飛距離は変わったがコンパクトトップは変わらない
ブライソン・デシャンボーが2016年にブリヂストンオープンに出場した際に取材しましたが、体もスウィングもしなやかな印象でした。プレゼントした日本のお菓子を食べると「もっとちょうだい!」と22歳の若者らしい反応を返してくれたのが懐かしいですね。
それから4年。すっかりトップ選手になったデシャンボーのスウィングを以前と比較してみました。まずは画像Aをご覧ください。左が2017年8月の「WGCブリヂストン招待」、右が2020年2月の「WGCメキシコ選手権」でのスウィング連続写真です。実際にはこのあとのツアー中断期間にさらに増量し110キロになっているそうですが、その体つきの違いは一目瞭然です。
体つきは大きく変わりましたが、グリップの握り方、アドレスのポジションは基本的には以前からのスタイルを踏襲しています。少しスタンスが広くなっているようですね。
ただ、画像Bのトップの形を見てみると、明らかに捻転が深くなっていることが見て取れます。これだけ筋肉量を増やしても可動域の制限を受けていないところが、デシャンボーの肉体改造のポイントになっているようです。
デシャンボーの肉体改造は、トレーナーのグレッグ・ロスコフの指導でMAT(マッスル・アクティベーション・テクニックス)というトレーニング法によって行われています。アクティベーションとは、有効にする、活性化するといった意味で訳されますが、要するに可動域の制限を取り払いながら筋力アップする方法です。その効果もあって、増量した筋肉に邪魔されることなく可動域はしっかりと確保されていることが確認できます。
スウィングの基本は、左サイドに軸を取りながら、テークバックとダウンスウィングで同じ軌道を描く1プレーンのスウィング。それをベースに大きくスピードをアップすることに成功しています。トップでのクラブの位置を見てみるとどちらも同じくらいの位置で収まっています。ここはドラコン選手と大きな違いと言っていいでしょう。クラブの動く距離や軌道は変えずに体の使い方でヘッドスピードを上げていることが、方向性をキープしたまま飛距離アップに成功している要因です。
インパクトでの左のひざを見比べてみても、3年前の左の画像と今季の右の画像でも左のひざは伸びているということはありません。つまり、縦の地面反力を多く使うようになったということではなく体の回転スピードを上げクラブのヘッドスピードを上げていることがわかります。
飛距離が出ることがアドバンテージになる米ツアーのコースセッティングもプラスに働いています。グリーンに近づくにつれてフェアウェイが絞られているようなセッティングだと、飛べば飛ぶほどラフに入る確率は高くなりますが、デシャンボーいわく「290ヤード地点に多いバンカーをキャリーで超えること」が飛距離アップの目的とのこと。圧倒的な飛距離で、PGAツアーのハザードを無効にしているというから驚きです。
最終日のデシャンボーを見ると、ラフからのショットの距離感もうまく合わせていましたし、パットも入っていました。そのうえ飛距離は圧倒的なのですから、強いはずです。
優勝後のインタビューでメジャー獲りを狙うため「ウェッジの技術とアイアンの精度を上げる」と話していたデシャンボー。この秋のメジャーで初勝利を挙げることはできるのでしょうか。今後も注目していきましょう。