時のマッスルバックアイアンとそれ以前の名器アイアンを重心測定に出したときのものである。この当時はそんなことは気にも留めていなかったが、この資料はある特定のアイアンの特別感を際立たせていた。そのアイアンとは、1988年に発売された「ジャンボMTN IIIプロモデル」(ブリヂストンスポーツ)である。

写真Aに印を付けたが、この2000台で並ぶ数値が各モデルの慣性モーメント(#5)である。「ジャンボMTN IIIプロモデル」の慣性モーメント2400g・cm2が、他のマッスルバックアイアンに比べ、群を抜いて大きいことがわかるだろう。

画像: (写真A)マッスルバックアイアンのヘッド測定結果が並ぶ、04年当時の資料。2400g・cm2が「ジャンボMTN IIIプロモデル」の慣性モーメント(#5)だ。ちなみに大型チタンフェースなども含んだ最新アイアンの慣性モーメントの平均値も、実は2400g・cm2前後(#5)である

(写真A)マッスルバックアイアンのヘッド測定結果が並ぶ、04年当時の資料。2400g・cm2が「ジャンボMTN IIIプロモデル」の慣性モーメント(#5)だ。ちなみに大型チタンフェースなども含んだ最新アイアンの慣性モーメントの平均値も、実は2400g・cm2前後(#5)である

ちなみにすぐ下の2169g・cm2が、同じく国産プロモデルアイアンの名器と呼ばれている「ミズノプロTN-87」だ。どちらも日本のクラブ史に名を残す名アイアンだが、高慣性モーメントというやさしさが加味されているという点で、「ジャンボMTN IIIプロモデル」は非常に独創的で稀有な存在だったことがわかる。当時のプロゴルファーがこぞってこのアイアンを使用した理由の一端がここにあったのだ。

「TN-87」は重心距離が極めて短く、研ぎ澄まされた中嶋常幸の技量を遺憾無く発揮させるために生み出された印象がある。当時、「MTN IIIプロモデル」のように他のプレーヤーに使われなかったのはこのためであろうか。中嶋モデルアイアンはこの後、マッスルの「TN-91」を経て、ハーフキャビティの「TN-93」で大ブレイクする。持ち味である操作性を残しながら、キャビティによるやさしさを加味したことで、当時の日本アマでも使用率ナンバーワンアイアンに輝いたのだ。

打つことでちょうど良い“やさしさ”にたどり着いた。ジャンボ尾崎の先見の明、感覚の鋭さに脱帽

「MTN IIIプロモデル」は、尾崎将司のパーソナルモデルアイアンとして82年から開発が始まった「MTN IIIシリーズ」の最終モデル。現在のようにコンピュータによるシミュレーションなどはなく、当然、慣性モーメントなどという指標もなかった。

その中で、現物を作っては打ち、ダメ出しされては作り直すという試行錯誤を5年以上続け、従来のマッスルバックにはない、現在のアイアンに近い“やさしさ”を生み出したのだから、ジャンボ尾崎の先見性、感覚の鋭さはやはり超一流である。

画像: 一性を風靡した「ジャンボMTN IIIプロモデル」(通称:ジャンプロ)。懐かしい!使っていた!というゴルファーも多いのではないだろうか。

一性を風靡した「ジャンボMTN IIIプロモデル」(通称:ジャンプロ)。懐かしい!使っていた!というゴルファーも多いのではないだろうか。

ジャンボほどのトッププレーヤーが使用していたのだから、それは相当“難しい”のではないかと思うかもしれないが、改めて「ジャンボMTN IIIプロモデル」を構えてみると、今のマッスルバックよりヘッドサイズが大きく安心感がある。超一流ほど合理的なクラブを選び、結果を残すものなのだと改めて実感した。たまには古いゴルフ道具を眺めてみるのもいいものである。気づきがあって実におもしろい。

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