ポイントは「ロフト」「許容性」「打感」
秋の新製品が続々登場しているが、ここ1、2年の傾向として感じるのは、アイアンセットのラインナップが増えているということだ。たとえばミズノなら、原英莉花が使用して日本女子オープンに勝利した「JPX921ホットメタル」のほかにも、「JPX921ホットメタル プロ」(12月発売)、「JPX921フォージド」、「JPX921ツアー」の4機種が発表されている。
この4機種だけならまだ覚えやすいのだが、同社は3月に飛び系アイアンの「JPX 200X」アイアンを発表したばかり。そして昨年は限定発売で「JPX919ツアー」と「JPX919 ホットメタル」が登場している。さらに、フィッティング前提のカスタムブランド「ミズノプロ」から、「ミズノプロ120」、「ミズノプロ520」、「ミズノプロ920」もラインナップされて人気になっているのは、よく知られているところだ。
ミズノは、店頭で完成品を販売している「JPX」とカスタム専用の「ミズノプロ」の2ブランドを展開しているという事情はあるが、実に10機種を越えようかというラインナップだ。これは同社だけではなく、他のメーカーも同様に、徐々にアイアンのラインナップが増えている傾向がある。
ピンはプロや上級者向けから、アベレージ層も使いやすいモデルまで幅広く6機種。先だって、「XフォージドCB」、「APEX MB」、そしてスライサー向けの「ビッグバーサ」アイアンが発表されたばかりのキャロウェイは、春に発表された「マーベリック」3機種を含む、7機種のアイアンがラインナップされている。
タイトリストは昨年、「T100」、「T200」、「T300」の3機種が発表されたが、それでは不足だったのか、今年に入って飛び系の「T400」と「T100S」が追加されている。
テーラーメイドは、9機種のアイアンがラインナップされている。セレクトフィットストア限定モデルとして先日発表された「P7MB」、「P7CB」のように、数量や取り扱いショップ限定で発売されているのが4機種あるのがテーラーメイドの特徴だ。流通を絞ってでも、アイアンのラインナップを増やしたいわけだ。
日頃からおびただしい数の新製品情報を得ている筆者のような人間でも、特徴などの詳細を把握するのに一苦労しているので、一般ユーザーにしてみれば、なぜここまで種類が増えないといけないのか、疑問に思う人も多いのではないだろうか。デザインが似ているものも多く、パッと見で性能がわかりにくい難しさもある。
これほどラインナップが増えるのは、ゴルファーのニーズがより細分化したからだろう。一昔前であれば、上級者モデル、アベレージモデル、シニア層向けと3機種もあれば、広範囲でカバーできた。しかし今は、中上級者向けだけでも、形状や素材が変わったり、ロフト設定が変わったりしている。
昨今のストロングロフト化が、それに輪をかけている。中上級者モデルでもロフトが立っているもの、寝ているものがあり、ロフト角が立っているモデルの中にも、やさしいものとシャープなもの、といった具合に種類が増えていく。さらに同じロフト角であっても、飛距離やボールの高さなどに変化が出るから、それらの特性の違いを持ったモデルもラインナップされていくのだ。
この傾向自体はメリットでもあって、これまでは対応が難しかった「もう少しこうなれば、なお良いな」と感じるようなところを変えて、別モデルとして発売されるなら、そのゴルファーにとっては嬉しい話だろう。うまく自分が求める性能を手にできる選択眼があれば、そのメリットを享受することが出来る。
自分に合ったアイアンを選ぶ上で押さえておきたいポイントは3つある。まずはロフト角のピッチだ。現在は、同じ7番でもロフト角は最大で10度近く違う上、前述したように、同じロフト角でも飛距離や弾道はかなり異なるが、せめてそのモデルが各番手でどのようなロフト角になっているかは、把握しておきたいところ。下の番手のロフト角が大きく開いていたり、上の番手が詰まっているものは、避けたほうが良いのではないかと思う。ゴルフが難しくなるからだ。
そしてミスの許容性だ。マッスルバックなら許容性は小さく、ポケットキャビティなら大きい。自分の腕前を見極めながら、そのあたりであまり無理をしないほうが、クラブの恩恵を受けやすく、結果も出しやすい。
もう一点は打感だ。現在は、フェース素材やヘッド構造の種類が非常に増えていて、高強度の素材であったり、中空であったりすると打感は大きく変わる。そのあたりが気にならないゴルファーなら良いのだが、打感・打音は、意外とスウィングや弾道のイメージにも影響するので、できれば実打して選びたいところだ。
現在、市場に展開されているアイアンは、かくの如く非常に豊富な種類があり、選ぶのは一苦労だが、選択肢が増えたという点では、ゴルファーにとっては嬉しい話だ。唯一、ロフト角が寝ていて、しかもやさしいモデルのラインナップが不足しているように思える。このあたりのニーズをどこかのメーカーが狙ってみると面白そうだ。