前重心のスパイダー登場。マレットパターも“選択”の時代
テーラーメイドが9月から発売しているパターに「スパイダー FCG」というモデルがある。これは大きな慣性モーメントを有し、世界のツアーでも高い人気を誇ってきた「スパイダー」シリーズの最新作であり、新たな“選択肢”といえるだろう。
“選択肢”。つまり、これまでの「スパイダー」の置き換えモデルではない、ということだ。
スパイダーパターは、その初代モデルから慣性モーメントのアップを目指し、ヘッド重心からなるべく遠くに、放射状にウェートを分散配置するデザインを基本としてきた。ヘッドの外周、とくにバックサイドにウェートを集中するデザインで、高い慣性モーメントを有する“ブレないヘッド”となっていた。
実際、現物を見ていただければわかるが、ツアーで人気の「スパイダーX」は重たいウェートをバックフェースの左右に振り分けて配置。「スパイダーS」は、バックサイドの中央に重たいウェートが配置されるように設計されている。高慣性モーメントを追求すれば、バックサイドが重たくなり“深重心”になっていく。これが普通なのである。
では、発売されたばかりの「スパイダー FCG」はどうだろうか。FCGは、Forward Center of Gravityの略。つまり、“前重心”という意味だ。深重心オンリーだったスパイダーシリーズに、あえて浅い重心設計の別モデルを加え“選べる”ようにしたというわけだ。テーラーメイドゴルフのプロダクトマネージャー、高橋伸忠さんはFCGが誕生した背景についてこう説明する。
「従来のスパイダーシリーズは奥行きのあるヘッドで、その高いアライメント効果から安心して構えられる! と多くのゴルファーから好評をいただいてきました。その人気の一方で、実際に使ってみると、なんとなく動きがぎこちない、違和感を感じる、振りにくいというフィードバックが一部のゴルファーからあがるようになりました。その原因はまさに“深重心”であることにありました。本来はブレードタイプのような浅い重心のパターを振りやすいと感じるゴルファーもスパイダーを手にするようになった。そこに振り心地のズレ、使いにくさが生じてしまったのです」
そこで“深重心が普通のマレットなんだけと、あえて前重心にする”という発想が生まれた。見た目は安心感のあるネオ・マレットそのものだが、振った感じや操作性はもう少しソール幅の狭いブレードパターのように感じられる。そんなタイプを用意したわけだ。
「慣性モーメントの数値は少し小さくはなりましたが、それでも通常のブレードタイプよりは遥かに大きな寛容性を備えています。今まで大型マレットが苦手だった人でも、心地よく使える可能性が高い新しいマレットパターだと思っていただきたいですね」(高橋さん)
スクエアインパクトしなければマレット効果は得られない
ブレードが合いそうな感覚派でも、ある程度振りやすいと感じる雰囲気を出すために“深重心にし過ぎない”という工夫。それはこれまでも行われてきたことではある。たとえば、オデッセイゴルフの「#7」、「セイバートゥース」などは、大型のフレームデザインでありながらバックサイドを大きく開口させる“牙デザイン”が特徴。ヘッドの後部に重量を持たせない(深重心になり過ぎない)ことで、ミスヒットに対する十分な寛容性を有しながら、ある程度の操作性を確保しているわけである。
実際、“パターの振りやすさ”については千差万別である。基本的には多くのモデルを打ち、イメージしたテンポで、思っていた方向に、思っていたスピードでボール打ち出せるものを、自分で選ぶしかない。ネオ・マレットがミスヒットに強いというのは“インパクトでフェースが正しく狙ったラインに向いていれば”の話である。向きが合っていれば多少上下左右に打点がズレてもその方向に同じようなスピードで転がりますよ、ということである。
インパクトで狙いよりも右や左に向いてしまったフェースをスクエアに戻すチカラは、ネオ・マレットにはない。むしろ、右や左に向いたフェースをキープするチカラが強いのが最新の高慣性モーメントクラブなのである。
最新パターには同じヘッド形状で複数のネックパターンがあるモデルが多いが、これはネックパターンによってフェースの開閉具合(重心アングル)が変わるからだ。「スパイダー FCG」がいいなと思ったら、すべてのネックパターン(ダブルベンド、ショートスラント、クランクネック)を試し、最も狙った方向に打ち出しやすいモデルを選択するべきである。
タッチ(飛距離)の前に方向性が大事。それがパターに限らないゴルフクラブ選びの基本であると思う。