新型コロナウィルスの影響で各種産業は打撃を受けていて、ゴルフもその例に漏れない。しかしその一方で、コロナ禍の間にゴルフを始めた層が一定数いる、という声も聞く。はたして日本のゴルファー人口の推移はどうなっているのか。ゴルフ産業の市場調査・研究を生業とする矢野経済研究所の三石茂樹氏に話を聞いた。

そもそも日本のゴルファーって一体何人いるの?

みなさま初めまして、矢野経済研究所という調査会社で用品を中心としたゴルフ産業の調査・研究を担当している三石と申します。今回は、新型コロナウイルス感染拡大によって日本のゴルファー数は果たしてどのように変化しているのか? といった点について推察してみたいと思います。数字ばかりの話で恐縮ですがお付き合いください。

画像: コロナ感染拡大防止のため、人々の生活様式が一変した3~5月。この時期、プレーを自粛、あるいは継続する既存ゴルファーがいる一方で、この機にゴルフを始めた層も一定数存在したという(写真はイメージ)

コロナ感染拡大防止のため、人々の生活様式が一変した3~5月。この時期、プレーを自粛、あるいは継続する既存ゴルファーがいる一方で、この機にゴルフを始めた層も一定数存在したという(写真はイメージ)

「日本国内におけるゴルファーは何人いるのか」

ゴルフ産業の中ではたびたび話題になるテーマです。最もよく使われている指標の一つが、公益財団法人日本生産性本部というところが毎年発刊している「レジャー白書」という資料の調査数値。同資料の2020年版によれば、2019年のゴルフ参加人口(コース)は580万人となっており、前年に比べて約100万人も減少した、という結果になっています。

一年の間にゴルファーが100万人も増えたり減ったりするというのは業界を専門で調査している身からするとにわかに信じ難いですが、「レジャー白書」はあくまでも(パチンコなども含めた)日本のレジャー産業の実態を広く網羅することを目的とした資料であり、あくまでもゴルフはその「ワンオブゼム」であることを考えると、年によってのブレが大きいのも致し方ない面があるのかもしれません。

その他のゴルファー数を測る指標として業界内で活用されているのが、一般社団法人日本ゴルフ場経営協会(NGK)が集計している「ゴルフ場(延べ)入場者数」のデータです。ゴルフをしている皆さんであれば、ゴルフ場でプレーをした際に「ゴルフ場利用税」という税金を徴収されていることはご存じかと思いますが、このデータはそのゴルフ場利用税の税収額から計算された入場者数のデータであり「リアルゴルファーの行動」を知る指標としては最も適していて正確なデータと言えます。

惜しむらくは「延べ」のデータであるため、ユニーク数が把握できないという点です。ちなみに同データにおけるゴルフ場利用者数はこの数年「横ばい」となっています。上述した「レジャー白書」の数字とNGKとの数字とを併せて分析すると

・日本の総ゴルファー数は減っている
・しかしながら、延べゴルフ場利用者数はほぼ横ばいにて推移している
・つまり「ゴルフをやっている人のプレー回数」が増えている

以上のことから「ゴルフを日常的な趣味としている所謂“コアゴルファー”の活動は活発化しているが、たまにしかゴルフをしない“ライトゴルファー”は総じてゴルフから離れており、二極化が進行している」という仮説を導き出すことができます。

更に「じゃあ何故コアゴルファーの活動が活発しているのか」「何故ライトゴルファーはゴルフから離れているのか」についての調査分析(検証)を行うことにより、ゴルフ産業活性化(というよりはより多くの方がゴルフというスポーツをより楽しんで頂けるか)に向けた戦略立案を行うのが私の仕事の一つなのですが、これを話し出すと終わらなくなるので今回は割愛したいと思います。

話を「日本のゴルファー数」の話に戻したいと思います。上述したように当社では用品を中心としたゴルフ産業の調査に軸足を置いています。具体的には日本国内におけるゴルフ用品の市場規模を推計算出しています。つまり「2019年は国内で何万本のドライバーが流通した」「そしてその金額は何十億円だった」といったような数字を独自に算出しているのです。

そうした独自の数値から、当社では2020年のゴルファー数を「約871万人程度」と推計しています。こうして見ると、上述した「レジャー白書」の数字とは約300万人もの乖離が生じています。また、NGKが発表している2019年の延べゴルフ場利用者数は約8,630万人です。この数字と当社が推計している約871万人という数字を使うと、ゴルファー一人当たりの年間ラウンド数は「約9.9回」という数字になります。ちなみに「レジャー白書」の560万人という数字を使うと「約15.4回」という計算になります。皆さんのプレースタイルは果たしてどちらに近いでしょうか?

