6月に50歳の誕生日を迎えるフィル・ミケルソンはツアー通算44勝、うちメジャー5勝を誇りグランドスラム(4大メジャー制覇)まで全米オープンを残すだけ。いうまでもなく稀代のスーパースターである。しかし30代半ばまで彼は“メジャー無冠の帝王”だった。転機が訪れたのは2004年。マスターズに勝ち不本意な通称を返上したがその裏にあったストーリーとは……。

「お前はマスターズに勝つ」そう予言して旅立った祖父に捧げる勝利だった

サンディエゴにあるミケルソンの祖父アルさんの自宅のキッチンにはピンフラッグがところ狭しと飾られている。優勝するたび祖父母孝行の孫がフラッグにサインをして家に届けていたからだ。

画像: 今年で満50歳を迎えるフィル・ミケルソンはツアー通算44勝のうち、メジャー5勝を挙げている。(写真は2019年の シュライナーズ・ホスピタルズ for チルドレン・オープン 撮影/姉崎正)

今年で満50歳を迎えるフィル・ミケルソンはツアー通算44勝のうち、メジャー5勝を挙げている。(写真は2019年の シュライナーズ・ホスピタルズ for チルドレン・オープン 撮影/姉崎正)

03年のクリスマスの頃、祖父は孫にこういった。「レギュラーツアーのフラッグはもういいよ、フィル。次はメジャーのフラッグが欲しいもんだな」

祖父が欲しがったのは黄色いオーガスタナショナルのフラッグ。「お前はきっとマスターズに勝つよ」と予言した祖父はその1カ月後還らぬ人となった。

そして迎えた翌年4月のマスターズ、ミケルソンは優勝争いの真っ只中にいた。「彼、いつもと違うんです。優勝争いをしていると気持ちが高ぶって前のめりになるのに、今回はすごく落ち着いている。平常心でプレーしています」といったのは妻・エイミーさんだ。

すると祖父の予言通り最終日最終ホールで5メートルのバーディパットを沈めたミケルソンが初のメジャータイトルを手中に収めた。

下りの難しいウィニングパットがカップに向かって3分の2ほど転がったところでミケルソンは体を屈め、ボールが淵をクルッと回ってカップに沈んだ瞬間、両手足でバンザイ! 地面を蹴って跳び上がり喜びを全身で表現した。

「カップにボールが消えた瞬間、あぁ祖父が入れてくれたんだな、と思いました。空中に飛び跳ねながら夢が叶ったのを実感したのです」(ミケルソン)

勝つときは理屈では説明がつかないことが起こるもの。2017年のマスターズでは母国のカリスマ、故セベ・バレステロスの満60歳の誕生日にメジャーに無縁だったセルヒオ・ガルシアが優勝。「セベが背中を押してくれた」と感慨深げにつぶやいた。とっぷりと暮れたオーガスタの空を指差しガルシアが憧れの人に感謝したシーンにグッときた方もいるだろう。

11月に延期されたマスターズでもまた不思議な縁(えにし)が勝敗を左右するのだろうか。

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