予選2日間はレキシ―・トンプソン、パク・インビという超豪華メンバーとプレーした稲見・奥嶋の師弟コンビ。日本でもお馴染みのレキシーに関しては、なんといってもその飛距離が印象的だったようだ。
「レキシーは半端なく飛び、ティショットはアイアンや3Wが多く、パー5やアゲンストの強く長いホールだけドライバーを持っていました。ドライバーを持ったホールでは、稲見の80ヤード前方にいるときもありました。ただ、インパクトでぶつけるように打っていくし、ボールもねじりながら飛ばすので強い風の影響で球は散らばり、トラブルやフェアウェイのバンカーに何度も入っていました。そのせいでスコアを崩していました(11オーバーで予選落ち)」(奥嶋)
一方パワーでコースをねじ伏せようとするレキシ―に対して、それとは対照的にパク・インビや練習ラウンドを共にしたチョン・インジは、異なるアプローチでコースを攻めていた。
「パク・インビやチョン・インジは、毎回同じように決まったストレートから軽いドローしか打ちません。無理せずフェアウェイキープして、セカンドも大怪我しないように戦略を立て、グリーンを外しても多彩なアプローチとパターでしのぎ、チャンスが来ればカップに沈める。戦略とパターで勝負している感じでした」(奥嶋)
チョン・インジは7位タイ、同じように戦略的にコースを攻めたパク・インビは優勝争いの末4位で大会を終えている。このことから奥嶋は、ドローであれフェードであれ「球をねじるように曲げる選手は今回のリンクスでは少し難しい」と続ける。
「風が吹けば吹くほど、とくに横からの風ではティショットを狭いエリアに打たなければならなくなります。ねじりながら打つショットではミスしたときに風に持っていかれて大きなミスにつながってしまいます」(奥嶋)
さらに、ミスを引きずらないメンタル面、経験したことのない状況での恐怖に立ち向かう勇気と精神力も必要だと感じたと話す。
「今回のコンディションでは風が前半と後半で真逆になり、距離感も180度変えなきゃいけない。アゲンストでは3番手とか4番手大きなクラブを持ちますし、フォローでは3番手4番手短いクラブ持つことはザラに起きます。40ヤードも風の影響を受けるブラインドホールに打っていく恐怖に立ち向かう勇気が必要になります。日本ではそこまで考えさせられないですし、経験のない選手からしたら、キャパオーバーになります」(奥嶋)
そこでリンクスコースで日本人が勝つためには、パク・インビのようなゴルフを磨くことが最善ではないかとの考えに至ったという。
元世界ランク1位のパク・インビは初日を6オーバーと出遅れるものの2日目以降巻き返し、最終日は5アンダーでプレーし単独4位でフィニッシュしている。強風の吹いた2日目に14回中12回フェアウェイをキープしている。
「私なりに日本人がリンクスで勝つならと考えてみましたが、パク・インビのような戦略を立て、アプローチの技術を多彩にし、パッティングの技術を高めることが最善のような気がしています。パッティングの打つ技術とライン読みの技術が必要で、その上でショットの高低の操作とショートゲームのバリエーションも欲しい。それだけできれば、日本人も勝てる気がします」
今回の奥嶋の収穫は、「スコアを作るために大切なことを改めて学んだ」ことだという。
「2メートル以内じゃなくても、5メートルとか10メートルもバーディチャンスなんだよってことや、見かけのいいスウィングをする人が上手いんじゃないんだよってことや、ピンばっかり狙うのがゴルフじゃないんだよってことや、飛距離が平均的でも戦略的にやればスコアは作れるんだよっていうことです」(奥嶋)
パク・インビの最終日の平均飛距離は約220ヤードに過ぎない。飛距離ではなく戦略とショートゲームの技術で勝つ。残念ながら稲見萌寧は予選の2日間でコースを去ることになったが、彼女を初優勝に導いたコーチにとって、「リンクスコースの勝ち方」のイメージを吸収した全英女子オープンだったようだ。
稲見萌寧はまだ21歳。奥嶋と稲見、まだまだ伸び盛りの師弟の、次なる挑戦を楽しみにしたい。