コロナ禍におけるゴルフ人口の変化を調査してみた

このようにして日本のゴルフ産業のあらゆる「場面」を数字で表現することが私の仕事と言えますが、今年に入ってからの新型コロナウイルス感染拡大により日本のゴルフ産業も大きな影響を受けました。言うまでもなくマクロの視点ではマイナスの影響を受けていますが(4月には国内ゴルフ用品の小売店における販売金額は前年同期比で約50%にまで落ち込んだ)、緊急事態宣言が解除された前後の5月後半あたりから「マイナス」とは異なる声がゴルフショップやゴルフ練習場から挙がるようになってきたのです。具体的には、

・これまであまり目にすることのなかった、20歳台から30歳台と思しき若いお客様の姿を目にする機会が増えた

・これまで練習場では殆ど見かけなかった「家族連れ」の姿を見かけるようになった

という声、即ち「新しいゴルファーが増えた」という声が数多く挙がるようになってきていて、そうした声は今現在でも様々な業界関係者から挙がっています。その一方で「感染リスクを恐れる高齢者ゴルファーを見かけなくなった」「コロナに関係なくゴルフを続けているゴルファーもいる」など、様々な情報も聞かれています。仮に今年の3月から5月までを「コロナ拡大期」と定義した場合、大雑把に分類して以下の3種類のゴルファーが存在した、ということになります。

A)コロナリタイアゴルファー:コロナ拡大期にゴルフを「自粛」したゴルファー
B)コロナ継続ゴルファー:コロナ拡大期でもゴルフを継続したゴルファー
C)コロナ参入ゴルファー:コロナ拡大期にゴルフを始めた、または「復活(長い間やっていなかったが再び始めた)」したゴルファー

果たして上記3種類のゴルファーが国内に何名程度存在したのか? を検証するために、当社で7月に「コロナリタイアゴルファー実態調査」という消費者調査(インターネット消費者モニター調査)を実施しました。詳細な分析はここでは割愛しますが、調査の結果は以下のようになりました。

A)コロナリタイアゴルファー:約260万人
B)コロナ継続ゴルファー:約611万人
C)コロナ参入ゴルファー:約17万人

つまり、全ゴルファーのうちおよそ30%がコロナをきっかけにゴルフを自粛した、ということになります。この数字はかなり大きなインパクトであり、上述した「4月にはゴルフ用品の販売が半減した」というのも頷けるところですが、一方で(調査を実施した7月時点で)既にゴルフを再開した層は(260万人の)約26%にのぼっており、それ以外の大多数も「コロナが落ち着いたらゴルフを再開したい」「タイミングを見計らってゴルフを再開したい」という意向を持っている、という結果になっています。

世間では飲食業や観光業などを中心に来客店数・来場者数が激減した、などという悲しいニュースが連日流れていますが、それらと比較するとゴルフ産業は「コロナ耐性」が強い、と言えるのではないかと思います。

更には、コロナのタイミングでゴルフを始めた(または再開した)新規参入層が約17万人存在する、ということも見逃してはいけない傾向だと思います。「17万人」という数字が多いか少ないか? は受け取る人によって異なるのではないかと思いますが、日本全体が「新型コロナ」という得体の知れない恐怖に晒されている中で17万人もの人がゴルフの「扉」を開けて入って来てくれたことは非常に明るいニュースなのではないかと私は捉えています。

しかしながら重要なのは「この後」で、コロナを機にゴルフを始めてくれた人たちが果たしてこの先もゴルフを続けてくれるのか? それが産業にとっては非常に重要なのではないかと思います。この数年でゴルフ場におけるプレーの「ハードル」は格段に下がったと言えます。換言すれば「コロナ参入ゴルファー」であっても気軽にゴルフ場でプレーすることができる、ということになります。

ただその一方で、そうした新規ゴルファーと既存ゴルファーとの「軋轢」が生じてしまう懸念もあります。そうなればせっかくゴルフの「扉」を開けてくれたゴルファー達も時を待たずして再び出て行ってしまう可能性が高いでしょう。

新型コロナウイルス感染拡大を機に我々の生活は一変しました。世間ではそれを「ニューノーマル」と言っていますが、ゴルフ産業においてもコロナをきっかけにゴルフを始めた右も左も分からない新規層を「既存の価値観で排除」してしまうのではなく、ゴルファー自身の手で「育成する」という文化が醸成されれば良いな、と思っています。きっとそれが日本のゴルフの「ニューノーマル」に繋がっていくのではないかと思います。

※一部内容を訂正しました (2020年9月3日14:28)

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