渋野日向子をサポートし、渋野を“しぶこ”と呼ぶコーチ・青木翔。青木は、選手との信頼関係を築くためには会話の中で自分の失敗談を伝えるなど、選手との距離を縮めるのが大切だと説く。対話以外にもある、選手との距離を縮めるテクニックを自身の著書「打ち方は教えない」から教えてもらおう。
距離を縮めるちょっとしたテクニック
話をする以外にも、ちょっとしたことで距離感を縮めることができます。たとえば食事。選手が試合の時はコーチの僕も同行して、一緒に食事をとることがあります。これは選手と距離を縮める絶好のチャンスです。
僕は気になっている選手がいるとしたら、その子ともう1人、仲のいい子を誘って3人で出かけます。2人だと向こうがかしこまってしまうし、大人である僕は権威的な存在として見られることもあるので、リラックスして話ができるよう仲のいい子も一緒に誘うのです。
「仲のいい友だち」は、その子を知るうえで重要な存在です。僕の知らない子どもたちのコミュニティでの様子や役割を知ることができるからです。また、家庭や親との関係などコーチには話しにくいことでも、よく知っています。

ゴルフ以外のことを話すことで選手との距離感が縮まるかも……(写真は2019年のNEC軽井沢72ゴルフトーナメント 撮影/大澤進二)
元気がなかったり普段と様子が違うとき、「仲のいい友だち」に聞くと、その原因がわかったりするのです。
さて、レストランでテープルに着いたら、僕は距離を縮めたいと思っている子の隣に座るようにしています。
対面に座ると力関係の優劣を意識しがちですが、隣に座ることで暗に対等な関係だということを示せて、フラットに話をすることができるのです。
話す内容はやっぱり、教えている内容(僕の場合はゴルフ)以外のことがオススメ。内面は、ゴルフよりも普段の生活のほうがつかみやすいからです。
教え子を知るために周りの人間関係も把握しておく
特に家、学校、他の習い事など、さまざまなコミュニティを持つジュニアの場合、レッスンで見ることができない面を多く持っています。それらを知るために、ゴルフ以外の話をするようにしているのです。
自分の前で見せる以外の一面を知っておくことで、その子がどんな言葉に反応するのか、頑張れる動機はどこにあるのかを把握することができるのです。
例えば仕事で部下がふさぎ込んでいたとして、その要因が仕事かどうかはわかりません。実はプライベートで間題があったかもしれないし、家庭が原因かもしれない。そうしたときに適切な言葉をかけてあげられるよう、普段から部下や教え子のことを把握し理解しておかなければならないのです。
距離を縮めることとは関係ありませんが、「仲があまりよくない子」の存在も知っておくと役に立つでしょう。僕はしばしばその子を仮想ライバルとして使わせてもらうことがあります。
「お前がやってる課題、この前、〇〇がサクッと終わらせとったで」
「それまだできんのか。そういえば〇〇はもうできとったな」
こんな具合に、名前を拝借させてもらうと、負けず嫌いな子どもは必死になって取り組むことがあります。
「打ち方は教えない。」(ゴルフダイジェスト社)より