レギュラーツアーが主戦場だが、今後のシニア参戦にも意欲
藤田寛之は悩んでいる。
先週、「マルハンカップ太平洋クラブシニア」(2日間大会)でシニアデビューを飾った彼は、初日を終えて7アンダーの単独首位に立った。昨年50歳を迎えた後もレギュラーツアーで戦っている藤田に対し、「注目されている中で、初日にあの成績というのは、同期の中でも群を抜いている」と同い年の篠崎紀夫が語っているように、他のシニアの選手にとっては正直言って「まだシニアには来ないで欲しい選手」であろう。
その選手が周囲の期待と予想に応え、初日に単独首位に躍り出た。2日間大会でロケットスタートした藤田が、シニアデビュー初優勝をあっさりと飾りそうな雰囲気はあった。しかし、2日目(最終日)、終わってみれば3バーディ、3ボギーとスコアを伸ばせず3位タイ。もし今回、優勝を決めていれば、2019年4月に開催された「金秀シニア」でシニアデビュー戦Vを飾った手嶋多一以来、12人目の記録となったはずだったが、残念ながらその記録は潰えた。
「みんなシードとかあるし、いい成績を残していかなければいけないというのがある。自分のようにちょっとお邪魔している立場ではないから、(同じ)組のみんなは本気モードでしたね。自分は自分にプレッシャーをかけているようなところもあったし……。初優勝の意気込みが強すぎることもなかったんですけど、それがなかったのがよくなかったのかな? ガチでもっとガンガン行った方がよかったかな、とか。わかんないですよね、(試合を)やってなかったし、シニアも初めてだし」
普段、レギュラーツアーで戦う自分の居場所は、シニアツアーではない。だから、同級生や昔からの顔なじみの先輩が多いシニアツアーでも違和感を感じたという。
「場違いな人が来たと言われた。レギュラーにいると早くシニアツアーに行ってくれと言われるし、シニアに来たら来るなと言われるし……。そういう存在なんですね。でもなんとなくそういうのが今日(初日)は証明できた感じです。これだからみんな来るなと言っていたんですね」
しかし2日目は、自分のプレー次第で勝てると思っていたのが、思うようにスコアが伸びなかった。決して他のプロに対して遠慮があったわけではない。だがショット、パットとも調子が悪く、コントロールできなかったのだという。それもコロナの影響による試合の中止で「試合勘」が失われていたことのほかに、試合もないのにひたすら練習しても全然身が入らないという「モチベーション」の問題などもあったのかもしれない。
「試合勘はないですね。球のイメージや自分のスウィングのイメージ、ショートゲームのイメージが馴染んできていない。気持ちとリンクしない感じはありました」
今年試合に出たのは1月の「シンガポールオープン」と7月に行われたゴルフパートナーのエキシビションマッチの2回のみ。いくら百戦錬磨の藤田でもリハビリが必要である。
かといって、レギュラーツアーが開催されないからシニアツアーにどんどん出て「試合勘を養いたいか?」と言われれば、そうでもない。「自分の主戦場はレギュラーツアーなので、シニアの試合に出続けるのもどうなのかな? というのが正直ある」と藤田。シニアとレギュラーではコースセッティングも違うし、グリーンのスピードも違うのでシニアツアーのセッティングに慣れてしまう怖さがあるのだろう。以前、師匠の芹澤信雄に「たまにはレギュラーツアーに来ないと、シニアばかりではダメだな」と聞いていたこともあり、シニアの試合ばかりに出ることに不安も感じている。
「頭の中がレギュラーツアーなんです。今回もレギュラーとは違うとはいえ緊張しましたし、プレッシャーの中でショットやパットを打つのは、実戦、本番じゃないとダメですから、やはり試合には出ないといけないな、と思いました」
だが、シニアは今後、日本シニアオープンなど、出たいメジャーに絞って出たいと思っている。レギュラーが主戦場と言いながら、シニアにも推薦で出してもらうことに対して遠慮や悩みもあるようだ。今回も開催コースの太平洋クラブ御殿場に「チーム芹澤」のゴルフアカデミーがあるから出場させて欲しいとお願いしたが、他の試合に関してはどこまでお願いできる立場にいるのかわからないと言う。
「今は試合が欲しいんです。試合に出ると、こういう緊張感の中でゴルフができるので、試合に出たいんですが、ここ(シニア)で生活している人もいるし、そのワンスポットを自分が取ることに対して違和感もあるので、いろんな人と話をして、自分の気持ちだけでは決めてはいけないかな、と思いました。でも試合はやっぱり出たいと思いました」
通常であればレギュラーツアーの試合に出ることだけを考え、シニアツアーへの出場に思い悩むこともなかっただろう。だが、今年はコロナウイルスの影響でレギュラーツアーが今週まで中止していたため、レギュラーとシニアの狭間で悩みが増えてしまった。
だが、一方では久しぶりに師匠の芹澤と練習ラウンドをしたり、試合で戦い、昔は練習場の打席すら空けてくれなかった怖い先輩が、今では笑顔で迎えてくれるシニアツアーに楽しさや喜びを見出せた1週間でもあった。まだまだレギュラーツアーで戦える藤田だが、将来、本格的にシニアツアーへと移行する時が来た時、いつでも温かく迎えてくれる先輩や同級生がいるというのを肌で感じることができたのは心の支えになるのではないだろうか。