今週開催の「TOTOジャパンクラシック」にディフェンディングチャンピオンとして臨む鈴木愛。相性のいい大会でショット、パットともにかみ合ってそろそろ爆発しそうな昨年の賞金女王のスウィングに、プロゴルファー・中村修が注目した。

ビッグマイナーチェンジ

国内開幕戦「アース・モンダミンカップ」でプレーオフの末2位で今シーズンをスタートした鈴木愛選手ですが、10試合を終えて未勝利。トップテン入りも開幕戦を含めた2回にとどまっています。

コロナ禍で出場を目指していた東京オリンピックが延期となり、シーズンの開幕も延期されたことなど気持ちの面での影響はもちろん大きいと思いますが、今シーズンの序盤は得意のパットに苦しんできました。ところが、直近のデータを見るとパーオン時平均パット数は3位(パーオン率29位)。棄権したスタンレーレディスを除く直近3試合の平均パット数を見ても、28.00、28.33、27.67といい数字が並びます。ショットとパットが噛み合えば、そろそろ一勝目がくる予感がしているのです。

さて、そんな鈴木選手のスウィングを、昨年までのスウィングと比べて見ると「ビッグマイナーチェンジ」といえるほど変化させています。その変化を見てみましょう。

画像: ビッグマイナーチェンジともいえる大きな変化を見せる鈴木愛(写真は2020年三菱電機レディス 写真/姉崎正)

ビッグマイナーチェンジともいえる大きな変化を見せる鈴木愛(写真は2020年三菱電機レディス 写真/姉崎正)

どの選手も日々改良を続けながらシーズンを戦っていますが、鈴木選手も同様で、グリップのわずかな変化やテークバックとダウンスウィングで独特のループを描く部分を少なくするなど改良しながら昨年の成績につなげていました。

今季は左右への移動、とくにテークバックでの頭(上半身)の位置に大きな変化が見られます。昨年まではトップで右足の甲の上にあった頭が今季は右ひざの内側に収まっています(画像A)。このように、バックスウィングで頭が移動する量を減らすと、切り返しで左に移動する量を減らすことができ、スウィングの安定感を高め、体への負担を減らすことができます。

昨年7勝もしたスウィングを変えなくてもと思うかもしれませんが、体の状態は毎年同じではありません。判断の難しいところではありますが、総合的に考えての改良だと考えられます。頭を移動させたり、ループを描く部分は変わっていませんが、とくに頭の移動量は減っていることから「ビッグマイナーチェンジ」と表現しました。

画像: 画像A 左は2019年の3月と右の2020年10月のトップで頭の位置を比較するとその変化が確認できる(写真左は2020年ダイキンオーキッド 写真右は2020年三菱電機レディス 写真/姉崎正)

画像A 左は2019年の3月と右の2020年10月のトップで頭の位置を比較するとその変化が確認できる(写真左は2020年ダイキンオーキッド 写真右は2020年三菱電機レディス 写真/姉崎正)

さて、頭の移動が少なくなれば、飛ばすための3つのエネルギーである横方向の力(水平方向への移動)、回転力、縦の力(地面反力)のうち、横方向の力が少なくなります。

その分、回転力や縦の力を上げてエネルギーを確保する必要が出てきます。実際に計測してみないと正確には言えませんが、鈴木選手の場合、インパクトで左ひざを伸ばす動きが少ないので回転力で補おうとしているように見えます(画像B)。

横への移動を減らし、センターに太い軸を置いて回転力で飛ばすようなイメージに変化させているといえるでしょう。コースでは平坦なライばかりではないので、横方向への移動を少なくすることでショットの安定感は増すはずです。

画像: 画像B 来年の東京オリンピックに向け横方向の移動を少なくしショットの安定、体への負担を減らす(写真は2020年三菱電機レディス 写真/姉崎正)

画像B 来年の東京オリンピックに向け横方向の移動を少なくしショットの安定、体への負担を減らす(写真は2020年三菱電機レディス 写真/姉崎正)

来年までつづく長いシーズンを戦い抜く上で、現在は自分の感覚と実際の結果を見ながら試合の中で仕上げていく真っ最中なのだと思います。

先週の「樋口久子三菱電機レディス」の2日目、鈴木選手はパーオン率50%とショットの調子が今一つでしたが、25パットとショートゲームに冴えを見せてスコアを作っています。その日を1オーバーで留めると、最終日は2アンダー「70」のスコア以上に大きく爆発しそうなプレー内容でした。本人もスウィングやパッティングのことを口にするのではなく「流れが大事」と話すあたり、そろそろ流れをつかんで爆発する予感がしています。

鈴木選手はドロー、フェードを打ち分け、ピンを狙うショットではスピン量も打ち分け高い技術を駆使して攻めるタイプですので、改良したスウィングと弾道の打ち分けがマッチしてくればさらに強い鈴木愛に進化してくるでしょう。来年の東京オリンピックへ向け長いスパンでその進化を楽しみにしています。

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