「パット・イズ・マネー」というくらい、勝利を掴むためのカギを握るパッティング。では、世界のトッププロたちが戦うPGAツアーで真にパットの名手といえるのは誰なのか? データをもとに在米ゴルフジャーナリスト、アンディ和田が分析した。

ジョーダン・スピース? ルーク・ドナルド? それともタイガー?

パッティングの名手というと、ベン・クレンショー、ブラッド・ファクソン、スティーブ・ストリッカー、ルーク・ドナルドなどの名前が頻繁に挙がります。 勝負所でパットを決めるという視点ではやはりタイガー・ウッズが一番だという意見のゴルフファンも多いでしょう。

しかし、PGAツアーでもっともパットが上手いのは誰か? シンプルな質問ですが、主観的に返答はできたとしてもなかなか数値データに裏付けされた回答をするのは難しいのではないでしょうか?

そこで、PGAツアーのパッティングデータを調べてみると9つのカテゴリーに分かれています。そのなかをさらに詳しく調べていくと、パッティングに関係するランキングは全部でなんと「110」の部門に分かれるのです!

画像: パッティングの名手、ルーク・ドナルド。賞金王に輝いた2011年のルークは1206ホール中3パット15回(1.24%)と輝かしい記録を残した

パッティングの名手、ルーク・ドナルド。賞金王に輝いた2011年のルークは1206ホール中3パット15回(1.24%)と輝かしい記録を残した

その中で、5つのとくに重要と思われる部門に焦点を当てて調べてみましたので紹介させて下さい。(データは昨シーズンと今シーズンの合計数値)。誰が上手いのかとともに、日本のエース・松山英樹選手のデータも調べてみましたので、それもご紹介します。

【1】3パットしない率

当たり前のことですが、ティショットはすべての選手が同じ場所から打っていくのでデータを比べやすいですが、パッティングのデータはすべての選手が違う場所、違う距離のパットを打つので比較が難しいです。

まずは「3パットしない率」の上位3名、ツアー平均、そして松山英樹のデータです。

名前3パット率3パット回数ホール数ラウンド数
1位ハドソン・スワッフォード1.63%23140480
2位ウエブ・シンプソン1.75%311764101
3位ウィンダム・クラーク1.94%442268128
ツアー平均3.04%
松山英樹3.50%822340133

過去の記録でいうと、2011年に賞金王に輝いたルーク・ドナルドは483ホール連続で3パットをしなかったというツアー記録を残しました。2011年のルークは1206ホール中3パット15回(1.24%)でした。

【2】短距離(3メートル以内)の1パット率

次のランキングは3メートル以内のパットを1回で沈める確率です。

正確なPGAツアー公式データの距離としては10フィートなので3メートル4.8センチ以内となります。

名前1パット率挑戦回数1パット数ラウンド数
1位デニー・マッカーシー90.66%18211651137
2位ウィンダム・クラーク90.36%17741603128
3位ハリス・イングリッシュ90.05%20321830139
ツアー平均87.39%
松山英樹86.56%19061650133

過去20年を調べてみると2009年にタイガー・ウッズが90.4%でトップ。 2008年は丸山茂樹が89.3%でツアー2位でした。

【3】中距離(3から6メートル)の1パット率

3番目の比較データは中距離のパット。 この長さを1パットで沈めることができるかできないかでバーディの数、パーセーブ率が変わってくるでしょう。PGAツアー選手中の平均値で3メートルから4.5メートルを 1パットで沈める確率は30%、4.5メートルから6メートルだと約18%に下がります。 26歳で既にメジャー3勝しているジョーダン・スピースは自ら「中距離の曲がるパットが得意」だと以前自己評価をしていましたが、データ的にもそれを証明しています。

画像: 最近は元気がないが、中長距離のパットはツアー1位の冴えを見せているスピース(2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

最近は元気がないが、中長距離のパットはツアー1位の冴えを見せているスピース(2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

名前1パット率挑戦回数1パット数ラウンド数
1位ジョーダン・スピース31.95%363116224
2位デニー・マッカーシー30.80%500154274
3位ドーミニック・ボレリ30.59%31897210
松山英樹24.55%448110266
ツアー平均24.19%

