コースの「高低差」は戦略性を高める要素
ゴルフ場でラウンドするうえで考えなければならないのが、コースの高低差だ。
とくに日本のゴルフ場は起伏に富んでいて、高低差のあるコースが多い。これは、土地が狭い日本では平坦な土地が限られていて山などの高地にゴルフコースを作らざるを得なかったという事情もある。
高低差はコースの戦略性を高める要素の一つで、ショット地点とボールの落下地点の高さに差があることでキャリー・ランの飛距離が変わってしまい、計算が狂いやすい。さらにはターゲットを見上げる、もしくは見下ろすことになるため視覚的な錯覚が起きやすくなり、距離感を見誤りやすい。
そのためボールの落下地点がショット地点よりも高い「打ち上げ」、その逆の「打ち下ろし」のシチュエーションでは、正確な高低差の把握、そして高低差を意識した番手選びや打ち方が求められるのだ。
高低差はどう測ればいい?
打ち上げ、打ち下ろしのショットを打つためには、まずショット地点とターゲットとの高低差を知ることが重要。
距離計測器の「高低差計測機能」は競技では使用できない
高低差を正確に測るため、近年の距離計測器にはコースの高低差を測る機能を持つ製品も発売されている。しかし2019年から施行されたR&Aのゴルフ規則では、用具によって「距離や方向に関する情報を得ること(例えば、距離計測器やコンパス)」は認められているものの、「高低差を計測すること」は認められていない(規則4-3a)。
したがって、競技で距離計測器を使用する際は、高低差計測機能をオフにした状態でなければならない。
「高低差計測機能」を使わない高低差の測り方
では、高低差を計測することは不可能なのか、と言われると答えはノー。高低差計測機能を使わずとも、距離計測器から得られる情報で高低差を求めることは可能だ。
必要なのは、ショット地点とターゲットを結んだ直線距離と、ショット地点とターゲットを最短距離である水平方向で結んだ際の「水平距離」。そして、中学校で習う「三平方の定理」についての知識だ。
三平方の定理とは直角三角形の三辺の長さに関する定理で、斜辺をc、ほかの2辺をa、bとしたときに「a^2+b^2 =c^2 」という関係が成り立つ、というもの。
高低差のあるショットを打つ場面を横からの断面図で見た場合、図Aのように直線距離を斜辺c、水平距離を辺b、高低差を辺aとした直角三角形と考えることができるため、三平方の定理によって高低差の逆算が可能というわけだ。
距離計測機器を持っていない場合
距離を測る手段がない場合は、得られる情報も限られてくる。そんな状況でショット地点からターゲットまでの高低差を把握するためにもっとも手っ取り早いのは、コースを熟知したキャディさんに聞くこと。距離計測器を持っている場合でも、目安として尋ねておくのは大いにアリだ。
セルフプレーの場合は、カートに付属されているコースガイドに高低差が記載されていることがあるのでチェックしてみよう。カートの種類によっては液晶が搭載されていて、そこにコース情報が映し出されている場合もある。
打ち上げではどう打つ? 番手選びは?
打ち上げのショットで飛距離はどう変わる?
打ち上げのショットではボールの落下地点がショット地点よりも高い。そのため高低差がない状況でショットを打ったときよりも、着弾がより早くなる。そのぶんボールの滞空時間は短くなり、キャリーは減少してしまう。
高さを出しづらい大きい番手ほどボールの降下角がゆるやかになるため、高低差によって失うキャリーの飛距離も大きくなり、ショートの危険が高まる。逆に高さを出しやすく、ボールの降下角がより垂直に近くなるロフトの寝た小さい番手ほどキャリーの減少幅も少ないため影響を受けにくい。
ランに関してはコースの地形にもよるが、着弾地点まで左足上がりの傾斜が続いている場合だとボールが転がりにくくなり、ランが出にくい。
打ち上げのショットの打つ際には飛距離のロスを見越した番手選択が必要となる。目安としては、10ヤードの打ち上げの場合は1.5~2番手、20ヤードの打ち上げの場合は3~4番手上げる必要がある。
「1.5~2番手」と幅があるのは、打ちたい距離によって番手が変わり、前述したようにロフトが立っているクラブほど高低差による飛距離への影響も大きくなるからだ。具体的に言えば、PWと6番アイアンではヘッドスピードにもよるが、だいたい約5ヤードほど高低差の影響に差が出るだろう。
したがって、たとえば10ヤードの打ち上げで100~130ヤード以内の短い距離を打つならば1.5番手クラブを上げれば十分だが、150ヤード以上の距離を打ちたい場合はそのぶんロフトの立った番手を選択するため、飛距離ロスを大きく見積もって2番手上のクラブを選択するのが正解、ということになるわけだ。
打ち上げのショットを打つときに気を付けることは?
