PGAツアーでは2019年にプロ転向したばかりの選手たちが活躍している。代表的な選手はコリン・モリカワですでにメジャー1勝を含むツアー3勝を挙げており、マシュー・ウルフとビクトル・ホブランもすでに1勝を挙げている。この躍進の理由はどこにあるのか? 在米ゴルフアナリスト・アンディ和田が分析する。

米男子ツアーウォッチャーの方はもう既にご存じだと思いますが、23歳のコリン・モリカワ(日系四世米国人)がメジャー制覇、21歳のマシュー・ウルフの全米オープン準優勝などPGAツアーでは昨年プロ転向した若手の活躍が著しいですね。 世界ランクではモリカワ6位、ウルフ18位、そして23歳のビクトル・ホブラン(ノルウェー)は29位と上昇しています。

画像: ツアー3勝(うちメジャー1勝)を挙げたコリン・モリカワとガールフレンド

ツアー3勝(うちメジャー1勝)を挙げたコリン・モリカワとガールフレンド

3人のプロ転向後PGAツアー参戦試合数は約30試合前後なのでこれまでの結果をリストアップしてみました。また比較としてタイガー・ウッズやこれまでプロ転向後にすぐに結果を残していたジョン・ラーム、ジョーダン・スピースもプロ転向後30試合目までを調べました。

全米オープンを制したブライソン・デシャンボーや松山英樹も加えたリストは下記の通りです。

試合数優勝15位以内予選落ち世界ランク
コリン・モリカワ3231135位
マシュー・ウルフ2917618位
ビクター・ホブランド27111329位
タイガー・ウッズ3061611位
ジョン・ラーム3011535位
ジョーダン・スピース30112613位
ブライソン・デシャンボー30031887位
松山英樹3018320位

タイガーの6勝というのがやはり群を抜いて目立ちますね。 この中でメジャー大会で優勝したのはタイガーとモリカワだけです。アマチュア時代に全米アマや全米学生のタイトルを奪取したデシャンボーは予選落ちがなんと18回と粗い感じがありました。

昨年プロ転向した3人以外にも下部ツアーを経て新人王に輝いたスコッティ・シェフラー(世界ランク30位)も即戦力の実力派として知られていますが、何故今回のように多くの若手が成功収めることができているのか? を考えてみました。

画像: 世界ランク29位のビクトル・ホブラン(写真左)も昨年プロ転向組

世界ランク29位のビクトル・ホブラン(写真左)も昨年プロ転向組

私はラームやデシャンボーが日本で開催の世界アマ(2014年)で活躍したのを解説しましたし、 モリカワ、ウルフ、ホブランドがジュニアゴルファーだった頃から現場で取材を続けていますが、そんな私なりに考えた点は5つです。

【1】PGAツアーが開催される難コース、タフなトーナメントセッティングを経験

24歳でメジャー3勝を挙げたジョーダン・スピースはテキサス大学に1年半在籍後、中退してプロ転向しました。スピースは、PGAツアで戦う上でAJGA(アメリカンジュニアゴルフ協会)というアメリカ各地を転戦していくエリートジュニアの試合での経験がとても役立っていると話していました。

たとえば、準メジャー競技「プレーヤーズ選手権」を開催するTPCソーグラスでは秋に「ジュニアプレーヤーズ選手権」が行われます。ツアー競技と同じティーの位置、ピンポジションで競うという形式です。

画像: オクラホマ州立大出身の選手たち。写真左からリッキー・ファウラー、マシュー・ウルフ、ザック・ボーシュー、ビクトル・ホブラン

オクラホマ州立大出身の選手たち。写真左からリッキー・ファウラー、マシュー・ウルフ、ザック・ボーシュー、ビクトル・ホブラン

また大学の対抗戦やアマチュアの試合でもリビエラやペブルビーチ、パインハーストなどメジャー競技が行われるコースの7400ヤードを越えるセッティングで試合経験を積めるのも大事ですね。 タフなコースで場慣れしているので、PGAツアー出場時に必要以上に驚くことはないと感じます。スピース曰く、「異なる芝や難しいコースでプレーする事で何が足りないのかを実感できる」のだそうです。

