全米プロチャンピオンのデービス・ラブ3世の自宅が火災で全焼した。彼が体験した家族にまつわる悲劇、そして“真のジェントルマン”だというその横顔を、海外取材経験20年のゴルフエディター・大泉英子が語る。

「家族みんなが助かり、無傷でよかった。

先週の金曜日、米ツアー21勝、全米プロチャンピオンのデービス・ラブⅢの自宅が火災で全焼するという事件が起きた。場所はジョージア州セント・シモンズアイランド。PGAツアーのRSMクラシックが開催されているシーアイランドリゾートのある超高級リゾート地で、ブラント・スネデカー、ザック・ジョンソン、マット・クーチャー、ハリス・イングリッシュら多くのプロゴルファーたちが居住する地域でもある。

「笑いとすばらしい思い出の詰まった家を失ってしまって悲しいが、家族みんなが助かり、無傷でよかった。消火活動に当たってくれた人たちには本当に感謝している」とラブは自身のツイッターで報告した。

3月27日の早朝、ラブとロビン夫人は自宅にいたが、ガレージで発生した火災にラブが気づき、消防署に連絡。3台の消防車が直ちに現場に急行し消火に当たったが、到着した時には家は炎に包まれ、消し止めることはできなかった。なお、火災の原因は調査中だと言う。

画像: 全米プロチャンピオンで元世界ランク2位のデービス・ラブ3世(写真は2016年のマスターズ 撮影/姉崎正)

全米プロチャンピオンで元世界ランク2位のデービス・ラブ3世(写真は2016年のマスターズ 撮影/姉崎正)

ラブはオートバイやボート、乗馬や狩りなど趣味が多彩で、ガレージにはおそらくこれらの趣味に関係する道具などが置かれていたと思われる。長年住み続けた自宅ではゴルフ場の設計などの仕事も行なっていたので、懐かしい思い出の他にも仕事に関するもの、過去、ゴルフ人生で獲得してきた大事な記念品なども消滅してしまったに違いない。

ラブは至極まっとうなプロゴルファーで、いかにもアメリカを代表する真のジェントルマンなのだが、その正統派なイメージとは裏腹に、こうした家族にまつわる悲劇も数々経験している。

有名なのは1988年に見舞われた父の飛行機による事故死だ。父は全米でも有名なゴルフのインストラクターで、ラブのゴルフ人生に最も影響を与えた人物として語られているが、フロリダ州ジャクソンビルのゴルフスクールに2人のインストラクターとプライベートジェットで移動中、墜落事故に遭った。

悲しみに打ちひしがれた彼は、この悲劇をモチベーションに変え、一生懸命練習して父に優勝を捧げたいと考えるようになった。そしてついに97年、ウィングドフットで開催された全米プロでメジャー初優勝。18番のフェアウェイに差し掛かった時に美しい虹が現れたが、メディアたちは皆、「天国の父がデービスを優勝に導くために見守っていたのだろう」と書きたてた。

そしてもう一つの彼の悲劇は、義理の弟による横領が発覚し、それが原因で自殺を図った弟の死体の第一発見者になったことである。

ロビン夫人の妹と結婚したジェフリー・ナイトは、ラブの転戦の旅の手配や日々の支払いなど雑用を手伝っていたが、彼はラブの銀行口座から金を横領。それに気づいたラブはFBIに捜査を依頼した。ちなみにその口座は、実は今回全焼した家を2000年にセント・シモンズアイランドに新たに建築する費用を貯蓄していた口座である。FBIに尋問されるとナイトはすぐに容疑を認めたが、その調査のあと、自宅には戻らなかった。狩りや釣りを何度も共にしていた義理の弟がいないことに気づいたラブは、自宅のハンティング用のロッジに行ってみると、そこで彼の死体を発見。ナイトは銃で自らの頭を撃ち抜き自殺したのだった。

こうした家族の悲劇に何度も見舞われてきたラブ。火災で自宅を失い数日が経つが、彼が4歳の頃から住み慣れたセント・シモンズアイランドのコミュニティの選手仲間や友人たちは、きっと彼に支援の手を差しのべていることだろう。彼はセント・シモンズに住む選手たちの親分のような存在で、日頃から若手たちにアドバイスを送ったり、一緒に練習したりしている仲だ。

いつも礼儀正しくて、親切なラブもまもなく56歳になるが、かつてはツアー屈指の飛ばし屋で、世界ランク2位にまで上り詰めた実力派。全米プロチャンピオンで、世界ゴルフ殿堂入り選手の彼は、真面目で誰もが模範にしたいような男性だ。ラルフローレンのクラシックアメリカンな装いがよく似合う、ミスター・アメリカにはレギュラーツアーに出ていた頃からよく取材させてもらったが、一見苦虫を潰したような彼の表情からは想像できないくらい、親切でやさしい人である。

ついこの間、アーノルド・パーマー選手権に出場中のラブと久しぶりにラウンド中に遭遇したが、手を振って「ハロー、元気?」と声をかけてくれた。気難しそうな顔立ちとのギャップがなんとも言えない魅力だ。

また、韓国で開催されたプレジデンツカップの時には、スーパーで韓国のカップ麺を買いあさっていた彼にも遭遇したことがある(当時、副キャプテンだった)。カップ麺など、ラブ様には似合わないと思った私は、「選手たちと夕食を食べるんでしょう?なんでこんなカップラーメンなんて買ってるの?」と聞くと「リッキー(ファウラー)や他の若手たちが、夕食だけでは物足りないって言うから、買い出しに来てるんだよ。けっこうおいしいよね」と笑っていた。そう、彼は後輩思いのいい人なのだ。しかも気取りがないところがいい。

そんなラブに、今後二度とこのような災難が降りかからないことを心から祈っている。

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