1923年開場、97年の歴史を誇るウィングドフットGC(ウェストC)で開幕した全米オープン。29年にボビー・ジョーンズが、59年にはビリー・キャスパーが栄冠に輝くなど伝統と格式に彩られたニューヨークの名門は今回少しだけ選手たちにやさしい顔を見せている。

4度目の全米オープン開催となった74年にヘール・アーウィンが優勝したときのスコアが通算7オーバー。前回(06年)ジェフ・オギルビーが勝った優勝スコアは5オーバー。主催する全米ゴルフ協会(USGA)が威信をかけ「アンダーパーでは優勝させない」とばかりイーブンパーの攻防を演出する難しいナショナルオープンのなかでもウィングドフットは最難関といわれてきた。

ところが初日トップに立ったジャスティン・トーマスが5アンダー65で回り、21人がアンダーパーをマークするなど鉄壁の要塞を攻略した選手が多かった。

USGAのマイク・デイビスCEOは「2020年はコロナ禍に見舞われた異例の年。ウィングドフットはコースそれ自体がチャレンジング。セッティングでより難しくすることはせず選手の力量を思いっきり発揮できるようにした」と今回選手フレンドリーのセッティングであることを認めている。

画像: 初日5アンダーと好スタートを切ったジャスティン・トーマス(写真は2020年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

初日5アンダーと好スタートを切ったジャスティン・トーマス(写真は2020年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

6月開催予定が延期となった頃ニューヨークはまさにコロナのホットスポットだった。果たしてウィングドフットで開催すべきか、違うコースに移すべきかUSGA内部でも議論が沸騰したという。「じつは12月にカリフォルニアで開催することも検討していた」とデイビス氏。

さまざまな問題をクリアして開催にこぎ着けたメジャーだけに「エキサイティングな展開にしたい」というのが主催者の願いだ。

「少しでもやさしいセッティングにしてくれて良かった。ウィングドフットはそもそもどんな状況でも難しいんだから」とディフェディングチャンピオンのゲーリー・ウッドランドもいう。

ではなぜウィングドフットはそんなに難しいのか? 美しきパークランドはベスページブラックやパルタスロールの設計で知られるA・W・ティリングハースト氏の代表作。ドッグレッグホールが多くまずティショットの落としどころが難しい。フェード、ドローを自在に打ち分ける技術が必要で、ひとたびフェアウェイを外せば奥から手前に傾斜し巧みに配されたバンカー群に守られる高速グリーンを攻略するのは至難の技。特に砲台グリーンを左右のバンカーが固める10番パー3は全米ベストホールの称号を得ている。

煉瓦造りのクラブハウスには歴代優勝者のボビー・ジョーンズらの写真が掲げられ、一歩足を踏み入れると古き良きアメリカのゴルフ史を肌で感じることができる。

余談だが米ゴルフダイジェスト誌の名物編集長はここでウェディングを行っている。その彼と以前レストランで待ち合わせ名刺を差し出すと、右手をさっと捕まれ「ここは名刺交換する場所ではないのですよ。(企画書などの)紙類も出さないでください」とやんわり名門の流儀を教わった思い出がある。そこはクラブメンバーの社交場。素性の確かな人々は名刺交換などしない。

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