トーナメントのグリーンが年々高速化していく一方、プロが使用するパターは徐々に重くなってきている。それはなぜか!? また、一般営業のグリーンでプレーするアマチュアは、どれくらいの重さのものを使うのがいいのか? ギアライター・高梨祥明が歴史的視点から分析した。

重たいパターヘッドがスタンダード化した背景【1】

以前「ドライバーヘッドの重量はだいたい200グラム目安で作られてきた」という話を書いたが、今週はパターのヘッド重量について見ていきたいと思う。

ゴルフマニアの間では“350G”というのがひとつの指標というか、基準みたいになっているのではないだろうか? “350G”とは、ヘッド重量“350グラム”という意味だ。

1990年代中盤、と書くともう昔話のように感じるかもしれないが、たった30年前のこと。ちょうどタイトリストがスコッティ・キャメロンパターを展開し始めた頃合いだ。ガンブルー皮膜の黒いキャメロンパターは、タイガー・ウッズの登場とリンクして、多くのゴルファーを魅了していった。“350G”というワードが注目され始めたのも、草創期のキャメロンパターが発信源である。

画像: 350グラムを標準の重量にしたスコッティ・キャメロンのパター「ニューポート」

350グラムを標準の重量にしたスコッティ・キャメロンのパター「ニューポート」

当時のキャメロンパター(ニューポートタイプ)では、長さ33インチのパターには通常レングス(34〜36インチ)よりも重たいヘッドが付けられていた。それが“350G”である。当時、ヘッド重量のスタンダードはあくまでも“330G(35インチ)”であり、“350G”はシャフトが短いモデル専用の特別なものだったのだ。

もちろん、ニューポートパターの“350G”には重さだけではない違いがあった。それが打球面(ヘッドセンター部)の厚みである。通常のヘッドより重さを出すために“350G”ヘッドではセンター部をキャビティ化していなかったのだ。このため、トップブレードの厚みがそのまま打球面の厚みとなったため、ソリッドな打感が味わえると評判になったのだ。

このため、とくに日本のツアー、コレクター市場では34、35インチの通常レングスにあえて“350G”ヘッド(結果、重ため)を使うゴルファーが増えていったのである。

ちなみに、キャメロン登場前、80年代から90年にかけてPGAツアーで高い人気を誇っていたのはPING「ANSER」だった。今回、改めて当時のブロンズ製「ANSER」のヘッド重量を測ってみたが、なんと“305グラム”(34インチ仕様/編集部実測)しかなかった。その観点からいくと、95年に登場したキャメロンパター(ニューポート2/34インチ/340グラム)はかなり重たい仕様であったことがわかる。

PINGからキャメロンへとツアーパターの流れが変わった背景には、このヘッド重量の大きな違いがある。キャメロンパターは、93年ベルンハルト・ランガーのマスターズ制覇で認知され、タイガー・ウッズの登場によって一気にツアーでのシェアを拡大していくが、それは同時に“重たい”パターの優位性を知らしめるきっかけにもなったのである。

重たいパターヘッドがスタンダード化した背景【2】

“重たい”パターの優位性。一般には「高速グリーン」での安定性、距離の合わせやすさにあるといわれている。とくにマスターズの会場であるオーガスタナショナルゴルフクラブのように、傾斜があり、硬くしまったベントグリーンの場合、インパクトの強弱でタッチをコントロールするよりも、振り子式にストロークの大きさでボールスピードを一定にして転がした方が安全である。

こうしたストローク中のスピードを一定にし、インパクトで“圧”が加わらないようなパッティングを実践するために、2000年以降様々なパターが開発されていったが、その主だった手法が、ヘッドを重たくすること、大型マレット形状にすること、シャフトを中・長尺にすること、グリップを太く、長くすること、などである。スコッティ・キャメロンはPINGなどの従来ブランドのパターデザインをリスペクトしつつ、いち早く最新のツアー状況に合わせたオリジナルの“重さ”を見出し、勝負に出たのだった。それが新しいツアーパターヘッドの重さとなり、スタンダードとなっていった。

現在のキャメロンパター(ニューポートタイプ)は、33インチ設定で360グラム、34インチで350グラム、35インチで340グラムが目安となっており、この20年で10グラム程度、初期よりもさらに重たいヘッドになっている。これは長く、太めになったグリップの重量アップに対する調整と見ることができる。ヘッドだけではなく、全体重量をアップすることで、よりストロークの大きさでボールスピードを変えずに転がすことができるようになっているのが、現在の重ヘッド、いや、重たいパターの特徴だといえるのだ。

