昨年渋野日向子が日本勢42年ぶりのメジャーチャンピオンに輝いたAIG全英女子オープン。2連覇を目指した今年はリンクスの洗礼を受け予選落ちに終わった。そんななか世界ランク304位、無名のソフィア・ポポフが女子のドイツ勢として初のメジャーチャンピオンに輝いた。数奇な運命を生きる27歳が歩んだ軌跡と奇跡の物語。

「正直昨年はもうプロを辞めようと思っていました」

男子の全英オープンの会場でもあるスコットランドの名門ロイヤルトゥルーンでウィニングパットを決める前、すでにポポフは溢れ出る涙を抑えることができなかった。キャディを務めたボーイフレンドも帽子のツバで涙を隠した。

「言葉になりません。信じられない気分です」とほおを濡らした彼女は「ここ6年大変なことがたくさんあって血のにじむような努力をしてきたから…」と声を詰まらせた。

じつは彼女プロデビュー以来ライム病に苦しめられてきた。「体調が悪くて20以上のお医者さんを訪ねたのですが、ライム病とわかったのは症状が出てから3年たってから。疲労感と倦怠感のほか10個くらいの症状があってどうしていいかわからず苦しかった」

画像: 世界ランク304位のソフィア・ポポフが全英女子オープンを制した(写真はGetty Images)

世界ランク304位のソフィア・ポポフが全英女子オープンを制した(写真はGetty Images)

ライム病はマダニなどを媒介して発症する感染症。発熱や悪寒、倦怠感などインフルエンザと似た症状があるため診断が難しい。ポポフは感染してから3年で体重が7キロ減りツアーで戦うスタミナも奪われた。

「それでも頑張りました。良いといわれる食事を摂りトレーニングにも積極的に取り組みました」。それはまるで“病気の優等生”のような生活だったという。

しかし成績は振るわずデビュー以来コンディショナル(条件付き)シードを持っていたが昨年はそれすら守れず20年は下部ツアーに降格。再開初戦のLPGAドライブオン選手権では親友アン・ヴァン・ダムのキャディを務めるなどツアー出場は諦めていた。

しかし翌週のマラソンクラシックで上位選手が大量に欠場したため繰り上がり出場。ワンチャンスを生かしトップ10(9位タイ)入りしたことでAIG全英女子オープン出場の道が開けた。

「正直昨年はもうプロを辞めようと思っていました。体調も安定しないし成績も出ない。でも辞めなくて良かった! ゴルフはなにがあるかわからない。障害だらけの人生だけれどしがみついてきて良かったです」

プロとしての初優勝がメジャー。獲得した67万5千ドル(約7300万円)はこれまでに彼女が稼いだ賞金の合計の6倍を優に超える額だ。

全英女子オープンは昨年海外初挑戦で優勝しシスマイリングシンデレラと呼ばれた渋野に続き無名のシンデレラがトロフィーを掲げた。試合に出る限り誰にでもチャンスはある。それがゴルフの醍醐味だ。

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