イ・ミリムの勝利で幕を閉じた海外女子メジャー2戦目「ANAインスピレーション」。プロゴルファー・中村修が試合を通じて感じた「日本人選手と世界との差」について語った。

日本人選手が味わった世界と自分の差

海外女子メジャー2戦目「ANAインスピレーション」は通算15アンダーで並んだブルック・ヘンダーソン、ネリー・コルダとのプレーオフの末、イ・ミリムが勝利。通算4勝目、メジャー初勝利を収めた。

画像: ANAインスピレーションを制したイ・ミリム(写真/LPGA Getty)

ANAインスピレーションを制したイ・ミリム(写真/LPGA Getty)

体力が奪われる気温の高さと硬いグリーン、そして強いラフのタフなコンディションのなか、15アンダーを積み上げた3選手。画面を通して観戦していたプロゴルファー・中村修は「プレーオフで争った3選手の優勝争いは誰が見ても面白かったのではないでしょうか」と話す。

「ショット、アプローチ、パッティングなどの技術ももちろん、気温が高いなか集中力を切らさずに4日間を戦い抜ける体力、ミスをしても崩れずに耐えて、最終ホールでバーディやイーグルを決めてプレーオフに進出する精神力。世界のレベル、壁の高さを改めて感じた試合でした」(中村)

とくに飛距離面で圧倒的だったのは、コルダとヘンダーソンだ。コルダは4日目の平均飛距離が305ヤード、ヘンダーソンは292ヤードと男子プロかと思わせるような数字を記録。そのパワーでラフからのショットでもグリーンに届かせたり、パー5で2オンさせていた。

優勝したミリムは飛距離面では2選手に一歩及ばないが、最終ホールのプレーオフ進出を決めたチップインイーグルをはじめ、なんと3つのチップインを決めるアプローチの上手さが光った。

一方で、今大会には日本人選手も5名参戦。そのうち渋野日向子、河本結、畑岡奈紗の3名が予選を通過した。そのなかでも中村が改めて感じたのは「やはり畑岡選手の実力の高さです」と言う。

「畑岡選手、大会前の会見では『調子はまだ良くない。試合の中で調子を上げていけたら』と話していました。言葉通りに調子を上げ、3日目に5アンダー、最終日もきっちり3打伸ばして、トータル9アンダー7位タイでフィニッシュしています」(中村)

画像: ANAインスピレーションを7位タイでフィニッシュした畑岡奈紗(写真/LPGA Getty)

ANAインスピレーションを7位タイでフィニッシュした畑岡奈紗(写真/LPGA Getty)

畑岡が他の日本選手より抜きんでた結果を残す秘密を、中村は「技術面や本人の努力をもちろんですが、なにより一度どん底を味わっていることが大きいでしょう」と話す。

「畑岡選手は2016年にアマチュアにして日本女子オープンを制し、プロ入り1年目にして米女子ツアーのQTに合格しました。本人も相当な覚悟を決めての決断だったでしょうが、蓋を開けてみれば参戦一年目は予選落ちの連続。そこで世界と自分との差を痛感したはずです」(中村)

慣れない米国での転戦に、畑岡は苦労した。その中で、諦めずに実力を蓄え、米ツアーそのものに慣れていったからこそ、今がある。

「どん底を味わって、畑岡選手はそこから再び這い上がって米女子ツアーを目指しましたよね。技術面はもちろん、フィールドへの慣れ、経験、言葉……そういった壁をひとつひとつ乗り越えて戦っているわけです。積み重ねてきたものの重みが、結果に出たなと思います」(中村)

渋野日向子が今季苦戦が続いている要因も、経験の部分は大きいという。

「渋野選手は、今大会では51位タイでのフィニッシュでした。『ANA』が初めてのアメリカ本土での試合でしたし、メジャー1戦目の全英女子オープン(予選落ち)で初めてスコットランドのリンクスを経験しました。去年の全英で結果を残した渋野選手や再開した別女子ツアーで上位進出を果たした河本結選手ですら、そう簡単に結果を出させてくれるほど甘いフィールドではないということを改めて感じました」(中村)

画像: ANAインスピレーションを69位タイでフィニッシュした河本結(写真は2019年のmeijiカップ 撮影/岡沢裕行)

ANAインスピレーションを69位タイでフィニッシュした河本結(写真は2019年のmeijiカップ 撮影/岡沢裕行)

同じく予選を通過し69位タイでフィニッシュした河本結も優勝後の会見で、こう語っている。

「今日は体も心も本当にすごく疲れていて(中略)、メジャーで集中力がない状態でプレーしてしまった自分にすごく弱さを感じました。4日間戦えたことで、自分がどれだけ世界レベルのメンタルとフィジカル……ゴルフ以前の問題で差があるのかを実感しました」(河本)

そして同時に畑岡のすごさも改めて感じたと河本は言う。

「私はサポートしてくれる方と一緒に米女子ツアーを戦っていますが、一人でルーキーイヤーを戦ったナッサー(畑岡の愛称)を見ると、今のナッサーがいるのもそういうことを一人で乗り越えてきたからなんだと思っています。世界の上位で戦う選手と自分にはそういう面でも大きな差があるなと感じました」(河本)

海外メジャーを通じて様々な面での差を感じたという河本。ただ、やはり日本人選手が海外のフィールドで活躍する姿は、ファンならばみたい光景だ。

「飛距離だけでなく、ショートゲームを磨けば世界でも戦えることは韓国選手が証明しています。今年の全英女子での上田桃子選手の単独6位も良い例です。なにより、海外メジャーのような大きい舞台で優勝争いする日本選手が見たいですよね」

今回世界との差を味わった彼女たちが、今後どう進化を遂げるのか。大きな期待を持って注目したいところだ。

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