肉体改造を果たしたゴルフの科学者ブライソン・デシャンボ―に注目が集まっている。見た目にも巨大化したことで、昨季の平均飛距離より20ヤード以上もアップ。果たしてこの大幅増量はゴルフ界にどんな影響を与えるのか?

平均345ヤードの衝撃

ようやく再開したPGAツアー初戦「チャールズシュワブチャレンジ」。プレーオフまでもつれた優勝争い以上にファンの関心を集めたのが、“ゴルフの科学者”、ブライソン・デシャンボーだった。彼は、バットマンのスーパーヴィラン(悪役)、ベインや超人ハルクのようなアメリカンコミックさながらの筋骨隆々の体型になって登場したのだ。デビュー当時の好青年風の面影は、もはや見る影もなくなってしまった。

そして、それ以上にファンを驚かせたのが、その飛距離。3月の「アーノルドパーマー・インビテーショナル」には、すでにドライビングディスタンス1位(321.3ヤード)となっていたが、この試合では初日に354ヤード飛ばすなど、平均で345ヤードとさらに大幅アップしているのだ。プロレスラーのような体躯から、繰り出される豪打は、衝撃以外の何物でもない。

デシャンボーの身体は昨年あたりから顕著に大きくなり、スウィングもあの特徴的なハンドアップは変わらないものの、より躍動感があり、下半身の動きがずっと大きくなった。しかし、そこからわずか3カ月で、別人と見紛うほどの肉体改造を行い、さらに尋常ではない飛距離アップを実現したわけだ。デシャンボーの昨年のドライビングディスタンスは、302.5ヤード(34位)。すでに完成されたスウィングをもつPGAツアープロが、短期間に40ヤード以上も飛距離を伸ばすという、現実離れした進化を遂げたのだ。

デシャンボーは、ゴルフを突き詰めて考え、良いものは積極的に取り入れる選手。エプソムソルトを水に溶かして重心を測定し、使用ボールを決めたエピソードは有名だが、サイドサドルスタイルのパッティング用のパターやプレー中のコンパスの使用がルール違反という指摘を受けたり、その飽くなき追求が物議を醸すことも多い。

画像: 2020年と2016年のデシャンボ―を比較すると、格段に身体が大きくなっているのがわかる(写真左は2020年のチャールズ・シュワブチャレンジ/Getty Images、写真右は2016年のブリヂストンオープンゴルフトーナメント 撮影/姉崎正)

2020年と2016年のデシャンボ―を比較すると、格段に身体が大きくなっているのがわかる(写真左は2020年のチャールズ・シュワブチャレンジ/Getty Images、写真右は2016年のブリヂストンオープンゴルフトーナメント 撮影/姉崎正)

現在のPGAツアーは、飛距離と賞金額に大きな相関関係がある。2018年を例に取ると、ドライビングディスタンスが310-320ヤードの僅かな数の選手が、賞金総額の半分以上を稼いでいるのだ。そして、飛距離が出ない選手ほど賞金額が少なくなっていて、平均飛距離が290yを切ってしまうと、現実的にツアーでの活躍はひどく困難になってしまう。

デシャンボーの大幅肉体改造は、ゴルフは飛距離が出るほうが有利なスポーツという身も蓋もない現実に対して、ストレートに取り組んだことの結果だ。スウィング改造で飛距離アップするよりも、パワーを増したほうがより大きな飛距離アップが期待できる。それを誰よりも突き詰めた結果が、あの体型ということなのだろう。

ゴルフ界「肉体改造」の歴史

もともとゴルフ界は、肉体改造に否定的で、特に筋肉をつけるとスウィングが壊れるという定説があった。古くはジョニー・ミラーが筋肉のつけすぎでバランスを崩し、逆にデビッド・デュバルのように、過剰なダイエットでスリムになってしまい、絶不調に陥った選手もいる。前者は全盛期のジャック・ニクラウス、後者はタイガー・ウッズをもっとも脅かした選手だったが、そのプライムタイムは短かった。

肉体改造にポジティブな印象を与えたのは、女王、アニカ・ソレンスタムではないだろうか。90年代のアニカは、当時プロでは使う選手がほとんどいなかったショートウッドの名手で、9番ウッドはもちろん、コースによっては11番ウッドを入れることもあった。華奢で非力なアニカが、必要なボールの高さを得るために、これらのショートウッドを多用したのだった。

しかし、2000年代には筋力が大幅にアップ。ショートウッドのかわりに4番アイアンが入り、ツアーで屈指の飛ばし屋に変貌した。2002年には年間11勝、男子ツアーにも出場した圧倒的戦歴は、その肉体改造なしには語れない。

日本人では、丸山茂樹の肉体改造が印象的だ。国内ツアーで活躍していた90年代後半は、丸っこい体型で、飛ばし屋として知られていた。2000年代に入り、PGAツアーに参戦すると、ストイックなダイエットを行い、米ツアー3勝など輝かしい実績を残したが、スリムになった体型は、大柄な海外選手たちを相手に、異国で孤軍奮闘する悲壮感をどこか漂わせていたように思える。明るく楽しい、国内の“丸ちゃん”とは対照的だった。

画像: 日本のエース・松山英樹も現在とアマチュア時代比べると、一回り以上大きくなっているのがわかる(写真左は2020年WGCメキシコ選手権、写真右は2011年の三井住友VISA太平洋マスターズ 撮影/姉崎正)

日本のエース・松山英樹も現在とアマチュア時代比べると、一回り以上大きくなっているのがわかる(写真左は2020年WGCメキシコ選手権、写真右は2011年の三井住友VISA太平洋マスターズ 撮影/姉崎正)

そして、なんといっても松山英樹だ。アマチュア優勝を果たした2011年の住友VISA太平洋マスターズや日本で賞金王に輝いた頃の松山は、今見ると驚くほど細身に見える。PGAツアーに参戦してから、大幅に筋肉を増量して、まさに威風堂々、海外選手に引けを取らないパワーを手にしている。

ゴルフ初心者であっても、プロ野球選手や力士がドライバーを振ると、男子プロゴルファーも全くかなわない常人離れしたヘッドスピードを出すことが出来る。同じ時速100kmを出すにも、排気量の大きな車ほど楽にスピードが出せるように、身体能力は高ければ高いほど、引き出すパフォーマンスのポテンシャルは高いのが現実だ。いくら球を打つ練習を積み重ねたところで、飛距離アップには限界がある。

デシャンボーの大幅飛距離アップは、他の選手にとっても小さくない衝撃だろう。特に、小柄で飛距離不足に悩む選手には、ある種の希望を感じさせる出来事のはずだ。飛距離は先天的なものだけでなく、努力次第で伸ばす余地があると思わせてくれるからだ。

今後は、デシャンボーに追随して、筋肉増を目指す選手が多数現れるのは確実だ。もはや道具の制限などでは追いつかず、異常な飛距離アップの時代が訪れるかもしれない。

画像: マン振りしても芯に当たる! ヘッドスピード40m/s前後のゴルファーの飛距離をアップさせる“ヒールを喰わないドライバー”を徹底試打!どれだけ飛ぶ? youtu.be

マン振りしても芯に当たる! ヘッドスピード40m/s前後のゴルファーの飛距離をアップさせる“ヒールを喰わないドライバー”を徹底試打!どれだけ飛ぶ?

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