「思っていたよりも痛かったよ」(ジョン・ラーム)
いよいよ待ちに待ったPGAツアーが11日(木)、3カ月ぶりに再開する。
新型コロナウイルスの感染拡大により、プレーヤーズ選手権初日を終えた時点でツアーは中止。91日ぶりに競技が再開されるが、この中断は第二次世界大戦以降では最長記録だ。予期せぬ長期休暇を余儀なくされた選手たちは、コロナウイルスへの恐怖心を抱きながらも、再び競技に出られる喜びを感じている。
開催地テキサス州に住む地元のジョーダン・スピースは、
「今年、この試合が開催されて、本当に嬉しい。無観客であることや、こうしてインタビューをリモート(※注)で受けていること自体もいつもとは違うけど、みんなこうして再開をすごく楽しみにしていると思う。いい休みも取れたし、テキサスの試合から始めることができるのは僕個人的にもメリットは大きい」(※注 選手たちは、別の建物内にいる記者たちからの質問をリモートで受け、回答)
と語っている。彼は2017年全英オープン以来優勝から遠ざかっているが、この3ヶ月間の休暇を生かして再び優勝争いをするための準備を重ねてきたそうだ。
「肉体的に、精神的に、そしてスウィング的にもどのようにすればいいのか、何が正しいプロセスなのかを模索してきたんだ。これは何かを一つ変えれば劇的に変わるものではない。プロセスが大事なんだ。ここ数ヶ月で昔の良かった頃に戻れる道を見出せたことは大きいね。もちろん、これ(ウイルスのため、ツアーが中断)は決して好ましい状況ではないけど、個人的にはいかに自分にとって有利な時間だったかと思うようにしているよ」
一方、フェデックスカップランキングで現在1位のイム・ソンジェは、韓国に帰国せずフロリダ州タンパのリゾートホテルに2ヶ月間宿泊していたが、その間、リゾート内のゴルフ場がオープンしていたため、1日4〜5時間、みっちり練習に励んでいたという。
「(ツアー中止になるまでは)とてもいい成績が出ていたので、これからもこの調子をキープしていきたいですね。ショートゲームをもっと練習しなければいけないと思っていたので、隔離中は集中して練習していました。全体的にしっかり練習できたので、今週は準備万端で試合に臨めます」
コロナ禍では「ソーシャルディスタンス」を取ることが求められ、人との接触は禁止、その上表情を隠してしまうマスクを着用するなど、人間関係を築き上げにくい世の中だ。そんな中でも韓国のアスリートであり、スーパースターのメジャーリーガー柳賢振(リュ・ヒョンジン)と練習コースで出会い、写真撮影を求められたのは嬉しかったそうだ。
PGAツアーはウイルス感染を防ぐため、従来とは異なる大会運営方法を模索し、トーナメント会場にいるすべての人間の健康と安全を守るための数々のプランを検討してきた。そして今週から始まる試合を実施するにあたり、そのプランに忠実に則って、今週出場する148人の選手とキャディ、ツアー関係者たちに検査を行っている。自宅でセルフチェックを行い、陰性であることを確認した後は、現地到着後に検温、鼻腔検査などの検査を日々行う毎日が今週の月曜日から始まっているのだ。
「(火曜日の)朝7時から鼻腔テストを受けたけど、思っていたよりも痛かったね。鼻のかなり上の方まで(綿棒を)突っ込まれたよ」(ジョン・ラーム)
「何が嫌だって、綿棒のテストが嫌だね。気持ちいいことは一つもないよ。それ以外はとてもスムーズ。練習場では自分でボールをバケツに入れて練習し、練習ラウンド中はティボックスで他の選手たちと距離を取るようにするくらいだから」(ジョーダン・スピース)
簡単に実施可能な「唾液によるウイルス検査」も検討されていたようだが、結局実施には至らなかったようだ。PGAツアーとパートナーシップを結んだ「サンフォード・ヘルス」が、移動式の検査車両を会場内に用意し、多少痛みは伴うものの検査結果を2〜4時間で出せる鼻腔検査キットをツアーで購入し毎日実施している。
会場内にはあちらこちらに消毒液が置かれ、いつでも消毒を行えるようになっているほか、ソーシャルディスタンス(6フィート・2クラブレングス)を取ることを勧告する看板も設置されている。通常、選手たちの体のケアを行うフィットネストレーラーもなければ、クラブハウス内でのプレーヤーズラウンジでの食事も、ビュッフェスタイルではない。他人との接触を極力避けるべく、注意が払われている。
そしてコース外では、選手やキャディは指定ホテルに宿泊することが推奨されているが、個人で家を借りることも許されており、ジャスティン・トーマス、リッキー・ファウラー、ジェイソン・ダフナーの3人は今週から同じ家をシェアしているという。
「僕は家を借りるのが最も便利で安全だと思うから、毎週家を借り、シェフを頼むことにしたんだ。リッキー、アリソン(リッキーの妻)と僕、ダフと一緒だよ。自分たちの小さな輪の中にいれば安全だ。だから毎晩、そのメンバーで食事もするし、家の中のものはそのメンバーしか触ることはない」(ジャスティン・トーマス)
また、無観客、ギャラリースタンドなし、ホスピタリティテントなし、そしてお土産売り場もない、という今までにない環境で試合が開催されることについて、現地でその光景を目の当たりにしたトーマスは「変な感じだね。雰囲気は普段と全然違う。でも、選手たちはみんな無観客でもプレーしたいというだろうね」と語っている。
観客の声援や拍手もなければ、彼らにサインや写真撮影を求められることもないトーナメント会場。たとえ20メートルのロングパットが入っても、せいぜい同伴者から声をかけられるくらいの、ほとんど音のない世界が始まる。ビールの飲みすぎで酔っ払う観客や、つまらないヤジを飛ばして失笑を買う観客にプレーを邪魔されることもないが、あの騒々しくエキサイティングな米ツアーの雰囲気は、少なくとも最初の4試合は無縁。きっと選手たちも改めて彼らの存在を懐かしく思い、彼らの必要性を感じる1ヶ月となることだろう。