新型コロナウイルスの感染拡大による影響が甚大なアメリカだが、PGAツアーは約1か月後にツアー再開予定。どのように安全を確保するのか、海外取材経験20年のゴルフエディター・大泉英子が状況をレポート。

“今のところ”6月に再開予定だが……

PGAツアーは今のところ、6月11日から始まるチャールズ・シュワブ・チャレンジをツアー再開1試合目としてセットアップし、同大会から4試合は無観客で行うと発表している。ただ、PGAツアーのジェイ・モナハン・コミッショナーも繰り返し述べているように、「PGAツアーのスケジュール再開は、ツアーやトーナメント開催地域の人々の安全と健康が最大の優先事項」であり、安全で責任を持って開催できるという確証がなければ、ツアーは再開しないとしているため、スケジュールはひとまず定めたものの、実際に実施できるかどうかはまだまだわからないのが現状だ。

先日、PGAツアーと米メディアとのテレビ会見が行われたが、そこでツアー側から語られた「安全と健康」に関する案件は以下の通りである。

【1】選手、キャディ、メディア、放送局などの関係者の健康と安全のため、トーナメント現場での検査が必要。大規模に検査が可能で、素早く結果が出る検査方法を厳密に調査中。唾液での検査にも注目しているが、ツアーが再開されるまでの時間でさらに調査方法を検討する。

【2】選手たちが自宅を出る前に何らかの検査を始める。そして開催コースまで移動するにあたり、できるだけ衛生的な移動手順を踏み、ゴルフ場での日々のルーティーン、オフィシャルホテル、食事時などでも安全で清潔な環境で検査は行われるだろう。

【3】チャールズ・シュワブ・チャレンジの開催が決定した場合、それに続く試合も地域、州、国の健康に関する規制に従い、我々(ツアー)の手順に問題を感じず、検査手順、現場での手順が自信の持てるレベルなら、大会を開催する。そうでなければ開催しない。

【4】ソーシャルディスタンスを守り、練習場から1番ティへ向かうまでの細々としたことや、スコアカード、バンカーレーキ、ピンフラッグなどへの対処など(清潔にする・消毒する)を明確にする。

画像: PGAツアーは約1か月後の6月8日から始まるチャールズ・シュワブ・チャレンジが再開1試合目となる。マスターズは11月開催予定だが……(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

PGAツアーは約1か月後の6月8日から始まるチャールズ・シュワブ・チャレンジが再開1試合目となる。マスターズは11月開催予定だが……(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

特にPGAツアーは、他のどのツアーよりも多くの国の選手たちが集結しているので、その分ウイルスを持ち込み、感染する・させるリスクは高いと言えるだろう。現在、アメリカ国外に滞在している選手は25名、キャディは35名いると言い、海外渡航規制に引っかかるとしている。アメリカ国内に自宅を持ち、ツアー再開まで待機している選手はいいが、自宅を持たず、いったん帰国している遠征組は国によっては入国不可、あるいは入国後14日間は外出を控えるよう要請されているので、ツアー再開までに戻ることが不可能だったり、あるいは前もって2週間前には米国に入国し、ホテル暮らしを余儀なくされる場合もあるだろう。

もちろんアメリカ国内の移動にも感染リスクはつきまとう。試合会場で念入りに消毒作業やソーシャルディスタンスを取ることを実行しても、その会場にやってくるまでの一人一人の過程をコントロールすることは難しい。

そういう私自身も、ツアー再開時には取材に行きたい気持ちは山々だが、日本は米国に入国不可とはなっていないものの、入国後14日間は外出を控え、公共交通機関やタクシーの使用を控えるように要請されている。今後、この入国制限がどこまで緩和されるのか、あるいは逆に厳しくなるのかは不明だが、米ツアー取材に行くのもかなり難しい時代になった。以前はバスか電車に乗るような感覚で飛行機で移動していたものだが、今後はこの状況が当面のスタンダードになる。そして取材方法も、今までのように至近距離でフェース・トゥ・フェースに行うことができなくなるかもしれない。マスクをすればOKということであれば助かるが……。置かれた立場に柔軟に対応していくしか、道はないだろう。

そしてこの柔軟な対応は選手にも当てはまることだと思っている。PGAツアーは選手に対して、グリーン上ではピンを抜かずにパッティングし、バンカーはならさないか、あるいは自分のクラブでササッとならす(キャディがレーキを使ってならすことはしない)、という可能性もあると示唆しているようだが、これに関して、米国ゴルフメディアに対しアダム・ハドウィンは

「いつも僕はピンを抜いてパットしているのに、突然ピンを抜かずにパットするように言われるのでは、正直言ってツアーに戻ってプレーすること自体、考えちゃうね。いろんなことが変わりすぎだよ」と語っている。

画像: アダム・スコットはピンを差したままパットしている。抜いている選手も感染対策で差したまま行うようだ(撮影/有原裕晶)

アダム・スコットはピンを差したままパットしている。抜いている選手も感染対策で差したまま行うようだ(撮影/有原裕晶)

ツアーは「選手たちは個人の事業主であり、PGAツアーの試合に出ることを要求されているわけではない。だから、プレーするかしないかは個人の判断次第」とコメントしている。つまりツアーに出たくないなら、それはその選手の個人の判断であり、致し方ないということだ。

となると、選手たちも頭を切り替えて、今まで固執してきた習慣ややり方をこのような時代のやり方に順応しながら、プレーする必要があるだろう。ギャラリーが不在だと雰囲気が出ない、エネルギーが出ないと語る選手もいるが、そういうことも含め、再開に向けて心の準備は必要だ。おそらく切り替えの早い選手は、ピンを挿したままのパッティングの練習や、レーキできれいにならされていないバンカーからでもピンに寄せる練習をしている人もいるかもしれない。いずれにせよ、現況でできることを最大限努力する、ということが求められているのだと思う。

これはゴルフだけの話ではない。与えられた状況の中でいかに柔軟に対応できるかが、コロナウイルスに打ち勝つ最大の秘訣と言えるだろう。我々が会社に行かなければできないと思っていた仕事も、実はリモート作業で不自由ながらもできることがあるということがわかってきたのと同様に、従来の世界観や価値観が大きく変わりつつある今、今後のゴルフの興行のあり方や選手たちに求められる事柄も変わってくる可能性があるかもしれない。

 

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