父、兄弟、息子まで優秀なゴルフ指導者なハーモン一族
PGAツアーをフォローしている方でしたら「ハーモン」というツアープロを教えるインストラクターの名前を聞かれたことがあるでしょう。
大御所ブッチ・ハーモン氏は80年代後半から90年代前半にグレッグ・ノーマンやフレッド・カプルスをサポート。90年代後半からはタイガー・ウッズやフィル・ミケルソンの全盛期時代を支え、その後はアダム・スコットやダスティン・ジョンソン、ブルックス・ケプカ、リッキー・ファウラーらトッププロを指導していました。
「ブッチ」という名はニックネームで、本名はクロード・ハーモン・ジュニア。ブッチのお父さんは1948年のマスターズ制覇したクロード・ハーモン・シニア(1989年に他界)。彼の本業はツアープロではなく、今年全米オープンが開催予定の名門ウィングドフットGCでヘッドプロを務めるゴルフインストラクターでした。
父クロードの4人の息子達、長男のブッチ、ディック(他界)、クレッグ、ビルはみな高評価のゴルフ指導者です。そしてブッチの息子、クロードの孫となるクロード・ハーモン3世はこれまでジョンソン、ケプカ、ファウラー、ジミー・ウォーカー、ゲーリー・ウッドランドなどを指導してきました。
前置きが長くなりましたが、御年76歳のブッチは2年前から現場サポートやテレビ解説を引退されラスベガスでご隠居生活を続けています。これまで指導したツアー選手達の裏話や成功を収めている「ハーモン一族の教え」、「ゴルフ上達の秘密」などを最近語っていたのでここで紹介させて下さい。
「ゴルフ」を人に教えるのか? それとも人に「ゴルフをする」ことを教えるのか?
英語の捻った言い回しになりますが、「ハーモン一族の指導方法はゴルフスウィングの理論を教えるのではなく、その人に適したゴルフを教えるということが大事だ」とブッチは話します。
「みんなそれぞれ(動きや体型)が違うわけですから、スウィングは同じようにはできません。それぞれに見合った適した効率の良い動きを目指すのが良いでしょう。父からの教えで各個人の自然な動きを殺さずにうまく活かし、向上させ『その人自身の最高のゴルフ』を熟させていくのが大切だと習いました」(ブッチ)
「繰り返し」によって再現性を高める
世界のゴルフ界で成功を収めたゴルファー達が名前を連ねる「ゴルフ殿堂」、ブッチは殿堂入りした選手達のスウィングを比較してみたらいいと説明します。
「みんなそれぞれ個性的で変わった動きをしているでしょう? でも成功を収めた選手のスウィングはしっかりと機能しましたよね。秘密は『繰り返し』、同じ動きを継続できるかというところにあります。(現役選手で言えば)ジム・フューリックが良い例でしょう。今年で50歳を迎える彼はまだまだ現役で戦っています。彼の独特の動きはとても変わったスウィングですが、もし指導していた彼のお父さんがもっと見た目を綺麗にしようとしていたら彼のキャリアはなかったと思います」(ブッチ)
ブッチは、成功を収めている選手達の共通している点として「インパクトでクラブフェースをしっかりとスクェアに戻している点、そして動きを一定にして再現性を高めているということです」と語っています。
大事なのは小学2年生でも分かるシンプルな指導をすること
最近はビデオはもちろん、高性能のデジタル機具を使った指導方法が盛んになってきていますが、ブッチはそんな最近のレッスン傾向に苦言を呈します。
「ゴルフ自体はなかなかうまくいかない、難しいスポーツです。最近の若い指導者はそれに加えて、もっと教え方を難しくして複雑にしてしまっているような気がします。私は父からゴルフを教えるときは小学2年生が理解できるような単語を使い接するようにと習いました」(ブッチ)
そしてもう一つ大事なのは「どの動きが一番の『ガン』なのかを見極めること」だと言います。