我々はツアー選手と同じパターでいいのか? これからはその視点も必要

キャメロンパターの独自性はそのヘッド重量にあり、その重さが高速化するツアーグリーンに対応するパッティングスタイルに合致した。そしてそのキャメロンパターをスタンダードとして、他ブランドのパターもどんどん重たくなっていった。

あらためて書くと、ポイントは、「グリーンの高速化に伴ってパター重量がアップしていった」という点だ。

70年代、80年代のグリーンは、米ツアーでもそこまで速くはなかった。さらに遡って60年代のトーナメント映像を見たりすると、選手はかなり強くヒットしているのにカップの手前で急ブレーキをかけたようにボールが失速。かなり重たいグリーンだったことがわかる。

そうした重たいグリーンが主流だった時代に人気があったパターは、どんなモノだったのか? 各時代の代表モデルのヘッド重量を測ってみることにした。

【60〜80年代代表】303グラム『ジョージ・ロー ウイザード600』

画像: 60〜80年代代表 303グラム『ジョージ・ロー ウイザード600』

60〜80年代代表 303グラム『ジョージ・ロー ウイザード600』

ジャック・ニクラウスのエースパターとして、名器中の名器と呼ばれるL字パターが『ジョージ・ロー スポーツマン ウイザード600』。

【80〜90年代代表】305グラム『ANSER(85068)』

画像: 80〜90年代代表 305グラム『ANSER(85068)』

80〜90年代代表 305グラム『ANSER(85068)』

65年に発売されたPING『ANSER』は無数のモデルチェンジを重ね、80年代には誕生時よりもかなり軽いヘッドになっていた。計測モデルは最も軽かった時代のもの。

【00年代 代表】332グラム『オデッセイ 2ボール』

画像: 00年代 代表332g『オデッセイ 2ボール』

00年代 代表332g『オデッセイ 2ボール』

キャメロンと並び、2000年代の代表モデルといえるのがオデッセイ『ホワイトホット2ボール』。34 インチで330グラムのヘッド重量は、当時のキャメロンパターよりやや軽め。一般のグリーンでも扱い使いやすい重さといえる。

こうやって並べてみると、グリーンのスピードが速くなるごとにヘッド重量がアップしていることがわかるだろう。グリーンの重さとパターヘッドの重さには、やはり相関関係がありそうなのである。

では、我々はいつもどのようなグリーンでプレーしているだろうか? 9フィートのベントグリーンの時もあれば、ツアー並みの12フィートを体験させるコースもある。夏場は、芝目の強いコーライグリーンでやるときもあるだろう。

コーライグリーンでプレーする時に、高速ツアーグリーン対応の重たいパターで、ソフトに打ち出したらどうなるだろうか? 思った距離の半分もいかない! そうなってもおかしくはない。実際にそういう経験をしたゴルファーも少なくないと思う。

コーライなど重たいグリーンでやる場合には、それこそ昔のツアーグリーンだと思って、当時人気だった軽いヘッドのパターを使い、パチン!とインパクトの強弱で距離を合わせていく方がいい場合が多い。飛ばないパターでしっかりとヒットしていく方法だ。

話をまとめると、相当重たいグリーン(8フィート以下)の場合は、320グラム以下のライトウェイトヘッド。通常スピード(9フィート〜11フィート)の場合は、320〜340グラムのミドルウェイトヘッド。高速グリーン(11フィート以上)の場合は350グラム以上のヘビーウェイトヘッド、あるいは総重量のあるパターということになる(あくまでも目安)。

「パターの重さとグリーンの重さには相関関係がある」。そんなことを頭の片隅に入れながら、あらためて愛用パターの重さと、よくプレーするゴルフコースのグリーンのスピード、そして自分のパッティングスタイル(ストローク式かタップ式か)がマッチしているかを考えてみていただきたい。インパクトでタップ式にパチン! と打ちたいのに、重たいヘッドや大型マレットパターを使っている場合は、それだけで3パットの危険性がある。最新パターは、そっと打ってもスムーズに転がるように出来ているわけだから、その上パチン! と打ってしまったら、飛びすぎてしまうのだ。

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