意外と思われる点はアメリカではPGAツアーの試合でアマチュア、大学生が推薦出場で参戦する機会はとても少ないのです。 世界アマランク1位だったモリカワは2試合のみ。 全米学生個人優勝のウルフは1試合だけでした。ですから、プロの試合の場慣れというよりは、コースや芝のへ慣れから、対応力がついていると考えられます。

【2】メンタル面の強化 「失敗を恐れない」心と「揺るぎない自信」

2週間前に全米オープンを制したブライソン・デシャンボーは「どんなに失敗しても私はまったく恐れない。失敗したことから課題をクリアしてレベルアップしていくのが楽しいし、そのように父から教わって今の私があるんです」と話していました。

強豪大学の体育会ゴルフ部の多くはスポーツ心理学の専門家が個人カウンセリングをして「揺るぎない自信」の部分を強化させます。 迷わない、パニックに陥らないように特訓するとある大学の監督が教えてくれました。 自分のスウィングに自信を持ち、頻繁に人のスウィングの真似で大きく改造する必要がないというのを理解させるのは監督やコーチの仕事のひとつだそうです。

【3】使用クラブ、テクノロジーの進化の恩恵

大学生はもちろん、最近はジュニアゴルファーでも弾道計測機・トラックマンの数値をしっかり理解して自分の数値や番手ごとの飛距離を把握できるようになっていますが、これも若手選手が成功している要因のひとつでしょう。

クラブメーカーもプロ転向前から選手達をツアー選手と同じように詳細なフィッティングを行い、理想のクラブをサポートすることができています。モリカワやウルフはプロ転向時でもまったく使用クラブを変えずに、基本的には同じものを使い続け成功を収めていました。

【4】メディア対応、テレビカメラ慣れ

全米アマや全米学生という試合はもちろん、現在ではゴルフ専門局やネット放送で大学の試合約10試合が放送されるようになっています。選手はプレー前、プレー後にインタビューに応じて自分のゴルフをしっかりと説明します。

プロのスポーツ選手としてこのメディアトレーニングはとても大事な要素です。 プレー中にカメラマンが動くこともあるでしょうし、緊張する場面も多いでしょうが、数をこなしていけばやはり雰囲気に慣れて自分のパフォーマンスを出しやすくなる事も事実でしょう。

PGAツアーの大舞台でもしっかりインタビューに応じて堂々と自分のプレー内容、大会関係者、ボランティア、そしてお世話になっているスポンサーへのお礼など落ち着いて話すことができると「アウェイ」感覚ではなく、「ホームゲーム」として力を発揮しやすいです。

【5】ツアープロとの深い交流

新型コロナの影響でPGAツアーが中断していた時期にテレビマッチとして行われた試合にリッキー・ファウラーは大学の後輩マシュー・ウルフとチームを組んでロリー・マキロイ、ダスティン・ジョンソンの組と戦いました。

アメリカではこのように先輩が「メンター(=良き先輩、指導者)」と呼ばれる役割を果たすケースがあります。ガチガチの先輩後輩という関係ではなく、良い方向に進むように導くような心地良さを感じます。大学の先輩に限らず、同じ所属事務所の先輩や同じコーチの指導を仰ぐ選手などがメンターとなることで、ツアー会場で「自分の居場所」を感じることができるようになるというのもパフォーマンスを出せる重要な要素です。

もちろんティショットで飛距離がしっかりと出ること、キレ味のあるアイアンショット、創造力のあるグリーン周りのタッチ、そしてプレッシャーの中で落ち着いたパッティングのタッチが出せることなど総合的な技術を備えていないとツアーでは通用できませんが、持っている力をしっかり出し切るためには技術以外の要素も多く関係していると感じます。

日本人として初の「マーク・マコーマックメダル(年間世界ランク1位)」を獲得した金谷拓実選手もいよいよプロ転向間近という話も聞きますが、プロ転向後どのような活躍を見せてくれるのか楽しみですね。

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