では打ち上げのショットを打つときに気を付けるべき点を見ていこう。まず注意すべきなのは、目線、そしてアドレスだ。
打ち上げのショットを打つ際は、ターゲットが自分の立つ位置よりも上側にあるので目線が高くなりがちだ。すると右肩が下がったアドレスになりやすく、これが右にプッシュアウトやスライスの原因になりかねない。両肩のラインは地面と平行な状態を保とう。
また、ボールを高く上げようとし過ぎるとスウィング中に体が起き上がりやすく、ロフトも寝てしまうことで飛距離をさらにロスする危険がある。なるべく普段通りのスウィングを心がけよう。
ショット地点がティイングエリアやフェアウェイの平坦なライである場合は、アドレスは特別に変えなくても良い。前述の通り高低差を考慮して番手を選択し、打つだけだ。
打ち上げのホールは左足上がりのライが多い
打ち上げホールでは、フェアウェイのショット地点が左足上がりのライであることも多い。この場合はライの影響も考えてアドレスやスウィングに工夫をする必要がある。
左足上がりのライではボールが左に出やすい。ボールの右側の地面が低く、左側の地面が高くなっているので、左足上がりのライかつ打ち上げのショットを打つ場合は、打ち込まずに斜面なりの軌道(=アッパーブロー)でスウィングしよう。
また、左上がりのライではロフトが斜面の角度分ロフトが寝ることで、飛距離が落ちる。たとえば5度の左上がりの場合なら1番手上のクラブを選ぶことでショートを回避しよう。
打ち下ろしのクラブ別打ち方、番手の選び方
打ち下ろしのショットで飛距離はどう変わる?
打ち下ろしのショットではボールの落下地点がショット地点よりも低い。そのため高低差がない状況でショットを打ったときよりも、着弾がより遅くなる。そのぶんボールの滞空時間は長くなり、キャリーが伸びてしまう。
打ち下ろしも打ち上げの場合と同様に、ロフトが立った番手ほど高低差の影響を受け、キャリーが伸びてオーバーの危険が高まり、逆にロフトが寝た番手ほどボールの降下角がより垂直に近くなるためキャリーは増えにくい。
ただし、打ち上げに比べて打ち下ろしの場合のほうが飛距離への影響の度合いは少ない。なぜならボールの滞空時間が伸びるぶん、高さが出づらいロフトの立った番手でもボールの降下角は最終的に垂直に近くなりやすいためだ。
そのため打ち下ろしのショットの打つ際の番手選択の目安は、短い番手であれば10ヤードの打ち下ろしの場合は1番手、20ヤードの打ち下ろしの場合でも2番手下げれば十分だろう。
ランに関してはコースの地形にもよるが、着弾地点まで左足下がりの傾斜が続いている場合だと、ボールが止まりにくくランが出やすいので注意しよう。
打ち下ろしのショットを打つときに気を付けることは?
打ち下ろしのショットを打つときも、まず注意すべきなのは目線とアドレス。
ターゲットが自分の立つ位置よりも下側にあるので目線が低くなり、左肩が下がったアドレスになりがち。するとスウィング中に体が突っ込みやすくなり、結果クラブ軌道がアウトサイドイン軌道になることでスライスのミスが出やすくなってしまう。打ち上げのショットと同じく、目線はなるべく平行に保つことを心がけよう。
ショット地点がティイングエリアやフェアウェイの平坦なライである場合は、スウィングを特別変える必要はない。前述の通りに高低差を考慮して番手を選択し、普段通りに打って良い。
打ち下ろしのホールは左足下がりのライが多い
打ち下ろしのホールでは、ショット地点が左足下がりのライであることも多い。この場合はライの影響も考えてアドレスやスウィングに工夫をする必要がある。
左足下がりのライではボールが右に出やすい。ボールの右側の地面が高く、左側の地面が低くなっているので、斜面なりに打つためには、オープンスタンスに構えてアウトサイドイン軌道で振るのが良い。
左上がりのライでは、平坦なライよりもロフトが立つぶん、飛距離が出やすくなる傾向にある。例えば4度の左足上がりのライでは、1番手下のクラブを選択し、オーバーしないように注意する必要があるだろう。