大きなフェース面を薄くしなやかにして反発性能をアップさせる。
現在のアイアンの構造は外見から見るよりもずっと複雑化している。今日は話題アイアンの分解ヘッドやカットサンプルを見ることで、その“進化”の狙いを説明していきたい。
【薄い・深いは軽い、分厚いは重たいと頭の中で変換してみよう】
現代アイアンのヘッド重量は7番アイアンでおよそ250〜265グラム前後。その重さをヘッドの外周やソールに一生懸命振り分けることで、いわゆる“重心設計”なるものが行われている。大型ヘッドだからヘッド重量が重たいかといえばそうではなく、むしろ大型の方が軽い傾向。なぜなら、大型ヘッドアイアンのほうがシャフトを長く、軽く設定されることが多いからだ。
キャロウェイゴルフの話題作「マーベリック」アイアンの分解ヘッド(写真1)を見てみると、極めて薄いステンレスカップフェースを採用し、大きなフェース部が“軽く”作られているのがわかる。そしてフェースの裏側は複雑な肉厚になっている。打点分析に合わせてAIが計算した全領域高初速フェースだ。
ボディ部のフェース下側には重たいウェイトが柔らかい樹脂に包まれるようにはめ込まれている。フェースの裏側下部にも横幅いっぱいに樹脂。これで振動をコントロールし、エネルギーロスを抑えているわけだ。
ボディフレームは360°グルリと溝状に削れていて、慣性モーメントを大きく保ちながら少しずつ削った重量をソールやバックフェースに振り分ける。そうすることで番手ごとの適正重心設計がしやすくなるのである。
キャロウェイアイアンだけでなく、ヘッドの薄い箇所は軽くしたい部位で、分厚い箇所は重たくしたい部位だと考えて差し支えない。それは「ゼクシオ イレブン」の分解パーツ(写真2)を見てもよくわかる。
フェースは、薄いチタンフェース。これがかなり大きいのがゼクシオの特徴だ。そのまわりをステンレスのフレームボディが取り囲む構造。基本的には大きなフレームのテニスラケットに広範囲でたわむ軽い打球面があるイメージだ。トランポリンにシャフトをつけてボールを打っているようなものである。トランポリンのようにフレームをガッチリさせ、中心をしなやかに、軽く仕上げることでエネルギーロスを抑えることができるのである。
フェース近くをさらにえぐってフェース下部まで薄肉フェース効果を出す
アイアンの構造では“深くえぐる”というのもトレンドである。だいたいえぐられるのはフェースに近いソール部分である。
【ボディを深くえぐるとフェースエリアが大きくなると変換しよう】
アンダーカットキャビティというボディの中間部をえぐっていく構造がポピュラーになって10年以上経過するが、最新のアンダーカットぶりはさらにすごくなっている。
写真3は、左から「ミズノプロ920」、「プロギア エッグ」、「オノフ赤’20」のヘッドをカットした時の断面だ。基本的にはフェースは薄く(軽く)、中央が深くえぐられているために分厚い(重たい)箇所がヘッドの外周、ソール、バックフェースに集中していることがわかるだろう。
こうすることで、
・外周を重たく→ フレーム効果による慣性モーメントアップ(打点ズレに強いなど)
・ソールを重たく → 低重心化(ロースピン/フェース下部ヒットに強いなど)
・バックフェースを重たく → 深重心化(つかまり/打ち出し角アップなど)
など、アマチュアゴルファーが求めるアイアン機能が実現できるわけである。また、フェースのすぐ後ろ側のソールを限りなくえぐっていくことによって、薄いフェースの効果がフェース下部でも発揮できる。つまり薄肉フェースを大きく使うことができるのである。
このほか、テーラーメイド「SIM MAX」(写真4)のように、薄いフェースの裏(打球面)にピタリと密着するように樹脂製のパーツを採用するモデルも増えている。これは薄肉フェースの強度を保つ意味もあるが、フェースのたわみ過ぎを防ぎ、復元力をサポートする意味合いもあるという。
こうした考え方はタイトリストの「T200」「T300」、ブリヂストンの「JGR」アイアン他でも採用されている。これまでの樹脂パッチのように振動吸収というレベルを超えている。分厚い弾力樹脂をフェースとバックフェースの間にギッチギチに詰めておき、打球部をパンパンに膨らんだ風船のように密度を高めておく。こうすることでインパクトでのフェースのたわみと復元をコントロールできるとしているのだ。
たまにこうした分解パーツを見てみると、現在のアイアンの構造の複雑さと設計的な意図に気づくことができる。ゴルフクラブの性格は、基本的には厚みのコントロール(重さの振り分け)で決まる。どこが重くて、軽いのか。そういう視点で様々なクラブを見てみてはいかがだろうか。