復活のきっかけは中島規雅コーチとの出会い
昨日のアース・モンダミンカップ最終日、渡邉彩香の復活優勝に感動したというゴルフファンの方は多いのではないでしょうか。ほかでもない、私もそのなかの一人です。
渡邉のバッグを担いだ川口淳プロキャディとはお互いの研修生時代に同じ地区で切磋琢磨していたこともあり、彼が不調の間もかたわらでずっと支えている姿を思い出し、なおさら感慨深いものがありました。まずは渡邉選手、川口キャディにおめでとうと言いたいと思います。
さて、プレーを思い起こすと最終ホールまで積極的にドライバーで攻めていたのが印象的。持ち味である飛距離の出るフェードボール、そしてアイアンショットのキレが戻っていて強かったころの渡邉彩香の完全復活を印象付けました。
好調だったショットに関して、昨年からコーチを務める中島規雅コーチに話を聞きました。実は中島コーチも川口キャディと同じく研修生時代に同じ地区で頑張っていた仲間なんです。
話を戻すと、中島コーチが最初に渡邉のスウィングを見たのは昨年の「ニチレイレディス」だったといいます。そのときの印象を、中島コーチはこう語ってくれました。
「初めて見たときには、狙いと振っている方向がちぐはぐで球が暴れていました。ストロンググリップでアップライトなスウィングなのでフェードが打ちやすいはず。それまでトライしていたドローを捨てて、フェードに絞りました。そして感覚を殺さないように、足元にアライメントスティック(アドレスの方向を整えるための棒)を置いて徹底して狙う方向とフェードのスウィング軌道を整えていきました」(中島規雅コーチ)
キレキレだったフェードボールですが、ドローを捨てるという決断と、アドレスの向きを整えることからという地道な努力の果てに手に入れたものだったことがわかります。
シード落ちして迎えた昨年12月のQT(予選会)の段階では仕上がりはまだ5,6割だったそうですが、それでも19位で通過。長く続いたオフの期間にその精度も上がり、アース・モンダミンカップに向けて仕上がりは上々だったようです。
ストロンググリップの利点であるフェースの開閉をおさえたことで、フェードの曲がり幅もコントロールできるようになり、アイアンの精度も上がってきていました。
少し写真のアングルが違うので参考程度ですが、画像A左は昨日のスウィングで、画像A右は昨年の開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」で撮影された彼女のスウィング写真です。昨日のスウィングでは明らかに上体が後ろに残っていますよね。
記者会見で「力むと上体が突っ込むクセを修正した」と話していましたが、上体が突っ込むとクラブの軌道はアウトサイドインが強くなり、入射角も鋭角になってきます。そうすると左への引っかけが出やすくなります。また、引っかけを嫌がってクラブが寝ると、今度はフェースが開くことで右へのプッシュのミスも出ます。
今回の姿からは信じられませんが、昨年まではドライバーを持たずに試合に臨むこともありました。それがしっかりと修正できたことで、気持ちよく振って持ち前の距離の出るフェードボールが戻ってきました。
それともう一つお気づきの人いたと思いますが、使用していたドライバーは最新モデルではなく2015年のブリヂストン「J15」という古いモデル。オレンジ色をまとった渡邉彩香専用カラーのモデルでした。そのドライバーを選んだのにも理由があったそうです。
「ドライバーの飛距離に大切なのはボール初速、打ち出し角、スピン量ですが、新しいモデルだとスピン量が少ないせいかボールがつかまらなかったんです。スピン量の多い以前のモデルの方が彼女にはマッチしていました。スピン量が多くなってもしっかりと飛距離は確保されていましたから」(中島規雅コーチ)
彼女の持つ飛距離の源泉を中島コーチに聞くと、「恵まれた身長とトレーニングに裏付けられた体力」と答えます。それは、彼女の最大の武器と言えるでしょう。
それにあえて付け加えるとするならば、高いトップから左サイドへしっかりと踏み込んで切り返すことで大きなエネルギーを得ている点が挙げられます(画像B)。
飛距離の出るフェードボールにコントロールの利いたアイアンショット。昨日はカップを覗き込むように止まるパットが2度あるなど、パッティングがもっと入るようになったらどれだけのポテンシャルを秘めているのかと改めて感じました。5年ぶりの復活優勝でしたが渡邉彩香はまだ26歳。まだまだこれからの活躍が楽しみな選手です。
選手とキャディ、コーチ、みんなでつかんだ復活劇に心からあっぱれ! と言いたいです。