マッスルバックは変わらない“定番”だが、やっぱりどこかが変わっているという話
最近の大型ヘッドドライバーを打ちこなすには、新しい”〇〇スウィング”が必要!”などと言われるが、ドライバーに合わせてスウィングを変えてしまったら、あまり変わっていないアイアン(とくにマッスルバック)を使う時に困ってしまうではないか! そんなふうに思ったことはないだろうか? 筆者は“今どきスウィング”という言葉を見かけるたびに、他のクラブはどうするんだろう? と疑問に思ってきたクチである(汗)。
今回、別の企画で最新マッスルバックアイアンヘッドの重心測定を行ってみたのだが、なるほど、“マッスルバックが最新スウィングに寄っていってるのか!”と感じた部分があったので、簡単に紹介してみたいと思う。
まず、従来のマッスルバックアイアンとして、国産プロモデルアイアンの原型であるジャンボMTNIIIプロモデルの重心測定結果を示しておきたい。これを従来マッスルの“基準”とする。
【ジャンボMTN IIIプロモデル#7】
ロフト:36.6°
F.P.:2.8ミリ
重心角:14.1°
重心深さ:0.9ミリ
重心距離:32.6ミリ
重心高さ:20.9ミリ
MOI:2678g・cm2
重さ:270.1g
※計測/ジューシー
続いて、現在多くのPGAプレーヤーが使用している最新マッスルバックアイアン、タイトリスト 『620MB』の計測データを同じように示す。
【620MB #7】
ロフト:35.3°
F.P.:5.5ミリ
重心角:11.0°
重心深さ:2.6ミリ
重心距離:34.2ミリ
重心高さ:18.9ミリ
MOI:2305g・cm2
重さ:267.5g
※計測/ジューシー
オフセット(F.P.小)の強い国産マッスルのMTN IIIと、ストレートっぽいリーティングエッジ(F.P.大)のアメリカンマッスルという特徴がよくみてとれるが、今回の注目は重心距離の値だ。ここがやや長くなっていることに気づくだろう。次にPINGが初めてつくったマッスル『BLUE PRINT』についても数値を出してみる。
【BLUE PRINT #7】
ロフト:34.4°
F.P.:5.7ミリ
重心角:10.0°
重心深さ:2.6ミリ
重心距離:36.0ミリ
重心高さ:18.9ミリ
MOI:2298g・cm2
重さ:272.4g
※計測/ジューシー
さて、重心距離はどうだろう。36ミリ! かなり長くなっていることがわかるはずである。ちなみに、長くなっている!といってもマッスル以外のアイアンと比べればまだまだ短重心の部類である。参考までに、PINGの中空モデル『G710』の重心距離は43.6ミリ(#7)。『ゼクシオ イレブン』は41.6ミリ(#7)である。
慣性モーメントを大きくするために、ドライバーヘッドは460ccまで大きくなり、それとともに長くなっていったのが“重心距離”である。重心距離が長くなるとスウィング中のフェースターンがしにくくなって、スクエアインパクトしにくくなる。これを補うために“新スウィング”が必要になってきた。それがスウィングトレンドの背景である。
ドライバー合わせの新スウィングが登場。当然、影響を受ける伝統のマッスルバック
そして、今、その“新ドライバースウィング”を身につけたツアープレーヤーから、新スウィングでもフェースコントロールしやすい“ニューマッスル”が望まれている。そういう状態が最新マッスルの重心設計の変化に見て取れるわけだ。ここでは7番アイアンの数値しか示せなかったが、ロングアイアンになるほど重心距離が長くなる傾向にあり、昔のアイアンセットよりもロングアイアンのブレード長を長くするマッスルバックモデルが増えている。
PGAツアーではロングアイアンをヘッドの大きな別モデルとするプレーヤーも多いが、これもやさしさ(許容性)アップ! というよりも、重心距離合わせ(長い番手ほどフェース開閉を少なく)であると見たほうが妥当。ヘッドが大きいモデルほど、重心距離が長くなるからだ。
マッスルバックアイアンは“操作性(自分でフェースの開閉をコントロールすること)”が命であり、短重心が基本とされてきたが、それはまさに操作性が重視される短い番手での話である。フルショット主体のロングアイアン領域では、ドライバーのようにスウィングする。だからこそ伝統のマッスルバックといえども、ロング番手ほど長めの重心距離に設定しておかなければ、使いにくいのである。
今はオーソドックスなマッスルバックに見えても、ロングアイアンのトゥ寄りにタングステンを内蔵するなどして、重心距離を長く設定した“隠れ長重心マッスル”も存在している。ゴルフは複数のクラブを使い、打数を繋ぎながら進めていくゲームである。ドライバーが大きく進化(変化)すれば、伝統マッスルも不変ではいられない。苦労してドライバー用のスウィングを身につけてしまえば、なおさらである。
写真/高梨祥明