【4】長距離(6メートル以上)の1パット率

パッティングで長距離というと10メートル以上のパットというイメージはありますが、今回は6メートル(20フィート)以上ということで紹介させて下さい。 長いパットの上手い選手は3パットしない率としても上位にくるでしょう。ツアープロでもこの距離になると沈める確率は平均で20回に1回となります。この部門でもジョーダン・スピースは優れています。

名前1パット率挑戦回数1パット数ラウンド数
1位ジョーダン・スピース9.93%33233112
2位ケビン・ナ8.82%30627107
3位デニー・マッカーシー8.04%49740137
松山英樹6.00%45027133
ツアー平均5.40%

【5】ストロークゲインドパッティング

PGAツアーのパッティングデータでもっとも多く使われる指標はこの「ストロークゲインドパッティング(SGP)」というものです。溯ると1980年代は合計パット数がパッティングの主な指標でしたが、この数値は相対的にパーオンが低い選手に有利になってしまうということで90年代には使われなくなりました。 替わってパーオン時の平均パット数がパット部門の指標に移行しました。

しかしこの数値もアイアンの精度が高い選手が有利であったり、パー5で多く2オンする選手には不利になってしまうなどということもあり正しいパッティングだけの指標ではありませんでした。

2011年以降PGAツアーで一番重視される「SGP」は米コロンビア大学ビジネススクール教授のマーク・ブローディー氏が開発したもの。グリーン上のパットの長さとパット数で計算します。

その計算の仕方というのがあまり知られていないようなので簡単に説明させてください。 ちょうど1パットでパットを沈められるかという50%-50%の確率の「ベースライン」は7フィート10インチ(2メートル38センチ)となっています。

このベースラインとなるパットはツアー平均1.5パットなので入れると0.5ポイント加算、外すと0.5ポイントマイナスになります。短いパットの例だと1メートルのパットは平均1.05という数値なので入れると0.05ポイント加算、外してしまうと0.95マイナスになります。

もちろんより多くのパットを1回で沈めていけば数値は上がっていくのは当たり前ですが、33フィート(約10m)以上の長い距離のパットを2パットでしっかり沈めていけば数値は上がっていくという計算でもあるのです。20メートルのパットの平均値は2.24ストロークですが、毎ホール20メートルのパットを2回で沈めることを18回繰り返すと、SGPはプラス4.32。 という数値になります。

名前SGP平均数値SGP数値合計計測ラウンド合計ラウンド数
1位デニー・マッカーシー1.07112.366105137
2位アンドリュー・パットナム0.7554.42672111
3位ジョーダン・スピース0.7258.98981112
松山英樹-0.14-14.71569105

SGの数値はPGAツアー競技のショットリンクデータがベースとなるのでショットリンクが用意されていないアジアの試合(ZOZO選手権、CJ ナインブリッジス、WGC-HSBCなど)やマッチプレー、マスターズなどは対象外になっています。松山選手の場合は全105ラウンド中69ラウンドのみ測定となっています。

とくに昨年秋からスタートした今シーズンに関しては43ラウンド中29ラウンドのみしかSGパッティング数値として計算されていないため、下記のラウンドは計算されていません。

大会名ラウンドスコア
CJ カップ ナインブリッジス169
270
369
465
Zozoチャンピオンシップ165
267
365
467
WGC-HSBCチャンピオンズ175
267
368
467
ファーマースインシュランスオープン267
プレーヤーズ選手権163
合計944
平均67.42

今シーズンの松山選手のSGPの数値はマイナス0.535ランクで 198位(231人中)ですが、しっかりとすべてのラウンドが反映されているわけではないのでそんなに心配なさらないでください。

筆者注:記載したデータは今シーズンがまだ49試合中22試合しか終了していないので、今シーズンと昨シーズンを合わせました。今シーズンSGP数値トップのルイ・ウーストハイゼンは計測6ラウンドのみだったので比較データとしてはサンプルデータが足りないという理由で排除しています。

画像: 【基本編】3パットしないためのロングパットの基本の打ち方・構え方~原田修平プロ~ youtu.be

【基本編】3パットしないためのロングパットの基本の打ち方・構え方~原田修平プロ~

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