ドライバーなどロフトの小さい番手では水によるスリップ現象は起きにくい
ボールやクラブフェースが水に濡れるとインパクトで“スリップ現象”が起きて、バックスピンが減少してしまうのではないか? どうしてもそういうイメージを持ってしまうが、以前ドライバーのDRY & WET状態でのインパクトデータを調べてみたところ、下記のような結果となった。
【ボールとフェースに霧吹きで水をかけた時のドライバーショット】
※ゴルフメーカー測定/3球の平均値/プロゴルファー実打による
ヘッドスピード | 初速 | 打出し角 | スピン量 | キャリー | トータル |
---|---|---|---|---|---|
DRY47.70m/s | 69.56m/s | 11.9度 | 3090rpm | 261.6ヤード | 276.1ヤード |
WET47.16m/s | 68.41m/s | 12.0度 | 3792rpm | 255.0ヤード | 267.8ヤード |
ご覧の通り、この実験では減ると予想していたバックスピンはむしろ水に濡れたことで約800rpmも増加。フェース面をかなり濡らしたために弾きが悪く、ボール初速も落ち込む結果となったのだ。この実験データについて測定を担当したメーカー担当者は次のような見解を示した。
「ロフト角が少なければボールやフェースが濡れてもスリップ現象が起きにくい、という結果は我々の実験でも明らかになっています。水分がボールとフェースとの間に介在することで、今回の実験のようにスピンが増えたり、初速が落ちたりすることは実際のラウンドでも十分に考えられることなのです。とくにスピンが入りやすいパワーヒッターほどその影響を受けることになると思います」(メーカー技術者)
最近のドライバーはフェースを薄く設計しているためにフェース面に水捌け用の溝を切っていないモデルもあるが、ハードヒッターの使用が多いアスリートモデルの場合は、降雨時の飛距離ダウンを防ぐために打球面に溝を切るケースが多いという。
ドライバーにおける雨の影響は、スリップ現象のような弾道を不安定にさせる影響というよりも、飛距離ダウンにつながる可能性が高いということ。ドライバーショットはボールもフェースもタオルなどでしっかり拭くことができる。打つ直前にしっかりと水分を取り除くことが重要だ。
58°のSWではフライヤーが発生! 溝なしウェッジではほぼノースピンに!
ちなみにどの程度ロフトが増えれば、水濡れによるスリップが発生するのだろう? ロフト18度の5Wでも同様の実験を行ってみたが、下記の通り、ドライバーの時と同じくバックスピンが増える結果となった。
【ボールとフェースに霧吹きで水をかけた時の5Wショット】
※ゴルフメーカー測定/3球の平均値/プロゴルファー実打による
ヘッドスピード | 初速 | 打出し角 | スピン量 | キャリー | トータル |
---|---|---|---|---|---|
DRY43.34m/s | 60.74m/s | 17.7度 | 5079rpm | 213.0ヤード | 221.9ヤード |
WET44.18m/s | 61.78m/s | 17.4度 | 6042rpm | 206.7ヤード | 214.5ヤード |
ボールとフェース面を濡らしただけでバックスピンが1000rpm弱増え、その結果飛距離も大きくダウンする。過度なロースピン状態になってボールがドロップしたり、予測不能な動きをするよりもマシではあるが、“雨の日はボールが多少飛ばなくなる”ということを頭の片隅に置いて飛距離マネージメントに活かしていただきたい。
最後にロフト角58度のウェッジでのWET & DRY 実験の結果を紹介してみよう。
【ボールとフェースに霧吹きで水をかけた時のSWショット】
※ゴルフメーカー測定/3球の平均値/プロゴルファー実打による
ヘッドスピード | 初速 | 打出し角 | スピン量 | キャリー | トータル |
---|---|---|---|---|---|
DRY36.13m/s | 29.92m/s | 34.5度 | 11548rpm | 49.9ヤード | 49.3ヤード |
WET35.48m/s | 29.38m/s | 40.0度 | 8070rpm | 55.8ヤード | 56.3ヤード |
ウッド類では増加していたバックスピンが、ウェッジでは大きく減少に転じている。この結果、打ち出し角が上がり、いわゆるフライヤー現象になってキャリーが増加。50ヤード目安で打ったショットだが、6ヤード以上飛んでしまう結果になった。ドライ状態ではバックスピンが入ったためキャリーよりもトータル飛距離が短くなっているが、水濡れ状態ではグリーン上でのスピンも効かず、ランが出てしまった。やはり、ロフト角が大きいほどフェース面でスリップ現象が起きやすく、DRY & WETでの弾道結果に大きな違いが出てきそうである。
ちなみに、ウェッジの溝がなかったらどうなるか? についても調べているので、その結果を最後に紹介しておきたい。溝の重要性と水分の怖さを実感していただけると思う。
【ボールとフェースに霧吹きで水をかけた時の“溝なし”SWショット】
※ゴルフメーカー測定/3球の平均値/プロゴルファー実打による
ヘッドスピード | 初速 | 打出し角 | スピン量 | キャリー | トータル |
---|---|---|---|---|---|
DRY35.74m/s | 31.01m/s | 40.1度 | 7325rpm | 62.9ヤード | 63.9ヤード |
WET36.79m/s | 29.72m/s | 53.3度 | 244rpm | 76.5ヤード | 83.5ヤード |
DRY状態ならば溝がなくてもしっかりとスピンが入るが、濡れた途端にほぼノースピン状態に。おそろしいほど高く上がり、驚くほどキャリーが出てしまった。ドライバーでは飛距離アップの秘策と言われている高打ち出し&ロースピン状態だが、ウェッジショットでこれが起きてしまうとスコアメイクは至難の技になるだろう。ゴルフボールにバックスピンが入るからこそ弾道が安定し、コントロールしやすくなる、ということを改めて肝に銘じておきたい。
写真/高梨祥明