海外遠征の成果は「マネジメント力の向上」
――まずは2か月の海外遠征はスコットランドの2試合からはじまりましたが、振り返ってどうでした?
青木翔コーチ(以下青木):スコットランドの2試合は、とにかくセッティングとコンディションが厳しかったですね。あと、昨年全英に挑戦したときは失うものがなかったですが、今年は本人にしてみれば背負わないといけないものが絶対あったでしょう。それは僕にもわからない、本人にしかわからない苦しみです。僕は支えてあげることしかできませんでした。
――一方、アメリカでの4試合はすべて予選通過を果たしましたね。
青木:立派な結果です。本人はもう少しやれたと思っていますしやりたかったと思っているでしょうが、僕の中では欲張らずに現段階では十分な結果だったと思います。
今しぶこは、簡単に言えば“新しい自分”になろうとしています。それは去年までのスタイルだけではこの先やっていけないと感じているから。試合を重ねる中で進化していくタイプの選手なので、彼女の中で自分なりに考え、もがいて2か月間戦った海外遠征は良い意味でもまれた期間になったと思います。
このままで終わらせるつもりではないですし、足元を見つつ土台はその都度固めていかないと、揺らいだときに対応できなくなってしまうので。
――とくに後半の2試合ではいいラウンドも多くなりました。
青木:思っている以上に成長しましたし、帰国してからの話でも明確な方向性、「私はこうしたい」というのが出てましたので。こちらも素直にアドバイスできました。
――調子のいいラウンドとそうでないラウンドの違いはどこにあった?
青木:広いほうに打たなくちゃいけないショットで、ピンに飛んで行ってしまうことがあったようです。「自分が日本でやってきたゴルフ」に(海外のコースでのゴルフを)プラスαにしようとしたときにまだ上手くできなかったのかなというのがありますし、スコアが伸びない状況になったときに気持ちだけが先行してしまった部分もあると思います。そこは試合を重ねながら乗り越えていかなければならないですね。練習とは違って試合の状況、気持ちが入ったときじゃないとわからないことも多いですから。
――成長した点、具体的には?
青木:海外遠征ではスウィング云々の話ではなくて、コースマネジメントに加えて自分自身のマネジメント力というか、自分のコントロールの仕方も必要とされるセッティングを経験したことで視野が広がったと思います。
コースマネジメントで言うと、前後左右に振られたピン位置に対して、安全な場所に乗せるとアンジュレーションが強く上りや下りに曲がるラインが残り、パッティングへの負担も大きくなることが多かったんです。
本人からすれば、打ちたいけど打てないもどかしさはあったでしょう。今までの攻め方とは違うマネジメントを覚えていかなくてはならないですね。
そうなるともっとアイアンやセカンドショットの精度、球をコントロールするためのスピン量が必要になってきます。とくにスピン量は課題だととらえています。いつでもしぶこが「フェードを打ちたいと言えば」打てるようにコーチできる準備を整えなければいけません。
海外遠征で目の当たりにした“世界との壁”
――米女子ツアーは選手層も厚いです。コーチとして感じた“世界の壁”は?
青木:日本ではアドバンテージになっているドライバーで、キャリーで距離を出せることがアドバンテージにならなかった。アメリカでの4試合ではマリア・ファッシやアン・バンダムなど平均飛距離280ヤードを越える選手とも同組でプレーしていました。しぶこがセカンドオーナー、つまりドライバーショットが一番飛んでいないことで2打目を1番先に打たなくてはならないこともありました。
だから新しいこととして、もともとアイアンは得意なのでセカンドショットの幅を広げるということに着目したんです。狙って打って広いエリアに止められるようにならないといけないという日が絶対に来ると思うんです。そのために必要なスピン量を確保するには、ある程度のパワーは必要になってくる、それに耐えうる体をしっかり作っていく。これは僕らサポートチームで先読みしてしっかり考えていかなければなりません。
本人は「飛距離は必ずしも必要ではない」と言っていますが、やっぱり底の部分でスピードとパワーは必ず必要になってくると思うので、トレーナーの斎藤大介君とは「本人が必要だと思ったときのために下準備だけ進めておこう」と話しています。
――その一方で「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」では飛距離の出ないパク・インビが2位に輝きました。
青木:(パク・インビは)もともと持つ抜群のショートゲームの技術だけでも生き残っていける選手です。でもしぶこの場合は違うんです。プレースタイル自体が違っていて、しぶこにとってのショートゲームはピンを攻めて外したときのアプローチであったり、ティショットがトラブルになったときの3打目の精度を上げるため、パー5で2オンを狙ってバーディを取るためのもの、という位置づけがあります。ショートゲームに対する使い方が彼女とパク・インビとは違うのかなと思います。パク・インビから学ぶショートゲームはたくさんあると思いますが、プレースタイルに組み込むわけではないと思います。
――パッティングに関しては?
青木:米女子ツアー上位の選手は本当にうまいです。大きく曲がるラインのショートパットの対応力が違うと感じました。「それ入れるんだ」というシーンは何回もありました。(普段から)厳しいピン位置でやってるからですよね。
遠征を受けて、今後のパッティングの練習の仕方も変わってきますし考えていかないといけないです。アプローチでも、打ち方は覚えていても現場で何度も経験しないと上手くならなかったですし。もちろん下準備していたので、コツをつかんだら急激に伸びたのは良かった点でした。
――厳しいピン位置だったから、やさしいアプローチもなかった?
青木:なかったですね。手前から40ヤード入ってて奥が3ヤードしかないとか、日本ではなかなか経験できないようなピン位置が結構ありました。練習ラウンドの仕方も変わってくると思います。彼女は握力があるので日本のラフなら大抵打てるのですが、海外のコースだとそれが打てなかったり花道にしか狙えない、という場面もありました。ラフへの考え方も変わってきますよね。
アメリカツアーに行っても、僕自身はあと1年は苦しむんじゃないのかなとは思っています。苦しむからこそ、そのための準備を日本でできるだけしていかなければならないですし、課題を実際に経験して見つけないことには始まりません。
一番の収穫は「しぶこ自身の考えが出てきたこと」
――コーチとして選手を成長させることをジュニアアカデミーでも念頭に置いていますが、この2か月で渋野へのコーチングはどう変わった?
青木:しぶこ自身の考えが出てきたことが一番大きいですね。昨年までは「青木さんどうしたらいいですか?」という所から自分のこうしたいとい意見が出てきたところは大きく成長したところです。プレーや練習面でもそうですが、ネリー・コルダら海外の選手たちは自分でキャディバッグを担ぎ、スーツケースを引いて、自分で運転してコースに来るんですよね。本人も話していましたが「自分一人では何もできないので少しでもなにかできるように」と。そこは本当に成長したなと思います。
――今週は久しぶりの日本ツアーですね。
青木:日本では獲得賞金ゼロなので(笑)。まずは予選通過して、良い位置で予選を通ればバンバン行って欲しいと思います。そこは意識しているかなと思います。
――何か新しい渋野日向子が見られそうですか?
青木:セッティングによるとは思いますがやっぱりピンに打ってくると思いますので、外れたときのアメリカで培ったショートゲームが目に見えてわかりやすい変化かなと思います。