飛距離だけでなく打感や寛容性を求めて複合素材や中空構造、ポケットキャビティなど複雑化しながら進化を遂げるアイアン。ギアライター高梨祥明が機能と形状をじっくりと解説する。

樹脂バッジを貼るのではなく、樹脂パーツをバックフェースとの間にパンパンに挟むのがトレンド!

分解ヘッドなどを使って、最新のアイアンを普段あまり確認できない「構造」面から考察してみたい。

まず、テーラーメイドの「SIM MAX」アイアンだが、外見的な特徴はバックフェースのソールとトップラインを結ぶ“スピードブリッジ”だ。これはヘッドのフレーム周りをガッチリとさせる筋交いの役割を果たしているが、もうひとつ見逃せないポイント、役割がある。

それはフェース下部の裏側に押し込まれた“エコーダンピング”と呼ばれる特殊な樹脂パーツをバックフェースでしっかりと押さえ込む役割を果たしているということ。“スピードブリッジ”があることで、超薄肉のフェースに樹脂パーツが常に密着するように圧がかかっており、打球感が向上するだけでなく、インパクトでのフェースのたわみ量が最適化されているのである。

画像: 画像A テーラーメイド SIM MAXアイアンのバックフェース(上)とフェースの一部をカットしたサンプルヘッド(下)

画像A テーラーメイド SIM MAXアイアンのバックフェース(上)とフェースの一部をカットしたサンプルヘッド(下)

SIM MAXアイアンだけでなく、最近のアイアンには薄肉フェースを裏側から支えるように樹脂パッドを密着させるように配置したアイアンが少なくない。従来アイアンのように薄い樹脂バッジをペタッとフェース裏に貼るのではなく、フェースとバックフェースの間に弾力のある素材を詰め込むように配置。そうすることで薄肉フェースのたわみ過ぎによってフェースが破損するのを防ぐだけでなく、たわみを最適化することでエネルギーロスを最小にして、ボールスピードを上げようとしているのである。

画像: 画像B 薄肉フェースの打球面(フェースセンター)を樹脂パーツでサポートする、タイトリストの T300アイアン

画像B 薄肉フェースの打球面(フェースセンター)を樹脂パーツでサポートする、タイトリストの T300アイアン

画像Aの下はSIM MAXアイアンのフェースをカットした実物サンプルだが、まさに打球面の真裏に密着するように“エコーダンピング”があることがわかるだろう。空間を作らないのがポイントなのだ。こうした薄肉フェースを裏側から圧力を高め、空間圧力を高めて支える方法は、タイトリストの「T200」、「T300」アイアン(画像B)や、ブリヂストンの「JGR HF3」アイアンにも見られるトレンド手法である。

ポケットキャビティを極めていく。アイアンのウッド化が最新の開発テーマ

続いて分解サンプルを眺めながら、「最近のアイアンはフェースが薄いだけでなく、その薄肉部がソールに近いエリアまで広がっている」という視点での考察を加えてみたい。

画像: 画像C 左上/グローブライド オノフ赤アイアン 右上/ミズノプロ920アイアン 左下/ゼクシオ イレブン 右下/ピン G710アイアンは中空構造でやさしさを追求

画像C 左上/グローブライド オノフ赤アイアン 右上/ミズノプロ920アイアン 左下/ゼクシオ イレブン 右下/ピン G710アイアンは中空構造でやさしさを追求

画像Cにその主だった例を挙げてみたが、一様にフェース面が大きく、そしてフェース全体が極めて薄肉なことがわかるだろう。画像C左上の「オノフ赤アイアン」のように、フェースとボディパーツの後ろに、別に作った重たいバックフェースパーツを合体させる。そうすることでフェース下部までしなやかにフェースをたわますことができ、なおかつソールとバックフェースに重さを集中させることができるため、深重心にしても重心高さを低めに抑えることが可能なのである。

ちなみに、重心を下げるためにバックフェースを完全に塞がないのが現在主流の考え方。このためバックフェースがカンガルーポケットのようになる。これが“ポケットキャビティ”と呼ばれている、さらなる飛ばしを目指したアイアンに多い基本構造である。

ポケットキャビティはボディとバックフェースパーツを別で作り、溶接で合わせるのが基本だが、「ミズノプロ920」アイアン(画像C右上)のように鍛造の一体ヘッドを最新技術で機械掘削して深いポケットキャビティに仕上げたモデル登場してきた。

ちなみに画像C左下の『ゼクシオ イレブン』アイアンは、ボディフレームパーツがダブルになっているが、これもフェース下部、ソール近くまで深くキャビティ化することで、ボディをたわませてフェース下ヒット時のエネルギーロスを防ぐ役割を果たしている。

今回紹介した最新のアイアンは、いわゆるマッスルバックのようなオーソドックスなフォージドアイアンに比べ、非常に複雑で手間のかかる製法で作られている。その目的はアイアンの形状・打感を保ったまま、ウッドのような性能を出すことにあるといえば簡潔だろうか。アイアンでも大きな飛距離が欲しい! そういうゴルファーニーズを叶えるためにアイアンはこれまでにない素材の組み合わせ、構造に大きくシフトしている。

画像: 元千葉ロッテ「魂のエース」ジョニー黒木がレッスンを受けたら、8番アイアンで驚異の193ヤード!?~小澤美奈瀬プロ~ youtu.be

元千葉ロッテ「魂のエース」ジョニー黒木がレッスンを受けたら、8番アイアンで驚異の193ヤード!?~小澤美奈瀬プロ~

youtu.be

This article is a sponsored article by
''.