「どの動きが根源で、良いショットを打つことを妨げているのか? を指摘して直すことで、他の3つ、4つ(の良くない点)も連鎖して向上させることができるはずです。逆に3つや4つも直すことが必要だという助言は良くないでしょう。習う側にシンプルにしてあげること、これが私や弟たち、息子が指導者として成功を収めている点です」(ブッチ)
指導方法は逆球を打たせるのとスローモーションが有効
一般ゴルファーでスライスで悩む人へのアドバイスはありますか? という問いに対し、ブッチは「頭でスウィングを考え過ぎずに、実際にどうしたらスライスの逆回転の球(フックボール)が打てるのかを身体を使って実践させます」と言います。
「たとえば、林の中にボールがあるとイメージして下さい。脱出するには左回転のフックボールが必要ですが、このときどうしますか? クラブフェース、スタンス、クラブの軌道……これらを修正して打つはず。そうすることによってスライス癖を直すきっかけとなるはずです」(ブッチ)
このように、直接スウィングに手を加えるのではなく、まず逆球であるフックを打たざるを得ない状況を想定することで、スライス改善のための“気づき”を与えるのがブッチ流のやり方のようです。
さらに、スウィングを変える際は「スローモーションドリルがオススメです」とブッチは言います。
「スウィングの動きを変えるときはスウィングスピードを遅くし、ゆっくりとスローモーションスウィングを続けるのが大事です。腕と胴体を調和させてクラブを動かしていく。打ち急ぐ人にはトップで一旦止めてからダウンスウィングをさせるドリルを薦めます。これはタイガーが『最も嫌い』だったドリルでしたが、振り返るととても重要だったと本人も認めていました」(ブッチ)
ブッチが語るツアープロの指導法
「私はこれまで優れた世界のトッププロを教えてきましたが、練習場でスウィングを比較しても『あれはブッチが教えたスウィングだ』という特徴のあるスウィングはないでしょう」とブッチ。父クロードの教えで、ツアープロのスウィングで重要なのは「最終日のバックナイン、優勝争いの中で、そのスウィングが耐えられるかどうか?」だと考えているそうです。
「この点をしっかりと選手と向き合って、話をして指導していきます。ゴルフスウィングは一瞬の動きですから考え過ぎはよくありません。私の基本はやはりデジタル機具に頼らず、自分の目で球の弾道、打音、ディボット跡、曲がり幅、スピン量、高さの均一度などを確かめます」(ブッチ)
トップ時の左手首の掌屈、ブッチはどう考えている?
最近のパワーがある世界トップランカーのスウィングに見られる動きとして、トップ時に左手首が手のひら側に折れる「掌屈」があります。掌屈について、ブッチは以下のように説明しています。
「一番最初にダスティン・ジョンソンに会ったときに、トップ時の左手首の話になりました。ダスティンにはその手首のポジションは変えなくても大丈夫だからと伝えました。ダスティンには『デビット・デュバルと似ているから?』と聞かれましたが、私の父やリー・トレビノが左手首の甲が上を向くポジションで振っていたので気になりませんでした」(ブッチ)
ブッチはダスティンやケプカ、ジョン・ラームら、身体の胴体の捻転スピードが速い選手には、トップ時で左手首が掌屈するポジションが適していると言います。
「捻転スピードがあるとボールの弾道を操作しやすく、操ることも可能です。しかしこの手首のポジションはすべての一般の方に教える方法ではありません。一般の方にはニュートラルのほうが理想です。逆のクラブフェースが開くポジションに陥ると腕のスピードとタイミングが重要となるので避けたいところなので開くよりは閉じておいたほうが良いと思います」(ブッチ)
現在はスウィングビデオを携帯電話ですぐにとって確認でき、優れたデジタル機械や練習機具でスウィング修正が簡単な時代です。だからこそアナログ派のブッチ・ハーモン氏の言葉に痺れました。
流行の美しい理想のスウィングを常に追いかけるのではなく、再現性を高めるためには何が必要なのかをインストラクターと話し合い、追求してハーモン流の最高のマイゴルフを探し当てて下さいませ。